第57話 無窮須臾


 黄衣の剣士ヨミの黒い大剣は海賊スミトの体を横一文字に両断した!


ブシャァぁぁァァァ!!!!


 二つに分かれた体から血が噴水のように噴き出して辺りを血煙で覆う。

 ふわふわと同じように両断されたスミトの死体も流れて行った。


『なん……で……』


 ダンケルは痛みにマヒしてわからなかった。

 そんなダンケルに平然と答えるヨミ。


『この剣は『無窮須臾』……』


 無窮は永遠

 須臾は一瞬


 すなわち……


なんだわ。だから刃が『通る時間』が生れない。通れないんじゃ切れないわなぁ……』

『なん……だと……』


 呆然とするダンケル。


『なんで……拾った剣を……』


 壊れないと知っていれば普通に使えばよかったのだ。

 わざわざ拾った剣で苦労する必要などなかったはずだ。

 するとヨミはにやりと悪戯っ子のような笑いを浮かべる。


『普通に戦えば壊れない剣ってわかって対策練られるだろ? そうなると逃げる可能性もあったからな。何しろ、あのお姉ちゃんの方を狙った方が得だもんな! 』


 実はその通りだった。


 ヨミなど相手をせずにヨミの相手は部下に任せてトヨタマを追いかけた方が良かったのだ。

 海賊スミト=ダンケルがそう考えなかった理由は一つ。


 ヨミが倒せそうだったからだ。


 一から十までヨミの手のひらで踊っていたのだ。

 

 一見無意味な合体も……

 一見無意味な拾った剣も……


 わずかなことではあるが、全て海賊スミト=ダンケルを倒すための布石だった。


『……ちく……』

 

 ダンケルは畜生と言おうとしたがその前に息が切れた。

 そのまま動かなくなるダンケル。


 周りで見ていた晶霊たちが叫ぶ。


『強い!……なんて強い奴だ! 』『ひぃぃぃぃ! 』『逃げろぉ! 』


 それを聞いてヨミは苦笑して言った。


『俺が強いんじゃねぇよ……お前達が弱いだけだ……』


 もう完全に戦意を喪失させた海賊たちは蜘蛛の子散らすように逃げ始める!

 だが……逃げようとした体勢のままで凍り付く。


『そうそう逃がしてやると思うか? 』


 一人の威風堂々とした鎧を着けた晶霊が腕組みして睥睨していた。


 西海大毅ホーリが海賊たちを睨んでいた。


 いつの間にか300騎近い晶霊がすでにリューグの町を囲んでいた。


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