第54話 両手のヨミ
『やっぱり両手が使えるっていいな』
そう言ってヨミがびゅんびゅんと拾った大剣を振るう。
場違いに嬉しそうな声なのでここが戦場と忘れてしまいそうだった。
『……お前はばかか? 』
ダンケルがあきれ顔でつぶやく。
『戦場のど真ん中で合体って……今時やる奴が居るかよ…………』
『俺はやるんだな』
呆れるダンケルとは裏腹に堂々と笑うヨミ。
(なんか相手が心の底から呆れてるんだけどそんな変なことなの? )
(……当たり前よ)
なぜか恥ずかしそうに答えるアカシ。
すると、後の方で剣戟の音が聞こえた。
『はぁ! 』
『ちくしょう! 追いかけろ! 』
後ろの方ではトヨタマが上手い事包囲網を突破した。
トヨタマの姿はすぐに見えなくなる。
『果たして逃げられるかねぇ? 』
余裕綽々のダンケル。
『あの疲れ切った体じゃあ、逃げ切れそうも無いねぇ……』
挑発するダンケルだが、ヨミは平然と答える。
『ふっ、俺が合体した以上、今までのそんじょそこらの雑魚と一緒と思うなよ? 』
『合体する時点で普通と思わんわ! 』
ヨミの言葉にツッコミを入れるダンケル。
それを聞いて不安そうな刀和。
(本当に何の問題も無いの? 体の傷が治って両腕が使えるようになるから良いとこ尽くしみたいに聞いたんだけど? )
(そんなわけないでしょ! 大体こんな戦場のど真ん中でやるようなことじゃ……)
(良いから静かにしろ! 来たぞ! )
ヨミの言葉通りにダンケルは拾った剣で襲い掛かってきた!
ヒュッ!
『うでがぁぁぁぁ!!! 』
『危ない危ない……』
間一髪でヨミは避けたが、後ろで避けきれずにとばっちりにあった海賊の晶霊が居た。
ズパン!
逃げるついでにその晶霊の首を斬るヨミ。
『そらそらそらそら! 』
『おっと!』
ヨミは地面をすれすれに低空ジャンプをして逃げ、そのついでに落ちていた晶霊の死体を投げる。
ヒュヒュヒュヒュ!
投げた死体はあっという間に切り刻まれてバラバラになる。
『それそれそれ! 』
どんどん死体を投げつけるヨミ。
『無駄な事を……』
投げつけられた死体を切り刻むダンケル。
ダンケルには当たらないものの、血煙りで辺りが真っ赤になる。
『こんなことで逃げられるとでも思ったか! 』
そう言って前に突っ込むダンケル。
だが、血煙りを抜けた先には誰も居なかった。
『何! 』
慌てて辺りを見渡してもヨミはいない。
『上か! 』
ダンケルが上を見ると同時に高くジャンプして大剣を構えたヨミが振り下ろそうとしていた。
『ふん! 』
剣を頭の上に掲げて防御するダンケル。
ガキン!
大剣はあっさり斬られて短剣より短くなる。
ヒュヒュヒュヒュフ
その後もダンケルが連続攻撃を仕掛けるが、ヨミはひょいひょい避けてそのまま距離を取る。
ヨミは短くなった大剣をすぐに放り捨てる。
『俺のじゃないからいいけどさ』
そう言って再びその場にある剣を拾う。
(武器まで斬ってしまうなんて……)
(だから下手な能力より厄介なんだよ……)
刀和の言葉にぼやくヨミ。
しばらく手に取った剣を持って考えていたが……すぐに剣を捨て、背中の黒い大剣へと手をかける。
(やっぱりこいつで戦うしかないか)
ヨミは自分の持っている黒い大剣『無窮須臾』をかかげた。
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