第21話 戦うこと


 必死で止める刀和に瞬は不思議そうに尋ねる。


「どうしたのよ一体? 」

「ああいうことが出来るようになるってことは、戦うようになるってことだよ! 」


 刀和の声にはっとなる瞬。


 晶霊は戦うのが仕事だ。

 この月海の世界では常に『二人の統率者』が居る。


 政治を行う『人間』の『君主』

 軍事を行う『晶霊』の『元帥』


 これは密接に関係しており、軍事失くして安全は無く、文治失くして平穏は無い。


 生産性は人間が担うからこそ、戦いに専念できるのだ。


 この世界の治安は彼ら晶霊が担っている。


 どの集落も必ず人間と晶霊が居て、共存しないと集落が危険なのだ。

 何しろ何m級の生き物が多いこの世界では襲われただけで集落ごと消える。


 このリューグも町を守るために6人の晶霊が居て、それがお屋敷の方に住んでいるのだ。

 それ以外にも数戸の晶霊の家族が住んでおり、それらを町全体で養っている。 


 集落一つにつき、晶霊一家が住んでいることが多く、村全体で晶霊一家を養っているのだ。


「戦争はそんな簡単なものじゃない! 浮ついた気持ちで兵隊になるようなことは言っちゃいけない! 」

「むぅ……」


 刀和に真剣に諭されて渋面になる瞬。

 それを見てオトが「ほう……」とつぶやいたりもしているが、本人たちは気付いていない。


 実際問題、晶霊にとっては得ではあるが、人間にとっては戦争に駆り出される危険な職でもあるのだ。

 安易になって良い職業ではない。


 それを知っているオトは刀和の方を見ていた。


(やっぱり、トワは一味違うな……)


 心の中で感心するオト。

 一方で瞬は悩み始めた。


「むぅ……」


 深く考えてなかったので、どうすべきか悩んでしまった。


『だ、だめかな? 』


 困り顔の晶霊アカシ。

 すると、他の晶霊から声が上がった。


『なってあげてくれよ。この子は才能のある子なんだ』

「……そうなの? 」


 眉を顰めたまま瞬が尋ねる。


『この辺は平穏なせいで晶霊士のなり手が居ないんだ。だから中々相棒を組めなくて困ってるんだ』

「そうなの? 」


 不思議そうな瞬に説明する晶霊。


『リューグの民は生活が安定している。無理に晶霊士にならなくても生活していけるからな。中々組んでくれないんだ』


 困り顔の晶霊だが、そこに刀和が尋ねた。


「それにしたって一人ぐらいは居ても……」

『居ることは居るが、貧しいやつらは頭が悪くてな……晶霊が戦う分、冷静に戦場を見れる人じゃないとかえって邪魔だ』

「そうなの? 」

『ああ』


 こくりとうなずく晶霊。


『相棒とは腹話で話が出来るのだが、これを防ぐ方法は無い。戦闘に集中すべき時に耳元でぎゃあぎゃあ喚かれるんだ。これはたまったもんじゃない』


 それを言われて納得する刀和。


 ぶっちゃけ、『居た方が邪魔で困る』人間も多々いるのだ。

 そして、往々にしてそう言う連中に限ってこういったものになりたがる。

 晶霊から見ると有難迷惑でしかない。


 生活が安定している人間は往々にして賢く、仕事が出来る人間が多いのだが、そういった人間は


 一方で生活が不安定な人間は往々にしてバカが多く、仕事が出来ないのでこういった仕事をやりたがる。


 その晶霊は尚も瞬にお願いする。


『俺達じゃもう相手にもならない。それにアカシはもっと自分を試したいんだよ』

「自分を試す? 」


 不思議そうな瞬。


『この子の才能は、こんな片田舎でくすぶってるような物じゃない。トヨタマ姫もそうだが、優れた資質を持っている。この子の母親も優れた資質を持っていたが……諸般の都合で都まで行けなかったんだ』

「……都? 」


 不思議そうな瞬にオトが代わりに答える。


「天子様が居るヤオエの都だよ。アカシの母親キンメも都で出世したかったけど、その時に反乱が相次いだせいで都に行けなかったんだ……」


「……なるほど……」


 ビッグになりたくて都会に行くのは若い頃の夢である。

 だが、誰もがそこに行けるわけでは無い。


 優れた資質を持っていても、逆にそれ故に故郷に縛られることもある。


『キンメは都に行けば出世しただろうに……それ故に故国から出ることが叶わなかった……』

「……そうだったの……」


 瞬にもその気持ちが良く分かった。


 田舎に住むからと言って、そこが必ずしも良いものではない。

 都会の方が良いとは限らないが、色んなしがらみから開放されたくもなるのだ。


 そして、瞬自身にもそういった思いはあった。


(……あたしも田舎でくすぶりたくなかったなぁ……)


 普通に生き、普通に結婚して、普通に子供を作って、普通に老いて、普通に死ぬ。

 そうやって生きるのが一番良いのだろう。


 それ故に抗いたい気持ちも起きるのが若さである。


 大望を持つ者が大きくなれるとは限らないが、大望を持たない者は大きくなれないのも事実である。


 自分の手をじっと見つめる瞬。


(一人なら無理だけど……)


 一緒に歩む仲間が居ればそれもなれるかもしれない。

 じっと目を閉じて深呼吸をする瞬。


(私も自分を試したい! )


 次に目を開いたとき、瞬は決心した。


「やるわ! 一緒に頑張ろう! 」

『……シュン! 』


 わっと歓声が上がった!

 パチパチと拍手が鳴る。

 オトが大げさに手を上げて宣言した!


「新たな晶霊士の誕生だ! 」

『良かったわねアカシ! 』

『……うん……』


 トヨタマの声にアカシは嬉しそうに涙を流す。

 瞬はとんっと跳んでその涙を掬った。


「よろしくね! 」


 そう言ってにっこりと笑った。


 盛大にみんなが祝う中、刀和は一人だけだんまりしていた。


(……悪いことにならなければいいけど……)


 瞬のことをよく知る刀和は不安で仕方が無かった。


(瞬は向こう見ずに突っ込むところがあるから……)


 刀和は知っている。

 瞬が今までうまく行っていた理由が……


(なんとか支えて行かないと……)


 刀和の気持ちとは裏腹に瞬は嬉しそうに笑っていた。





 用語説明


 晶霊士


 相棒を持つと晶霊士と呼ばれる戦士階級に上がれる。

 晶霊は晶霊兵、晶霊士、晶霊将の三つの階級しかない。


 理由は単純で晶霊の人口が少ないので3階吸あればことが足りるのだ。


 尚、晶霊士としての名前は 人名=晶霊名 であり、シュン=アカシといった具合になる。

 ちなみに苗字を取るか名前を取るかは割と自由。


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