第100話 敷かれた道
一方、太宰府においてはウマカイへ伝令を走らせていたのだが……
伝令を放った晶霊士の一人が声を上げる。
『ホーリ大毅! ヨミ殿とトーノ殿が勝手に出撃しました! 』
『やっぱりか……』
あきれ顔になるホーリ大毅。
西海太宰ツツカワ親王の相棒で西海の晶霊のボスでもあるホーリ大毅からすれば命令違反も甚だしいのだが、相手が相手だけに言いづらい。
(あの方たちらしいのではあるが……)
ヨミは剣術の師匠であるし、トーノは都でも有数の武人だ。
言いにくい相手だけにどう対応するか悩みどころなのだ。
(さてと、どう言えばやめてくれるのやら……)
ホーリ大毅が止め方を悩んでいると晶霊士が声を上げる。
『ただ、伝令によるとウマカイは兵を集めているようです! 』
『うん? 』
ホーリ大毅の額に皴が入る。
現在は戦の話は小康状態で特に何も発令していないし、領内の盗賊討伐の届け出も出ていない。
つまりは兵を集める理由もない。
明らかに不可解な対応にホーリは訝し気に思案する。
(……反乱の準備をしていたのか? )
西海太宰が来てからは西海が穏やかになったのは事実だが、同時にそれが困る人間も居る。
ウマカイはその一人でもある。
元はイワイという郡司と共に西海の覇権を争ったほどの郡司なので、その勢力範囲はヒムカの国司を上回っていた。
だが、西海太宰がイワイを討滅し、他の不穏分子を次々と叩いたため、ウマカイは孤立。
勢力範囲内に居た他の郡司も次々と西海太宰に従うようになり、気が付けば元の領地のみになっていた。
(どこで聞いたかは知らんが我々がもうすぐ西海を出ることを知っていたようだな)
一番の目の上のたんこぶが消えたのだから、すぐに行動を起こす準備をしていたのだろう。
(そうなるとヒロツグの行動はただの誤算か……)
バカ息子の行状によって自分の悪事が露見したのだ。
つくづく運の無い男でもある。
とはいえ、そうなると別の心配もある。
『フキアエズは大丈夫なのか? 』
フキアエズは太宰府の官僚と共に使者として先行している。
ヨミ達よりも遅れて出ているので、夕方ごろには就く予定である。
ホーリ大毅にとって、フキアエズは自分の名代であると同時に『相棒を持たせない』ようにしている兄弟である。
色々と割を食わせている弟なので大事なのだ。
『フキアエズ様は『場合によってはヨミ殿と合流して上手く対応します』と言われております』
『それなら大丈夫だな』
一安心するホーリ。
フキアエズは地味ながらも堅実な戦略を取るタイプである。
晶霊士でも無いのに隊長を任せたいと思ったことがあるので『軍師』として軍団の運営を任せているぐらいだ。
(本来なら私よりもツツカワの相棒に相応しいのに……)
生まれた順番の関係でホーリがツツカワ親王の相棒になっているが本来はフキアエズの方が優れていると彼は考えていた。
「どうしたホーリ? 」
ホーリ大毅の相棒でもあるツツカワ親王が現れた。
後ろには困り顔のアント郡司も居る。
『ふむ……実はな……』
伝令から聞いた内容をそのまま伝えるホーリ大毅。
するとツツカワ親王の眉間に皴が入った。
「うん?……これは一体……」
訝し気なツツカワ親王の様子に不思議がるホーリ大毅。
(どういうことだ? )
自身の相棒の言動に変なものを感じるホーリ大毅。
「ホーリ。ちょっと中に入れてくれ」
『わかった』
迷わず着流しの前を開きお腹を見せるホーリ大毅。
ツツカワ親王はそのまま中へと入る。
腹話は他の人に聞かれない一番の方法である。
(すまないな。ちょっと不可解な気がするからな)
(何があった? )
(うむ……兄上から『ウマカイのことは俺に任せろ』と言われていたのだ)
(……何? )
ツツカワ親王の兄上とはもうすぐ皇位継承争いをする予定のエーエン親王である。
(もっとも大きな懸案だったウマカイが反乱準備となればこちらは遠慮なく潰せる。タイミングが良すぎると感じてな……)
(なるほど……)
倒しておきたい相手に都合の良い口実が出来たのだ。
いくら何でも出来過ぎである。
(とはいえ、ヒロツグが誘拐したのは偶然だろう? そうでなければそれも知ることが出来なかっただろう? )
(確かにな……)
あまりにも話が出来過ぎている。
ホーリ大毅がぼやく。
(あまりに都合の良い話には裏がある)
(それも良からぬ裏がな……)
ツツカワ親王もお腹の中で神妙にうなずく。
(まあいい。どのみちヨミ殿たちが先に行ってるから、下手すりゃもう戦争が始まってる)
(手遅れだったか……)
あきれ声のツツカワ親王。
それを聞いてホーリ大毅はウマカイを討伐する覚悟を決める。
ここは思い切りよく乗るべきだろう。
『全軍に伝える! これより我らはヒムカへ進撃する! 』
ホーリ大毅の声が高らかに響いた。
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