第81話 街はずれのあばら家
しばらく泳いでいると市街地から外れ、民家が少なくなっていく。
都市を囲む曲輪を出ると、田畑が一切無いので荒れ地のみとなっていく。
そこに気付いたオトが訝しむ。
(何でこんなところに来るんだろう? )
普通、町から出るときは晶霊を連れて行く。
巨大な猛獣が多い月海では共に歩まないと大変なのだ。
しばらく泳ぐと一つのあばら家が見えた。
あばら家が見えたのだが……四人全員が目を見開く!
(何よこれ……)
瞬が異様な雰囲気に震えた。
大き目の竪穴式住居が何もない場所にぽつんと建っている。
それ自体は普通の竪穴式住居のあばら家で屋根に穴が開いているのが遠目からでもよくわかる。
この世界にも竪穴式住居はあるが、基本は余程の下層民で無いと住んだりしない。
一言で言えばこの時代のバラック住まいである。
だが、そのあばら家の周りを10人近い男たちが監視しているのだ。
一応、ちゃんとした狩衣を着ており、どこか大きな貴族の家人であることには間違いなく、弓矢を持って武装している。
だが、どう見てもあばら家を監視している。
オトの目が険しくなる。
(この場に居るのは10人ということは……30人態勢で監視している? )
この世界でも24時間勤務は存在しており、主に監視役が行っている。
俗に言われる4―2交代制で、このやり方を取る場合は最低でも通常の三倍の人員を確保する必要がある。
(こんなあばら家にそれだけの監視とは一体……)
オトが訝しんでいると、ラインの目が険しくなった。
「まさか……あの方が居るのか? 」
事態に気付いたラインは困った顔をした。
不思議そうな顔でラインに尋ねる刀和。
「知ってる人? 」
「ああ……会ったことは無いけど知ってる……」
悲しそうな顔になるライン。
前を進むツツカワ親王に監視役の男たちが前をふさいだ。
「止まれ! この先は進んではならん! 」
「西海太宰のツツカワだ。ドーム殿にお会いしたい」
そう告げるツツカワ親王。
だが、監視の男たちは言った。
「西海太宰の命であっても聞けません! お引き取り願います! 」
それを聞いて目を見開く刀和と瞬とオト。
ツツカワ親王は今上神皇の皇子であり、この西海太宰を取り仕切る責任者である。
その一番偉い人の命令が聞けないと言うのだ。
「トーカ家の氏長者にお伺いしてください! ここはトーカ家の管轄区域です! 」
男たちの言葉に唖然とする刀和と瞬。
皇族であり、その地の責任者の命令よりも一貴族の命令の方が上なのだ。
(神皇が……一番ではない? )
悲しい現実である。
王による独裁が正しいわけでは無い。
だが、王以外の独裁も正しいわけでは無い。
下の立場を利用して好き放題していいわけでは無いのだ。
だが、それがまかり通っているのだ。
しばらく押し問答をしていたが、じきにアント郡司が袋を取り出す。
「まあまあ、今日の所はこれで……」
そう言って袋を渡すアント郡司。
監視役の男は受け取って中身を確認すると、珊瑚がポロポロ出てきた。
珊瑚はこの世界の通貨である。
それを見たオトはショックを受けた。
(親父が……賄賂だと? )
アント郡司は剛直な人物で汚い真似をことさらに嫌う人物でもある。
娘のオトが狡賢く立ち回ろうとすると、そのたびに烈火のごとく怒り狂って叱りつけるような父親でもあった。
そんな怖いけど実直な父親を見てきたオトとしては目の前の光景が信じられない。
一方、監視役の男はにやりと笑う。
「ここは誰も通っていない! 良いな! 」
そう言って袋を回すと監視役の男たちはそれぞれ袋の中身を取り出していった。
ツツカワ親王が仏頂面で刀和達についてこいと促し、ふわふわと泳いであばら家へと向かう。
4人は何とも言えない表情であばら家へと入っていった。
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