第22話 校尉


 瞬が晶霊士になってからさらに数日が過ぎた。


『はぁ! 』

『このっ! 』

 

 トヨタマとアカシが模擬戦を行っている。


バシュッ!

シュバッ!

ドシュッ!


 双方ともアウルを噴き出しての戦闘で、普通の模擬戦よりも遥かに激しいものだ。


 アウルが使えるようになると戦い方がまた変わる。


 アウルを後ろに放出出来るようになるので、それを利用すると剣圧や踏み込みなどのこまごまとした力が軽く入るようになる。


 そうなると一撃一撃の威力も変わり、さらにはそれを受け止める力も上がる。

さらにアウルは中に居る相棒でも使えるので、相棒との連携が鍵になるのだ。


 二人とも巨大竹刀を持って、互いに打ち合いをやっているがほぼ互角である。


 これは瞬が上手くアウルを使ってアカシをサポートしている証でもある。


 刀和は仕事も一息ついたので、その様子を先輩家人達と遠巻きに見ていた。


「おおっ! すげぇなぁ! 」


 先輩家人が遠巻きに見ながら感心している。

 

「やっぱりすごいんですか? 」

「腕は良いな。アカシは元が良いから体の使い方が上手い。それをシュンがアウルでうまくサポートしてる感じだ。息がピッタリだから動きがスムーズだ」


 先輩家人の言う通りで、前から使っていたかのように瞬はアウルを使いこなしている。

 先輩家人は感心しながら言った。


「トヨタマ様はこのリューグでも勝てる者は居ない。それと互角にやりあえるんだから立派なもんだ」

「やっぱ、強かったんですね」

「ああ……かなり強い」


 試合を見ながら呟く先輩家人。


「トヨタマ様もこの辺じゃ、鍛錬する相手にも不便していた」

「……そうなんですか? 」

「ああ、こんな田舎じゃ晶霊士は限られてるからなぁ……大半は西海太宰府に行ってるし、組手相手にも困っていたから、アカシが晶霊士になったのは大きい」


 狭い世界ではどうしてもレベルが限られてくる。

 他に凄い人が居ても知らないことが往々にしてあるのだ。


 よく時代劇で剣豪に勝負を挑む男が出てくるが、自分の力のほどがわからないのだ。

 だからこそ腕試しをするし、そうしないと自分の程度もわからないのだ。


「トヨタマ様は校尉(こうい)様の勧めで都の武道会に出たことがあるんだぞ? 」

「そうなんですか? 」


 先輩家人の話にきょとんとする刀和。


「校尉様って何ですか? 」


 刀和の言葉を聞いてずるっと滑る先輩家人。

 幸い、無重力に近いので転んだりはしないのだが、一回転してしまう。


「校尉様ってのは、トヨタマ様のお父上でオト姫様の父親と共にこのリューグを治めている晶霊だ」

「ええっと……」

「ちょっとまて、絵に描いて説明するから」


 そう言って地面に描いて説明する先輩家人。


 この世界の地方豪族は私兵となる晶霊兵を持っているのだが、その際に私兵を統括するボスが校尉である。


 統率者と軍のボスが相互に相手の地位を認めるので、必ず領主と軍長がセットになっているのだ。


 中央においては神皇の相棒が元帥になり、地方においては郡司の相棒が校尉になる。


 こういった関係で皇族は例外なく相棒を持ち、晶霊士になっている。


 一方で大臣などの文官は相棒を持たないことが多く、生粋の政治家や官僚が多い。

 こういった貴族たちは大半が別に所領を持っており、そういった所領を管理しているのが郡司でもある。


 早い話が郡司達の本家筋の人間が中央で貴族をやっているのだ。


 一方、武官である晶霊士たちの大半は相棒の官位に合わせる形になっており、大将や少将、大尉や中尉などの官位を持っている。


 たまに大臣の相棒が将校である場合はあるが、この場合は兼任になる。

 



一方で地方はどうなっているのかと言えば……


 地方の国をいくつもまとめて納めているのが太宰(たいさい)でこれは主に皇族の方々がなり、大半が晶霊士であり、その相棒を大毅(だいき)と呼ぶ。


 そして国一つをまとめているのが国司でこれは中央から派遣される名門貴族の方々の中でも晶霊士の人間が成り、国司の相棒を小毅(しょうき)と呼ぶ。


 そしてリューグ家のような地方豪族を郡司と言い、その相棒を校尉と言う。


 つまりはこういった割り振りになる。


神皇の相棒が元帥

大宰の相棒が大毅

国司の相棒が小毅

郡司の相棒が校尉


 地方豪族の場合、直接戦うことが多いので、一族のほとんど全員が晶霊士になっている。


 そこまで話を聞いて刀和も分かった。


「じゃあ、校尉様っていうのはオト姫のお父さんと共にリューグを治めている晶霊なんですね」

「そういうこと」


 説明を終えてホッとする先輩家人。


「要は父君の命令で中央へ腕比べに行ったんだが……」

「どうしたんですか? 」

「マカベって言う晶霊にコテンパンにされた」

「ああ……」


 よくある話である。

 地方で負けなしが中央で実力の差を思い知って自信をなくす。

 トヨタマはその洗礼をたっぷり味わってしまった。


「結構腕に自信があったのに、相手にもならなかったそうだからな……試合後も何度か再戦したけど、全然勝てなくて凹んだみたいだぜ」

「そうなんですか……」


 負けたからこそわかることもあるだろう。

 刀和は少しだけ微笑んだ。


「そのマカベって晶霊はどれぐらい強かったんですか? 」

「その年は優勝していたな」

「めっちゃ強いじゃないですか! 」


 負けても仕方なかったのでは? と刀和は思った。



 用語説明


 階級


 同じ晶霊士でも微妙に立場が違ったりするので色々な名前が付いている。


 ヨルノース皇国の場合、中央と地方という違いもあるので、ややこしい。


 ちなみに階級の名前の由来は平安時代の軍の階級から。

 意味は全く違うので注意。


朝廷


 基本は神皇を頂点としてその下に文官たちが居る。

 だが、その文官の中には地方郡司の本家筋の者も多いので晶霊士や晶霊将を兼ねていることもある。


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