第25話 勝利の宴
戦はソーマ軍の大勝利で終わり、戦勝の宴が始まった。
この宴の主役は勿論、敵将マカベを討ち取った黄衣の剣士ヨミである。
『皆の者! 楽しんでおるか! 』
『『『『『うぇーい! 』』』』』
宴に参加する全員が酒の入った革袋をかかげる!
実は酒だけは晶霊の料理として存在している。
古の時代より、宴に酒は欠かせないのは人も晶霊も一緒である。
ここだけは晶霊も人も共に一つとなって飲みかわす。
戦も終わり、戦に参加した50騎ほどの晶霊が酒を飲んでいる。
その中央に巨大テーブルがあり、その上では参加した相棒の人間たちが飲んでいる。
こうしないと酔った晶霊に踏み潰されるので、人間用の卓も大事なのだ。
上からは青いヴィルタの光が入っており、夜なのに幻想的な風景を見せているが当の晶霊たちには見慣れた風景なので酒の方が大事だった。
巨大テーブルの真ん中にゴザがひかれており、その上では5名ほどの人間が酒を飲んでいた。
すると、その中の一人がテーブルの端にふらふらと泳いでいき……
「グエロロロロロロロ……」
ゲロを吐いていた。
だが、そこは無重力故にゲロが拡散する!
『ばかやろぅぅぅぅ!!! 』
『やべえ! 逃げろ! 』
拡散するので晶霊にも被害が及ぶ。
慌てて逃げまどう晶霊たち。
「サイガン……もう休んでろ! 」
「ういまへん……」
ゲロを吐いた男がふらふらと退場する。
『飲み過ぎだぞ! 』
「すまねぇ……」
サイガンの相棒の晶霊がサイガンを手にもって下がる。
マサドがため息をつくと上から触角を出した、固そうな殻つきの晶霊が嬉しそうに声を掛けた。
『うぃ~。マサドのんでうかぁ? 』
「たっぷり飲んでるよアノマロ! 」
自身の相棒のぐだりっぷりに苦笑するマサドと呼ばれた壮年の男。
声をかけた晶霊はマサドの相棒でもあるアノマロ校尉でマサドはこの地方の郡司である。
今回は『内乱』という形だが平たく言えば地方豪族同士の抗争である。
中央の目は地方まで届かない。
そのため、隣の領地に攻め込んで勝ったら『内乱を企てていた』と言ってその領地を奪うのだ。
今回は隣の郡司ツクバが郡司マサドの土地を奪おうと襲ってきたので撃退した。
前々から小競り合いが絶えない相手に一泡吹かせたので、校尉のアノマロも上機嫌なのだ。
『いやぁ~今回は危なかった! それもこれもたまたま一緒にいたこの黄衣の剣士ヨミ殿のお陰だ! 』
『酒癖が悪い校尉殿だ』
隣で校尉アノマロに絡まれているのは、先ほどマカベを斬った黄衣の剣士ヨミだった。
ヨミもまた革袋で酒を飲んでいる。
『流石は音に聞こえた黄衣の剣士だ! マカベを斬って頂いたおかげで我らは勝った! 』
『まあ、あれぐらいなら何とかなったからな……毎回期待されると困るぞ? 』
ヨミも酒を飲んでおり、嬉しそうに笑う。
そして、校尉アノマロは急にきりっとした顔になって黄衣の剣士ヨミに言った。
『ヨミ殿……どうかここにずっといて下さらぬか? 』
『…………』
それを聞いて黄衣の剣士ヨミは押し黙った。
『このフサ国も近年荒れておる。それもこれも中央が地方をほったらかしにして都で遊び惚けているからだ』
アオウナバラが抱えている問題はここにあった。
地方が無秩序になっているのだ。
本来は裁定を中央が行うのだが、目が届かないために好き放題始めるようになったのだ。
結果、地方豪族同士の抗争が盛んになっている。
『このマサドも地方の現状を中央に訴えたが、なしのつぶてだった……この有様ではもはや中央は当てにならぬ』
「よさぬかアノマロ! 」
急に厳しい声を上げる郡司マサド。
実際、郡司マサドも中央で出世して地方の現状を変えたいと思って都へ向かった。
だが、結果は出世すら出来ずに、都落ちする羽目になった。
『今のヨルノースは腐っておる。この国の未来を変えるためにもそなたの力が必要だ』
「止めぬかアノマロ! 」
厳しい声で止める郡司マサド。
すると、後から角の生えた女性の晶霊が止めに入った。
『父上。その辺にしておきましょう』
『タキヤシャか……』
タキヤシャと呼ばれた女晶霊がヨミから父親の校尉アノマロを引きはがしにかかる。
『父上は飲み過ぎです。あちらで休みましょう』
『すまぬのぅ……』
そう言って去っていく校尉アノマロ。
すると郡司マサドが黄衣の剣士ヨミに謝った。
「申し訳ありませぬ。さっき言ったことは忘れてくだされ」
『安心しな。じじいは忘れっぽいのが取り柄なんだ』
そう言って笑う黄衣の剣士ヨミ。
場合によっては反乱の恐れありとみなされるような発言だ。
郡司マサドが険しい顔になるのも仕方がない。
『まあ、ゆっくりさせてもらうさ。行く当てもない旅だからな』
「……そう言っていただけると助かります」
郡司マサドが平謝りする。
だが、少しだけ気になったことを聞いた。
「しかし、旅と言われましたが、何のために旅しているのですか? 」
それを聞いて苦笑する黄衣の剣士ヨミ。
革袋の酒を一息で呷ってから笑った。
『相棒を探してるのさ』
「……相棒? 」
怪訝そうなマサド。
黄衣の剣士ヨミは相棒を持ったことが無いはずだ。
それなのに相棒を探しているとはどういうことか?
先程の少女が声を上げる。
「自分に相応しい相棒を探しているのですか? 」
『う~ん……そうとも言えるし……そうでないともいえる……』
ちょっとだけ困り顔の黄衣の剣士ヨミ。
すると、今度は郡司マサドの後ろに居た少女が声を上げる。
「言ってくだされば志望者を募りますぞ! 」
少女の名はサツキ姫で郡司マサドの娘で、先ほどのタキヤシャの相棒でもある。
父親の副官として頑張っている少女だが、郡司マサドは苦笑して窘める。
「これ、サツキ。そう言った意味ではない」
「……そうなのですか? 」
不思議そうなサツキ姫に黄衣の剣士ヨミは言った。
『俺の相棒にする奴は決まってるんだ……』
「……すでに居るのですか? 」
『そうだ……』
そう言って遠い目をする黄衣の剣士ヨミ。
サツキ姫を指さして言った。
『お前さんみたいに気の強そうな女がそばに居る男だよ』
「私みたいな女がですか? 」
『そうだ』
そう言ってから黄衣の剣士ヨミは笑った。
サツキ姫は首を傾げている。
『すげぇ気の強い女だった。尻に敷かれて大変そうだったよ……』
黄衣の剣士ヨミはそう言って酒をもう一杯仰いだ。
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