第56話 決着


 ダンケルは剣を下段に構え、ヨミは霞の構えを取る。

 霞の構えとは剣の刃先を敵に向けて上段に構えるもので、ヨミが片手の時から多用していた構えだ。


 基本は相手の目を狙う構えで『突き』に特化した構えである。

 ダンケルは構えを見て訝しむ。


(斬ると刀が折れると考えたみたいだな……)


 ダンケルの体にはハリセンボンのように針が無数に飛び出すので斬れば折れるだろう。


(初手を避けてから刀を斬るか……)


 ダンケルは作戦を決めてじっとヨミ見つめる。


(大丈夫だ。おまえなら勝てる)

(スミト……)


 自分の相棒の激励にダンケルは思わず涙が出そうになる。


 ダンケルもまた、立身出世を夢見て上京したのだ。

 地方の田舎武士の家系で口減らしのために追い払われるように上京することになったダンケルだが、そこで弱さを突きつけられた。


 都警護の検非違使の試験にも落ち、旅に出ようと都の外に出た時にスミトに出会った。


 それ以降は見違えるように暴れた。


 盗賊となってから自分をバカにした連中を見返すように倒していき、気付いたときには大海賊になっていた。


 共に夢見て、上京して共に挫折した者同士、再起を図り、それが半ばまで成功して……それが再び崩れるかどうかの瀬戸際まで来ている。


(今はあいつらも様子見だが、勝って無窮須臾を手に入れればその先は上手く行く! )

(そうだな! )

 

 互いに励まし合う二人。

 そして集中する。


 一方でヨミの方も集中していた。


(あいつも決めるみてぇだな……)


 軽口をたたくがその声音は本気だ。

 刀和も気持ちを引き締める。


(お願いします……)


 今できるのは邪魔をしないことだ。

 気持ちを引き締めて集中する。


 双方とも、心を一つにして互いへと向かう。


 ヨミは少しだけ笑い、一足一刀の間合いに入る。


(来るか! )


 ダンケルは初手の突きを避けようとしたその時だった!


ヒュッ!


 ヨミは剣を後ろに回してから下から斬り上げてきた!


((なっ!? ))


 後ろ回し切りという予想外の攻撃に戸惑うダンケルだが、反射的に後ろへと避ける!

 だが、すぐにヨミは水平に横薙ぎした!


(かかった! )


 ダンケルはすぐに右手をかざして防ぐ!


シャキン


 右手から無数のトゲが飛び出す!


そしてその無数のトゲには絶対切断の能力が付与してある。


(無窮須臾は惜しいが仕方がない! )


 ダンケルは一度折るしかないと決め、絶対両断の力を込めて針に力入れたその時だった!


スパン


 ダンケルの腕が綺麗に両断される。


『……えっ? 』


 何が起きたのかわからずに呆けるダンケル。

 刃はそのまま進み……


スパン!


 ダンケルの体を腰のところで上下に両断した!


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