第26話 演習


 晶霊に相棒が出来ると晶霊士になる。

 階級が上がるので部下が出来るのだが、そうなると問われるのは指揮能力である。


『『『おりゃぁぁぁぁぁ!!!!』』』

『『『とりゃぁぁぁぁぁ!!!!』』』


 今回やっているのは10対10の団体戦である。

 一方はシュン=アカシが指揮して、もう一方はリューグ家の家令タツノ=オトシゴである。


 総勢10体の晶霊がぶつかるのは中々圧巻なのだが、家令オトシゴが渋い顔をする。


『むぅ……』


 戦況が急に一方的になったのだ。


 最初は優勢だったのだが、アカシは部隊を二つに分け、一騎ずつ仕留める作戦を始めた。

 一人が他の4人の足止めをしつつ、一人を4人がかりで攻撃するものだからすぐにやられてしまい、逃げ回りながら戦っていたのが瞬く間に全員討ち取られた。

 家老オトシゴが槍を振り回し、声を張り上げる。


『かくなる上は大将の一騎打ちを所望する! さぁかかってこいアカシ! 』


 それを見てアカシは苦笑して言った。


『全員でご家令を討ち取れ! 』

『『『『『はい! 』』』』』


 残ったアカシ側の5人は情け容赦なく得物で攻撃する。

 だが、それを避けようともせず受ける家令オトシゴ。


 トントントントントン


 家令の体に布を包ませた棒が次々当たるが、家令オトシゴは笑って言った。


『見事! 一騎打ちは互角の時にこそやるべきであり、勝利が決まってからやるべきでない。指揮官たるものいたずらに一騎打ちはしない鉄則。よく守ったなアカシ』

『ありがとうございます』


 そう言って頭を下げるアカシ。

 家老オトシゴが嬉しそうに笑う。


『じゃが、あの戦法で5人しか残らんのはいかんぞ? もう少し練度を上げてじっくり練らんといざというときは動けんぞ』

『申し訳ありません』


 最初の時点でかなり消耗してしまったのだ。

 戦法がきちんとなじんでいない証拠である。


『すべての戦術に通じるが初動が肝心じゃ。攻撃する側の優位は時間を選べる点じゃ。そして防御側の優位はなんじゃ? 』

『地形です』

『その通りじゃ。どちらを生かせるかで将として型が決まる。そこを間違えるでないぞ? 』

『はっ! ご教授ありがとうございます! 』


『トヨタマ様にお前が配下についてわしは嬉しい! リューグは安泰じゃな! 』


 家令オトシゴが呵々大笑する。

 それを遠目で見ている者が居た。


 トヨタマ、オト、刀和の三人である。


 流石に戦術演習になると屋敷では出来ないのでこうやって外に出てやるのだ。

 ただ、刀和だけが訝し気に首を傾げている。


(なんで僕まで呼ばれたんだろう? )


 刀和はただの家人で特に関係はないはずだが、オトに気に入られているので、こうやって一緒に見学している。

 演習を見ていたオトが尋ねる。


「トワから見てどう思った? 」

「凄いなぁって思った」

「それだけ? 」


 その言葉にちょっとだけ詰まる刀和。

 実は一つ気になっていたことがあったのだ。


(家令さんがわざと勝たせてくれたんだろうけど、同じ戦法使われたら負けたのはアカシの方だと思う)


 家令は今一つ指揮を出していなかった。

 適当に対応して負けて見せたともいえる。


(あの戦法は多分常套手段の一つだろうし、それを知らないはずがない)


 戦術は割と簡単で『複数で一人を叩く』という割とシンプルな戦い方だ。


 だが、それが難しい。


 戦場ではこういった少数部隊が山ほどいる状態でやり合うので、単純に目の前の敵を全滅させれば良いというモノではない。

 部隊の運用にはひと際気を使わないといけないのだが、シュンやアカシにそれがわかっているようには見えなかった。


(瞬は戦争物が好きだけど……)


 戦争で何よりも重要なのは『部下がちゃんと動くとは限らない』ことだ。

 生死が関わる場所なので必然的に変な行動をとり始める奴もいる。


 それを見てオトが笑った。


「やっぱり気になることがあったみたいだな」

「まあ……実は……」


 そう言って刀和が考えていたことを説明する。

 それを聞いて目を丸くするオト。


「よくそれがわかったなぁ! 」


 感心するオト。


「実は今回の戦術教練は初めてだから花を持たせて自信を付けさせているんだよ」



 オトが言うにはこれも大事なことらしい。

 いきなり、コテンパンに叩きのめすと自信を無くして立ち去ってしまうこともあるのだ。


 中小組織の難しいところである。


「その辺はあいつらもよくわかっているよ」

「それなら良いんですけど……」


 刀和には今一つもやもやが残った。


(甘やかされているような気がする……)

 

 自信を付けさせるのは結構だが、瞬やアカシからはどこか頼りなさを感じるのだ。

 それを見てトヨタマが眉を顰める。


『トワも何かを感じてるみたいね』

「うん……何というか……嫌な感じがぬぐい切れない……」


 瞬とアカシのコンビは段々と有名になっている。


 腕も良く

 頭も良く、

 上手くやれている。


 何一つ問題が無いように見える。

 だが、何かが抜けているようなのだ。

 オトも眉を顰める。


「トワもか。私もこう……シュンとアカシには危険を感じるんだ……」

「……やっぱり……」


 こんな演習をしたのもそういった不安を拭い去りたい思いからだ。

 だが、今一つそれが何なのかわからない。


「……戦にならなければいいけど……」


 刀和の呟きに全員がうなずいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る