第82話 流刑人
その家は非常にみすぼらしかった。
茅で葺かれた屋根だけの家で一応、戸口に茅で編まれた菰(こも)が付いているがそれだけである。
ツツカワ親王とアント郡司があばら家に入ろうと菰を避けて中に入る。
するとオトが困った顔になる。
「……今時、こんな家には乞食でも住まないぜ……」
入るのを嫌がるオト。
だが、今度はラインが険しい顔で言った。
「……中に入ったら口が裂けてもそんなこと言うなよ? 」
そう言ってじろりとオト睨む。
あまりの剣幕にたじろぐオト。
瞬はその様子に逆にじろりと睨み返すのだが、刀和が間に入る。
「ラインの言う通りだよ。中に住んでいる人に失礼だよ? 」
そう言って宥めるがラインが悲しそうに言う。
「……そうじゃないんだトワ。ここにいる人は本来、こんなところに住むべき人物じゃないんだ……」
「……えっ? 」
悲しそうなラインの言葉に訝しむトワ。
「……先に入ってるぞ」
そう言ってラインが中へと入っていく。
不思議そうな顔をして三人もそれに倣った。
中は意外に綺麗になっており、菰を敷いただけの簡素な家だったが、囲炉裏もあり、それなりに快適そうな家だった。
すでにツツカワ親王とアント郡司は住人と向かい合って話をしているのだが……
それを見た4人が訝し気な顔になる。
明らかにツツカワ親王が話している相手が異質だからだ。
見た目は40歳から50歳ぐらいのおじさんだろう。
ダンディーなおじさんで薄く髭を蓄えている。
佇まいも非常に落ち着いており、優しそうな目をしているがそこからは深い知性を感じられる。
一言で言えば高貴な人物だった。
目の前にいるツツカワ親王が皇族の皇子だと言うのに、同等かそれ以上にすら見えた。
見た目から溢れ出るオーラが若輩の刀和達が見ても違うのだ。
自然に4人が委縮して畏まって正座する。
ツツカワ親王は話をそこそこに切り上げて、刀和達の方を振り向く。
「紹介しよう。この方はドーム=スガヤマ様だ。知っていると思うが非常に学識豊かな方なので粗相の無いように」
それを聞いてラインとオトが凍り付く。
一方で知らない刀和と瞬はきょとんとしていた。
とりあえず頭を下げる4人。
頭を下げながら瞬はオトに小声で尋ねる。
「この人だれ? 」
「……都で太政大臣として様々な改革を成功させた人だよ! この方のお陰で一時期は皇国から賊が居なくなったと言われるほどなんだよ! 」
オトが説明するにはこうだ。
「昔、今以上に天下が荒れていた時に宰相になった方で様々な改革を断行して、皇国から賊が居なくなり、民は
ちなみに鼓腹撃壌とは腹太鼓と足でリズム取って踊ることで、民衆が平和を謳歌している様子を表す。
それを盗み聞きしたのか渋い顔で答えるドーム。
「もっとも、今はこんな状態だけどね」
「し、失礼しました! 」
さらに深々と頭を下げるオト。
重力が軽いせいか、勢いでふわりと体が浮いてしまう。
それを見てツツカワ親王が笑う。
「今日は特別に君たちに授業してもらいたいと思ってお願いした。なんでも尋ねてみると言い」
「「「「はい! ありがとうございます! 」」」」
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