第43話 それぞれの思い


「どぅわぁぁぁぁぁ!!!! 」


 いきなり高速で投げ飛ばされて勢いが止まらない刀和。

 水中ならすぐに止まるものの、空中である。

 やがて風を受けて止まったが、慌ててリューグに向かって泳ぎ出す刀和。


「はっ! はっ! 」


 空中を必死で泳いでリューグに向かう刀和。

 だが、相当遠くに飛ばされたのか、リューグの焚火の灯りが遠い。


「だめだよ瞬! 」


 必死で泳ぎながらリューグに向かう刀和。

と、そこに先に避難していた住民に見つかる。

 住民たちが慌てて刀和の前に出て押し止める。


「どいてくれ! 行かないと! 」

「ダメだって! 戦争が始まるんだぞ! 人間なんて行ったって無駄だって! 」

「そんなのわからないだろ! 」


 なんとか振りほどこうと頑張る刀和。

 だが、住民もバカではない。

 行かせても死ぬだけだとわかっているので全力で止める。


「無理だって! 大人しくしろって! 」

「放せ! 」


 じたばたと暴れるが数人の大人に組伏せられる刀和。


「放せぇぇぇ!!! 」

「ダメだって! そもそも行って何するんだよ! 」

「何って……」

「相手は何倍もの大きさの晶霊だぞ! 何が出来るってんだ! 」

「ええと……」

「ほんとはわかってるんだろ! 何も出来ないって! 邪魔になるだけだからやめとけって! 」

「でも……」

「でももくそもない! 一緒に来い! 」


 そういって引きずられる刀和。


(何も出来ない……)


 引きずられながら無力感に打ちひしがれる刀和。


(わかってる……何も出来ないし邪魔なだけだって……)


 言いながら涙が出る。


(好きな子一人守れないなんて……)


 悔しさのあまりに涙が止まらない。


「しゅ――――――――――――――――ん!!!! 」


 泣きながら刀和は叫んだ。



『ぐぎゃぁぁぁ!!  』


 アカシの太刀の一撃を食らい、蛮族の晶霊が一人やられる。


『さあ次は誰! 』


 そう言ってアカシが再び太刀を構えると海賊の晶霊達が怯えて後ろに下がる。


(アカシ! )

(大丈夫……とは言えないわね。数が多すぎる)


 アカシの焦りを感じ取り冷や汗を垂らす瞬。


(一旦下がって! すぐに囲まれるわ! )

(わかったわ! )


 アカシはすぐに泳いで少し後ろに下がる。

 後ろに下がって前に出て、前に出ては後ろに下がるをひたすら繰り返して、牽制しつつも着実に敵を倒している。

 すでに他の晶霊達はやられており、無残な骸を晒している。

 孤軍奮闘するアカシだが、不意に背中に気配を感じる。


トン


 アカシは背中に誰かが寄りかかるのを感じた。


『トヨタマ! 』

『あなただけでも居てくれて助かったわ』


 その言葉を聞いて嬉しく感じるアカシだが、すぐに顔を曇らせる。


『もう私たちだけよ……』

『・・・・・・・・・・・・・・・』


 絶望するアカシ。

 二人ともいよいよと覚悟を決め始める。


『アカシ、あなただけでも逃げて』

『冗談言わないで、あんたこそお姫様でしょう? 』

『お姫様だからこそ逃げられないのよ』


 晶霊にとっての『姫』は司令官代行であり、副官である。

 当然ながら逃げていいわけでは無い。


(ごめん……私のせいで……)


 アカシは腹話で瞬に謝る。

 瞬は震え声で答えた。


(良いよ。一緒に最後までやり切ろう)

(シュン……)


 泣きそうになるアカシ。

 ほんの一か月ほどの付き合いでしかないのにここまで命を賭けてくれた瞬に言いようのない気持ちが沸き上がるアカシ。


 アカシはその腕に反して中々相棒が決まらなかった。

 

 これも平和ゆえの問題だが、ツクシ国は平和で安定したゆえに生活もまた安定したのが原因で、若い晶霊の相棒になりたがる人が減ったのだ。


 トヨタマと姉妹のように育ち、共に腕を研鑽してきたのに、アカシは色々と劣等感に悩まされていた。


 そんな時に瞬はアカシの相棒になったのだ。


 アカシにとって瞬は救いの神にも見えたほどだ。


 一方で同じようなことをトヨタマもやっていた。


(あなただけでもシュンと一緒に逃げて! )

(あの日一緒に誓ったでしょ? 死ぬまで一緒だよトヨタマ)


 逃げる素振りすら見せずにさらに闘志を沸き立たせるオト。


 オトはリューグ家の姫として生まれて以降、姫として相応しい教育をされてきた。


 だが、そのどれもが全くダメだった。


 棒を振り回すやんちゃが大好きな少女で、全然作法を覚えない。

 

 散々アバズレ呼ばわりされてきたのだが、トヨタマに相棒になろうと言われてその才能を開花させた。


 どうやら、軍事の才能があったらしく、トヨタマが苦手な戦術をサポートすることで優れた手腕を発揮。


 西海でも名の知れた晶霊士にまでなった。

 

 オトは笑って言った。


(最後は一緒と決めただろ? )

(オト……)


 それを聞いてトヨタマも覚悟を決めた。

 トヨタマとアカシが二人で相手を見てうなずく。


『死ぬときはみんな一緒よ』

『ええ!一緒に行くわよ! 』


 そう言って、二人は敵の真っただ中に突っ込んでいった!


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