第55話 勝利者に与えられるもの
(やっぱりこいつで戦うしかないか)
ヨミは自分の持っている黒い大剣『無窮須臾』をかかげた。
(……いいの? )
刀和が尋ねるのも無理からぬことで、背中の黒い大剣はかなり業物である。
さっきまで無双出来たのもこの剣の切れ味によるものだ。
なにしろ何人斬っても切れ味が鈍った様子が見当たらない。
(なんか凄い剣みたいだけど、折れたら大変じゃない? )
(ま、何とかなるだろ……)
そう言って黒い大剣の刃をよく見るヨミ。
ヨミが見ているというよりは刀和に見せつけているようだ。
刃こぼれ一つ見当たらない剣を見て不思議そうな刀和。
(普通、あんなに斬ったら斬れなくなりそうなんだけどね……)
(まあ……この剣は特殊でな……)
そんなことを二人で話し合う。
(今は目の前の敵に集中して……)
情けない声で主張するアカシ。
(合体なんて恥ずかしい思いまでして託したんだからお願い……)
(……と、とりあえず敵に集中しよう! )
(おお! そうだな! )
呑気な声で答えるヨミ。
敵はと言えばこれで決めるつもりなのかやる気満々で待っていた。
『そろそろ終わりにしようぜ』
ダンケルがにやりと笑う。
『あっちが気になるんじゃないか? 』
そう言って剣である場所を差した。
その先にはトヨタマが逃げて行った場所がぽっかり空いている。
『……そうだな 』
大分、数が減っていたのでうまく逃げられたようだが、何名かが追いかけている。
トヨタマも疲労の極で、逃げ切れるかどうかわからない。
『ま、西海太宰府から救援の来てるだろうし、そっちと合流するまでだろ? 』
『救援は来ねぇよ。伝令ならもう殺したぞ? 』
「・・・・・・・・・・・・・」
ヨミは一瞬の沈黙の後に尋ねる。
『何のためにここを襲ったかはわからんが、これはもう失敗してるんじゃないか? こんなところでモタモタしないでとっと逃げた方が良いのはそっちの方じゃないか? 』
実はその通りである。
海賊スミトとダンケルの思惑は完全に崩壊しており、ここを太宰府攻撃の拠点にする作戦も略奪の限りを尽くすという目論みも全て失敗している。
襲う前に察知されて領民は逃げているし、戦力は5割前後やられた。
大失敗も良いところである。
だが、ダンケルは笑った。
『ここでこれだけ失ってもなぁ……てめぇを倒してその無窮須臾を手に入れりゃぁ挽回できるんだよ! 』
『難しいんじゃないか? 』
これだけの損害を出すと部下もまともに働いてくれない。
現にこれだけ余裕をもって話せるのも部下が完全に観戦状態にあるからだ。
ダンケルが勝てばそのまま尻馬に乗るだろうが、その後はついてこないだろう。
どちらかと言えば逃げる準備をしているように見えるが、そこを逃げないのはスミト=ダンケルが怖いからだろう。
『俺達悪党は顔で商売してるからな。ヨミを討ち取って無窮須臾を手に入れれば、逆に味方は増える』
『そんなもんかねぇ? 』
不思議そうなヨミ。
だが、すぐに無窮須臾を両手で構える。
『ま、お互い目の前の馬鹿を倒せば万事丸く収まるってことだな』
『そう言うことだ』
ダンケルの言葉を合図に二人は一足一刀の間合いまでにじり寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます