第76話 覗きイベント?


 お風呂の仕組みも脱衣所も無重力でフワフワ浮きながらやる事以外は地上と変わらなかった。

 しいて言えば奥がサウナのようになっており、手前が水風呂になっている。

 無重力故に上から覗きやすいので屋根がきっちりついており、灯りとして行燈が置かれているが、それ故に幻想的な風景になっている。


 脱衣所は日本と変わらないが、脱衣籠が袋戸式(ロッカー式)になっていた。

 服がフワフワ浮くので棚だけだと危険なのだ。


 刀和は脱衣所でまず、水干すいかんから脱ぐ。

 狩衣はめんどくさそうに見えるが構造はわりと簡単で、水干と呼ばれる上着にひとえと呼ばれる上下の下着が付いているだけである。


 水干すいかんは文字通り泳ぐための服で、ひとえはもんぺのようなズボンで上の着物と一緒に帯で締める簡素な服である。

 ちなみに女性用の白拍子の服も名前が違うだけで構造は一緒である。


 刀和はその下にふんどしを着けているが、実はこの世界では女性も下から覗きやすいという理由でふんどしを着けている。

 刀和はふんどしを脱ぎ、脱衣籠に入れて袋戸を閉める。


「入ろうぜ」

「うん! 」


 二人は手ぬぐいを手にお風呂場へと泳いで入る。

 中は混んでおり、空中を泳いで移動する者、のんびり休む者、垢をこする者、水風呂に入る者……様々な人たちがのんびり憩いのひと時を楽しんでいた。


「ふぅ……」

「へぇ……」

「ほう……」


 気持ちよさそうに水風呂に入っているおっさんたちの頭の上を泳いで通り過ぎる刀和とライン。

 するとおっさんの一人が声を上げる。


「兄ちゃん! えらいデカいもの持ってんなぁ! 」

「本当だ! でっけぇ! 」

「立派なもんだなぁおい! 」


 それを聞いて全員が刀和の股間の注視し始める!


「ちょっ! やめてください! 」


 慌てて隠そうとする刀和だが……


ガシィ!


 急にラインが羽交い絞めをする。


「もっとよく見てもらえって! お前のはデカいんだから! 」

「ちょっ! 放せって! 見ないでって! というか拝まないでください! 」

 

 色々と揉めてしまってサウナに入るのが遅れてしまう。


 とりあえずラインの頭に拳骨を落としてサウナに入る刀和。


「叩くこと無いのに……」

「友達を晒しものにしといて何を……」


 仏頂面でサウナの奥へと入っていく刀和。

 サウナは床から湯気が出る仕組みで相当熱い。

 刀和とラインは空いていた場所に座り、軽く屈伸などを行う。


「ふぅ……」

「熱いな……」


 のんびりとサウナを楽しむ刀和だが一つだけ気になったものがあった。


「何あれ? 」


 壁に開いた無数の穴を見て訝しむ刀和。

 ある一面の壁だけが異様にボコボコなのだ。

 丁度指が入るぐらいの穴が壁に無数に空いていた。

 するとラインがぼやいた。


「いや、前に覗こうと思って穴をいくつも開けたんだけど、そのたびにふさがれちゃって……」

「どーりで覗こうとも言わないわけだ」


 すでに覗きイベントは終わった後だった。

 ラインが抗弁する。


「いや、そこは男だから考えるだろ? 」

「まあ、わかるけど……」


 そう言って笑う刀和。


「もう開けられないの? 」

「向こう側から鉄板置かれちゃってねぇ……穴開けるの無理だわ」

「どうせなら僕が来てからやって欲しかったな」


 刀和は刀和で女の子が気になるお年頃である。


すると……


 メキメキ


 板が軋むような音が女湯から聞こえた。

 男湯の全員が不思議そうにそちらを見る。

 当然ながら刀和もラインも不思議そうにそちらを見る。


「なんだろ? 」

「板をはがしてるんじゃねぇの? 」

「まさか」


 男は見られても平気だが、女は嫌がるものである。

 イチイチ鉄板をはがす理由は無い。


「なんか工事してるんじゃねぇの? 」

「そうかなぁ? 」


 刀和は不思議そうに首を捻った。

 すると、向こう側から女の子の声が聞こえた。


「ちょっやめてよぉ♡ あんっ♡ そ、そんなところ触らないでぇ♡ 」

「やめて♡ そこは感じちゃうの♡ 」

「ああぁん♡ 乳首立っちゃったじゃない♡ 」


 それを聞いて微妙な顔になる二人。


「ねえ? あの穴って一個ぐらいは向こう側見えないかな? 」

「諦めろ。どの穴もこれ以上ないってぐらいにふさがっている」


 悔しそうに恨めしそうに女風呂の方を見つめる二人。

 すると、後ろから声がかかった。


「お背中流しますよ? 」


 襦袢姿の妙齢の綺麗な女性が垢スリ用のたわしを持って座っていた。

 湯女ゆなと呼ばれる女性で垢すりをしてくれる女性だが、所によってはエッチなサービスをする女性である。

 襦袢がぴったりと体に張り付いており、体のラインがくっきり浮かんでいるのでちょっとエロい姿である。

 湯女は艶然と微笑んで刀和に声を掛けた。


「良ければ背中を流しますが? 」

「おう頼む! こっちにもな! 」

「僕は別に……」

「背中は洗えないだろう? 」


 そう言ってラインは刀和の分も頼む。

 

 ちなみにこの時代の垢すりは原始的なブラシ式なので背中はこすれないのだ。

 

 刀和は恥ずかしそうによろしくお願いしますと言った。


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