第102話 姉妹の陰謀


 屋敷が突然戦闘状態になっているのを山の頂上から遠巻きに見ている者が居る。


 一人は黒髪お団子ツインテールの妖艶な美少女で下らなそうに眼下の戦いを見下ろしている。

 ウマカイの屋敷は町から外れて山の中腹にある。

 故に山の頂上からは悠々と戦闘を見ることが出来るのだ。


 ツインテールの少女である水江宮ハミは冷然と言った。


「くだらない連中。お父様とは大違い」


 吐き捨てるように呟くハミ。


 そして隣にも二人の女性が居る。

 綺麗な金髪を膝まで伸ばした肌の白い美女で陰鬱な顔をしている。

 顔色は白いと言うよりは病的に青白く、心が病んでいるようにすら見える。

 

 ハミ姫はその金髪の超美人に声を掛ける。


「ムーはどう見る? 」

「どうでもいい……」

「それもそうね……」


 それを聞いてあきれ顔で答えるハミ姫。

 もう一人はと言えばこちらは柔和な笑みの女性で穏やかそうな黒髪ボブカットの美人である。

 ハミ姫同様に十二単を着ているが、こちらは物静かな青と白を基調とした佇まいで知的な印象を受ける。

 ハミ姫はその優し気なボブカットの美女に声を掛けた。


「ジュニ。そろそろ帰りましょう。これで問題ないんでしょ? 」

「はい。お姉さま。カギリ。そろそろ帰りましょう」

『わかった』


 三人の後ろに居た白い貝を繋ぎ合わせた貝人間のような晶霊が笑顔で答えた。

 こちらは見るからに怪しげな晶霊で顔色が悪い。

 その様子を見て、つまらなそうに金髪超美人が尋ねる。


「仕事はこれで終わり? 」

「そうよ。これで全部よ。こいつらが勝つかどうかはわからないけど、これで終わり。後はツツカワが攻めてきて西海は後顧の憂い無く出兵できるわ」


 つまらなそうに答えるハミ姫。

 ウマカイにやらせたのは『もうすぐ大戦が始まるから西海を牛耳る準備をしておけ』だった。

 もっともこれはただの誘い水である。


(カギリとジュニが上手いことヒロツグを唆したみたいね……)


 自分の妹たち手際の良さを感じるハミ姫。


「さあ、こんなくだらないところにいつまでも居ないで帰るわよ。ムー=ミナ送って頂戴」

「わかったわ姉さん」


 そう言って帰ろうとする二人だが、その動きが止まる。


『はぁはぁ……』


 ものすごく紅潮した顔で戦場を眺めている青い髪に透明な体のクラゲのような晶霊が居た。


(また、めんどくさいところが始まった……)


 嫌な顔になるハミ姫。

 

『ね、ねえ……ちょっとだけ戦に参加させてくれない? 』


 そう言って黄色の着流しを着た片腕の晶霊を指さす。

 

『が、合体したいの! 彼と色々合体したくてたまらないの! 』


 それを聞いて呆れかえるハミ姫。

 このクラゲ型の晶霊は少々困った悪癖があるのだ。


「姉さん……」


 困り顔で姉の顔色を窺うムー。

 それを聞いてため息一つ。


「少しぐらいならいいわよ」

『やった! 』


 嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるクラゲ型晶霊。

 少しだけ大地が揺れたのでハミ姫はふわりと浮かんでやり過ごす。


「ごめんなさい姉さん」

「半刻だけよ。ちゃんと守りなさいよ」


 そう言って懐中時計を取り出して時間を計るハミ姫。


「お姉ちゃんが時間にうるさいのは知ってるわよね? 」

「大丈夫。ちゃんと守らせるから」

「じゃあ、行ってきなさい。でも先にカギリたちを帰してあげて」

『わかった! 』


 嬉しそうにお礼を言うミナのお腹へと向かうムー。


ドバシュ!


 にゅるんとムーがお腹に入るとミナは手をかざし始める。


フォン!


 奇妙な音を立てて、目の前の空間が歪み、丸い輪っかが生まれる。

 輪っかの後ろには違う場所の光景が開かれており、どこかの大きな屋敷の庭のようだ。

 ジュニと呼ばれた黒髪ボブカットの美女は不思議そうに尋ねる。


「姉さんはどうするの? 」

「一応、ムーを見ているわ。あなたたちは先に帰って色んな準備をしておいて」

「了解。じゃあ、姉さん。先に行ってるわね」

『お先』


 そう言ってカギリとジュニの二人は輪っかをくぐった。


ブォン!バシュン!


二人が居なくなるや否やでミナはアウルを吹かしてすっ飛んでいった!


 後に残されたのは砂煙とハミ姫のみである。


「まったくしょうもない……」


 あきれ顔になったハミ姫だがふと何かの気配に気づく。

 ふっと自分の上を何か大きなものが通り過ぎたのだ。

 見上げてみると巨大な鰐が上を通り過ぎたのだ。


 それも10M近い大きさのワニが。


 ワニは明らかにハミ姫を狙っている。

 一方でハミ姫は誰一人と護衛を着けておらず、晶霊も近くに居ない。

 しかも山の頂上なので木が生えておらず隠れる場所もない。


 絶体絶命のピンチにもかかわらずハミ姫はにやりと笑う。


「こっちはこっちで退屈しなさそうね」


 そう言ってハミ姫は十二単から両腕を出して腕まくりをした。

 その手の指にはきらりと指輪の宝石が光った。


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