第44話 老境
その頃……
そのリューグが見える岩山で、一人の老晶霊がどっしりと胡坐をかいて座り、高見の見物を決め込んでいた。
『元気だねぇ……』
完全に他人ごとである黄衣の剣士ヨミにとってはどうでもよいのだ。
巻き込まれない程度の距離でのんびり見ていた。
『さてと……どこに行けばいいのかねぇ……』
黄衣の剣士ヨミは東国での抗争が落ち着いた後、留めようとする校尉の声を振り切って、西国に来たのだ。
じっと自分の手を見る老剣士。
二つあった腕が一つになり、その手も皴が増えて、加速度的に老いていた。
『そろそろ諦めるか……』
深いため息と共にぽつりと呟いた
黄衣の剣士ヨミは何故か旅をしている。
その理由は何人も知らない。
本人に聞いてもはぐらかすだけなのだ。
わかっているのはこのアオウナバラをぐるぐると回っていることだけ。
たまに戦争に手を貸して路銀を手に入れては他に行く。
そんなことを繰り返していた。
そんなヨミには色んな逸話がある。
畿内の内乱を治めるとき、ヨミが敵の大将を討ち取った。
それを見た当時の畿内太宰は喜び、ヨミに数十人の女晶霊をあてがい、これからも忠誠を尽くすように頼んだ。
ヨミは畿内太宰の作ったハーレムに数か月居たのだが、ある日突然居なくなった。
『20年後のヨミを沢山作っておいた』
そう伝言を残して去っていった。
後に残されたのは妊娠した数十人の女晶霊だけである。
幸いにも人間で言う貴族に当たる軍閥の娘だったので、その後の良縁には結ばれたものの、非常に大きな問題になった。
だが、それでも黄衣の剣士ヨミを配下に求める声は後を絶たない。
何故なら、彼は単騎で晶霊将を倒すほどの猛者で、配下にしてさらに相棒でも持とうものなら、その家は安泰間違いなしだからだ。
そして、そうやってあちこちで戦っているのに未だに生きているのだ。
その強さはその年齢で証明している。
だが、そんなヨミでも老いには勝てない。
段々と上がらなくなる腕。
鈍くなる一方の足。
剣を振るうだけでも苦しくなりつつある自分の体を疲れた顔で見つめるヨミ。
『ここらで落ち着くか……』
黄衣の剣士ヨミは引退を決意した。
苦笑して、その辺の貴族に教官として入れてもらおうと思ったその時だった。
「しゅ――――――――――――――――ん!!!! 」
どこかで少年が叫ぶ声が聞こえる。
そして聞こえた方を見てみた。
一人の小太りの少年が大人達に組み伏せられていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黄衣の剣士ヨミは目を見開いた。
そして右にしかない手で瞼をごしごしとこする。
そして、もう一度そちらを見てみる。
(………………奇跡とはなんだろうか? )
黄衣の剣士ヨミはそんなことを考えた。
(神のいたずらだろうか? あるいは悪魔の微笑みであろうか? )
そんなことを考えていた。
そしてそれらの全てがどうでもいいと思えた。
(今ある真実が全てだ! )
黄衣の剣士ヨミの目には一人の少年が映っていた。
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