第29話 相棒探し
「黄衣の剣士ヨミ? 」
聞きなれない名前に困り顔の刀和。
オトが嬉しそうに話し始めた。
「黄衣の剣士ヨミは当代随一の剣士で、このアオウナバラで最強の剣士の一人だ」
「へぇ~。凄いねぇ! 」
ちょっとだけ目を輝かせる刀和。
男の子なのでこういった話が好きなのだ。
「『無窮須臾(むきゅうしゅゆ)』と呼ばれる薄くて大きな黒い大剣を持っていて、その剣が凄いことに髪の毛よりも細いのに一切歪むことなく壊れないらしい」
「凄いですね! 」
少なくとも地球上にはそんな物質は無い。
刀和は素直に驚いた。
そんな刀和の表情が面白いのか得意げに続きを当たるオト。
「そして何よりも凄いのは……ヨミはそれだけの強さに関わらず、相棒を持たないらしい」
「相棒を持たない? 」
それを聞いて訝しむ刀和。
晶霊の強さは原則 晶霊将 > 晶霊士 > 晶霊兵 である。
晶霊兵は一般の兵で相棒を持たない。
晶霊士は相棒を持ち、アウルという『気』のようなものを使用できる
晶霊将は相棒を持ち、アウルという『気』のようなものを持ち、さらに異能力が使える。
つまり、相棒を持つことが強くなる一番簡単なやり方で、必須条件でもあるのだ。
それなのに黄衣の剣士ヨミは相棒を持たない。
「確かマカベって晶霊将だったような……」
「『盾』と呼ばれる能力を持っていたよ。武道大会では相棒抜きだから出さなかったけど、東国でも最強の戦士の一人だったと思う」
「そんなに強い人を相棒無しでたおしたんですか! 」
「ああ、そうだ」
平然と答えるオト。
ド〇ゴンボールで言えばクリ〇ンがスーパーサ〇ヤ人を倒したようなものだ。
そこまでの力の差は無いとは言え、それぐらいの大番狂わせをやっている。
「黄衣の剣士ヨミは相棒無しでそんな真似ができるから凄いんだ……だから、これで相棒が現れたら恐らく最強であろうと言われている」
「ほえ~……」
感嘆の声を漏らす刀和。
ハンデ持ちでも勝てるのだからこれは凄い。
「さらに凄いのはその腕! ヨミは左腕を失っていて、右腕一本なんだ」
「……右腕一本……」
さらに驚く刀和。
ファンタジーの世界では二刀流はよく出てくるが、実際に二刀流が珍しい理由は片腕で刀が持ちにくいからである。
故にやっていたとしても小太刀二刀流が限界でこれが普通の刀でとなるとものすごい腕力を求められる。
このように片腕一本では刀も持てないのが当たり前で、欧米の細身の針のようなレイピアでようやく出来るといった具合である。
刀和が見たところ、ここの晶霊は普通に太刀を佩いているので、それを振るとなれば途方もない腕力を必要とされる。
「凄いねぇ……」
感嘆の声を漏らす刀和に悪戯っぽく尋ねるオト。
「どうも、そのヨミがこっちのほうに来てるらしい。刀和も声を掛けてみれば? 」
「い、いいよ! 遠慮しとく! 」
辞退する刀和ににやりと笑うオト。
「でも刀和……シュンのこと好きだろ? 」
「な、何のことかな? 」
顔を赤くして明後日の方を見る刀和。
そんな刀和の様子をニヤニヤ笑いながら囁くオト。
「やっぱりさ。女の子は強い男が好きだと思うんだよねぇ……トワもさ、相棒を持ったらどうだ? 」
「う~……」
困り顔の刀和に良いおもちゃを見つけた顔のオト。
「相棒ってすごくモテるんだよねぇ……何しろ晶霊がくっついてくるんだから。相棒になるとシュンも見直すと思うよ? 」
「むぅ~……」
さらに困り顔の刀和とさらに嬉しそうなオト。
最後に追い打ちをかけるように悪戯っぽい顔でオトが言った。
「実はシュンには縁談が持ち上がってるんだよ? 」
「え、縁談!? 」
思いっきり叫んで驚く刀和に何事かと全員が二人を見る。
すると、最後まで残っていた瞬があきれ顔で言った。
「刀和……うるさいよ~」
「ご、ごめん……」
瞬は決勝まで残って最後の戦いに挑んでいた。
こちらはこちらで何やら白熱しており、何故か瞬の鼻が尖っている。
「……ふふふ……狂気の沙汰ほど面白い」
「ふふふ……滾ってしまいますわ! さあ、賭け狂いましょう! 」
「……あと一時間……ゲームはこの一時間の取り合いだ……」
「……ずっと俺のターン! 」
「ふっ……チェンジ・ザ・ワールド! 」
決勝戦を再開する最終戦メンバー。
非常に嫌な予感をさせる言葉が飛び交っているので不安になる刀和。
「……なんか、ほのぼのした青空賭博だったような気がするんだけど……」
「いつもあんなもんだぞ? 」
「止めようよ……というか縁談ってどういうこと? 」
「やっぱりそっちの方が気になるよなぁ……」
ニヤニヤ笑うオトは仏頂面の刀和の耳元にひそひそと囁く。
「近隣でも名を上げ始めた晶霊士を手に入れる一番簡単でいい方法は何だと思う? 」
「……結婚? 」
小声で答える刀和。
こういった時代では有力な人物の取り込みに一番使われていたのが婚姻である。
男女問わず、優秀な人材はどこも欠如しているのだ。
尚も囁くオト。
「うちとしても、結婚して他の所に行くっていうのは困るからさぁ……一番仲が良い刀和とくっついて、こっちにずっといて欲しいんだよねぇ……」
「むぅ……」
オトに言われて真剣に悩む刀和。
実際問題、あれだけ派手に名が売れては結婚も時間の問題だろう。
「だからさ、相棒探しに行こう? 」
「……相棒を探しに? 」
「うん」
訝し気な刀和ににっこり笑うオト。
「近くには晶霊たちが住む集落は沢山あるし、町にも色んな晶霊が居る。このリューグだけでも二百人ほど住んでるんだからさ、色々聞いてみようぜ」
「うーん……言いたいことはわかるんだけどねぇ……」
リスクに合わないような気がする刀和。
業を煮やしたオトがあきれ顔になって言った。
「お前がそう言うなら仕方ない。確か大宰(たいさい)のところのメッセルっていう晶霊士が見合いを要望してるから、そいつとシュンを会わせないと「やります」……じゃあ、明日から行こう! 」
オトはニヤニヤ笑いながら刀和の背中を叩いた。
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