第28話 貝札


 リューグの町は田舎町としては栄えており、住民は穏やかに過ごしていた。


 こうなると晶霊も人も穏やかに暮らしているので必然的に娯楽が栄える。


 もっとも簡単な娯楽は博打だった。

 というよりも有史以来、こういったゲームが一番の娯楽である。


 そして、それを楽しむのに貴賎の差は無かった。


「これより、リューグ家恒例の貝合わせ大会を行う! 」

「「「「いぇーい!!!! 」」」」


 オトの号令に合わせて嬉しそうに叫ぶ家人たち。


 リューグ家には月に一度、みんなで遊ぶ習慣があり、遊技は何でも良いのだが、遊んで景品を貰うのが常だ。

 オトが楽しそうに叫ぶ。


「ルールは簡単! 一番稼いだ奴が勝ちだぁ! 」

「「「「「いぇーい!  」」」」」

「そして勝者には、負けたお金が全部手に入る! 用意は良いか野郎ども! 」

「「「「ひゃっはぁ!!! 」」」」」


 貝合わせとは貝札と呼ばれる花札に似たゲームで、


アサリ、シジミ、カキ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ツブガイ、バイガイ、タニシ、サザエ、ミルガイ、ハマグリの12種類の貝の絵が描かれており、


 貝だけの一点カス札が3枚

 赤青黄の短冊のついた2点札が2枚

 酒か男か女が描かれた5点札が一枚

 シャコ貝、イモ貝、アコヤ貝、ホラ貝、タカラ貝、夜行貝の光札が各二枚ずつある。


 光札は10点だが、シャコガイとイモガイがマイナス10点なのだ。

ところが、三光、四光、五光、六光の時のみ帳消しになる。


 基本はコイコイと一緒なのだが、枚数が多い分、白熱する!


「黄タンだ! 」

「何の! 一夜飲み! 」

「こっちは真珠の踊り子だ! 」

「出来たぞ出陣! 」

「よっしゃ宝三光! 」



 各々が白熱した争いを見せる!

 ちなみにタンは短冊5枚、

一夜飲みは酒と女と男を一枚ずつ、

 真珠の踊り子はアコヤ貝と女、

 出陣は男とほら貝

 宝貝と夜行貝とアコヤ貝の三つを揃うと宝三光になる。


 このように役の数も花札よりも増えるので面白いのだ。

 なお、枚数が花札の倍なので4人以上でやるところだけが違う。


 家人たちが熱狂してやっているところ、早々に負けた刀和が部屋の隅に居た。

 一方で、オトも早々に負けてしまい、チュラが持ってきた手紙を読んでいた。


(話すこと無いなぁ……)


 オトは嫌いでは無いのだが、今一つ会話が無い。

 あんまり無理して喋る相手でも無いのだ。


 何とはなしに外の様子を見る刀和。


 外では弓の大会が行われていた。


『アカシ5点、合計32点! 』

『よぅっし! 』

『アカシは弓も上手だなぁ……』

『まぁね♪……』


 晶霊たちが弓当て勝負に勤しんでいる。

 それを見ているのも飽きたので、オトに声を掛ける刀和。


「負けちゃいましたね」

「まあ、良いんじゃない? 楽しかった? 」

「はい! 」


 オトの言葉に笑う刀和。

 オトは手紙から顔を上げて困り顔になっている。

 刀和は話を変えようと話題を振る。


「しかし、貴賎の区別なく楽しくやるんですね」

「中央ならともかく、この辺でそんな真似やったら、すぐに反乱受けるよ」

「そんなに治安が悪いんですか? 」


 オトの言葉に驚く刀和。

 だが、オトは困った顔で答える。


「うちのツクシ国だと国司様も大宰様もしっかりとしているから、大した反乱は無いけど東国の方は酷いよ」


 そう言って手紙を見せるオト。

 オトが渡した手紙をとりあえず読んでみる刀和。

 当然ながら何が書いているかわからないのだが……


「あれ? 読める? 」


 何故かこちらの文字が読めるようになっていた。


「えーと……最近、雨が多いですね……」

「あれ? 字が読めたの? 」

「みたい……」


 不思議そうな刀和。

 当り前だが、日本語とは全く違うのだが、刀和はちゃんと読めた。


(そういや、ここに来るときになんか言ってたな……)


 夢に現れた変な女性のことを少しだけ思い出す刀和。

 オトは嬉しそうに言った。


「じゃあ、これからは書類仕事を頼もうかな? 体を動かすの苦手だろ? 」

「うん……」


 一向に速く泳げない刀和は、やはり足手まといになりがちだった。

 そのため、今一つ仕事ができていない。


「まあ、それはともかくとして……」


 そう前置きしてから、オトは険しい顔をして言った。


「東国の方じゃ反乱が相次いでいる……ってことになってるが、現実には郡司同士の抗争が激しくなってるんだ」

「抗争? 」

「ようするに『負けたやつは反乱を起こしたので討伐しました! 』 と言ってその領地を奪うんだ」


 割とこういったことは中世ではよくあった。

 ある程度の大きさの国が出来上がると、末端まで目が届かなくなり、好き勝手をやり始める。


 今の時代であればちょっとしたことでも洗いざらいわかるのだが、昔は簡単に連絡も取り合えない。

 上手く話せる者や中央にコネがある者、有力者のコネ。

 こういったモノが全てにおいて左右される。

 昔の人間が人と人との交流を大事にしてきた理由がよくわかるだろう。

 何しろ、縁一つで自分の人生が決まるのだから。


「私の友達のサツキ姫って人が東国にいるんだけど、彼女が住むソーマの土地をマカベが奪おうと襲ってきたらしい」

「マカベって……中央の武道大会で優勝した人? 」

「そう」


 こくりとうなずくオト。


「幸い、黄衣の剣士ヨミが助けてくれたから何とか倒せたらしい」

「黄衣の剣士ヨミ? 」

 

 聞きなれない名前に刀和はキョトンとした。


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