第58話 西海太宰府軍
『あ……ああ……』
海賊たちが呆けたようにその様子を見る。
リューグの町は完全に包囲されており、もはや蟻も這い出る隙間もない。
海賊たちの目の前には威風堂々とした晶霊が一人立っている。
その晶霊のイメージは一言で言えば鰐だろう。
緑色の肌にゴツゴツとした筋肉の隆起が見え、いかにも強そうだ。
そのせいか顔がゴツゴツしており、非常に恐ろし気な強面である。
そんな如何にも強そうな晶霊の脇には、負けず劣らずの精悍な顔つきをした晶霊たちが並んでいる。
数名が鎧を着けており、晶霊将の中でもかなりの格上の晶霊たちだ。
装甲魚の鱗の鎧を着けており、手には大亀の盾を持っている。
それほどの格上の晶霊将がずらりと並んでいるのだ。
そんな晶霊たちの一人にトヨタマとよく似た鮫型の晶霊が居り、その後ろには家老オトシゴに肩を貸してもらっているトヨタマがいた。
『なんで……』
呆然とする海賊の言葉に西海大毅ホーリが厳かに声を上げる。
『最初からだよ……お前たちがリューグの近くに集まっている情報があったから来たまでだ』
彼らが早く着いた理由は簡単で、連絡が来る前に気付いて出立していたのだ。
晶霊たちの後ろには逃げて行ったリューグの領民が町に帰る準備をしている。
『この西海八州の太宰ツツカワ親王と大毅ホーリがそう簡単に攻撃を許すと思うか? 捕らえよ! 』
大毅ホーリの言葉にバタバタと晶霊が海賊を捕らえに動き出すが、海賊はもはや完全に戦意を喪失しており、大人しく捕らわれて行った。
それを悠々と見ながら、大毅ホーリがスタスタとヨミへと近づく。
『助太刀を感謝します。お怪我はありませんか? 』
それを聞いてポリポリと頬をかくヨミ。
『あー……それは無いのだが、誰か毛布を持ってきてくれんか? 』
『毛布ですか? 』
『お腹にけが人が居てなぁ。出来れば女が良い。あまり、人に見せられない状態なんだ』
『わかりました。おい誰か! 毛布と女を! 』
瞬く間に毛布を持った女性が来た。
たまたまではあったが来たのは美人熟女のチュラだった。
『丁度良かった』
そう言って着流しの前を開き、中から二人を出すヨミ。
最初に出てきたのは刀和だった。
「ぶえっぷ! 」
「えっ? トワさん? 」
チュラがきょとんとするが、その後ろからでてきた瞬の姿を見て顔を引きつらせる!
「早く瞬を! 」
「えっ? あ、はい! 」
慌てて毛布で瞬をくるんで連れて行くチュラ。
それと同時に着流しの前からにゅるんとアカシが出てきた。
『ふぅ……』
恥ずかしそうに顔を赤くしながらでてくるアカシ。
それを見て呆然とする大毅ホーリ。
『……合体してたんですか? 』
『必要だったからな! 』
嬉しそうにニヤニヤ笑うヨミ。
それを見て苦笑するしかない大毅ホーリ。
肩を借りながらトヨタマがやって来てアカシをねぎらう。
『本当……何て言うか……ご愁傷様です』
『まさか合体する羽目になると思わなかったわ! 最悪よ! 』
恥ずかしそうに言うアカシ。
その姿に前から感じていた違和感を尋ねる刀和。
「その……合体ってそんなに恥ずかしい事なの? 」
不思議そうに尋ねる刀和に恥ずかしそうに言うアカシ。
『当り前でしょ! 人前でするもんじゃないわよ! 』
ぷりぷりと怒るアカシ。
だが、刀和は何故怒っているのかわからずに不思議そうに尋ねる。
「でも……別に副作用とかないんでしょ? 」
それを聞いてカチンときたアカシは刀和の方をじろっと睨んで叫ぶ。
『妊娠したらどうすんのよ! 』
アカシの言葉に硬直する刀和。
大毅ホーリが困った顔で教えてくれる。
『あー……知らんかったみたいだが…………晶霊の合体は人間で言う性交のことだぞ? 』
それを聞いて凍り付く刀和。
『元々、晶霊や晶物は戦いの時に雌雄が合体する事で子供を作るんだ。もっとも、今となっては戦闘中にそんなことする奴はおらんが……』
大毅ホーリが困り顔でさらっと説明する。
アカシは尚も猛然と抗議する。
『大体! その剣が斬れないってわかってたら、合体する必要なんてなかったじゃない! 』
『そーんなことないよ。ほら、俺片腕だし、ハンデ多いし』
ひらひらと右手で存在しない左腕を指さして飄々と答えるヨミ。
その言い方に反省の色が全く見えない。
「なーんか変な感じしたと思ったら……合体したいからピンチを演出してたな……」
ジト目で刀和が睨む。
だが、ヨミはしれっと西の方を見る。
天井にある大氷海から入る青い夜の光と白い朝の光の境目が見えていた。
この世界では朝は西から昇るものである。
『そろそろ夜が明けるな。明日はいい天気になりそうだ』
「こっち向いてしゃべれぇぇぇぇ!!! 」
ヨミの足をどんどん叩く刀和。
それを見てゆっくりと頷くヨミ。
『それに関しては言えることは一つだ』
「なに? 」
『とってもよかった♪ 』
『ふざけんなぁぁぁぁ!!! 』
どんどんとパンチするアカシだったがヨミに軽くあしらわれてしまった。
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