第4話 楽園


「「……うわぁ! 」」


 二人は竹林から顔出すと危険にもかかわらず感嘆の声を漏らす。


 そこはまさに海の楽園だった。


 色とりどりの珊瑚が並ぶ陸上。

 また、珊瑚だけでなく海藻や木のような物もあるが、それも色とりどりの花が咲き誇っている。

 花と珊瑚という絶妙のコラボレーションが見られる中、上は上で様々な生き物が回遊している。


 マグロやイワシのような群れを成す魚は勿論、エイなども空を泳いでいる。

 

 一方で先ほど瞬が言っていたモササウルスらしき生き物も泳いでいるが、遠くを泳いでいるのですぐに害は及ぼさないであろう。

 エラスモサウルスのような首長竜も泳いているので上の方を泳ぎたくはない。


「……こんな時で無ければずっと見ていたいのに……」

「ホントにそうだね……」


 しばらく見とれていた二人だが、すぐに危険なサバイバルの最中であることにきづき、辺りの様子を探る。

 幸い、大型の猛獣は居ないようだ。


 瞬は桜のような花が咲いている一本の大木を指さす。

 下にはワカメや昆布のような海藻が生い茂っており、海と陸が混合しているかのような林だが、隠れるには適切だろう。


「とりあえず、あの林の傍まで行きましょう。ちょうど、近くに洞穴もあるし」

「そうだね」


 まずは安全地帯の確保だ。

 洞穴は二人が余裕で入れるほどの大きさで奥も深そうだ。

 慎重に林に近づく二人。

 そして、洞穴まで近づいたときにあることに気が付いた。


 洞穴の前で10㎝ほどのウミガメが小型のモササウルスたちに虐められていたのだ。

 

「キュイ! キュイ! 」


 悲壮な鳴き声を上げるウミガメ。

 ウミガメは多勢に無勢で、どんどん追い詰められていた。

 それを見た瞬がやるせない顔になった。


「可哀そう……」

「確かに可哀そうだけど、これは……うわっと! 」


 刀和がそこらに生えていた木の枝に絡まってしまい、枝を解いている。

 それを見てため息をついた瞬は、ウミガメを助けるために泳いだ。


「こら! やめなさい! 」


 瞬はウミガメに近寄って、小型のモササウルスみたいな生き物を追っ払う。

 小型のモササウルスはそのまま洞穴の奥へと入って行った。


「ほら、行きなさい」


 どっかのアニメの主人公のようにウミガメを放す瞬。


(なんてことを! )


 慌てて近寄る刀和。


「ちょっと! 何やってんのぉ! 」

「何って……かわいそうじゃない! 」

「そういう意味じゃないよ! 」


 慌てて瞬を引っ張る刀和。

 だが、もつれて一回転する。


「あわわわっ! ふぅ……」


 何とか体勢を整える二人。

 瞬が不思議そうに尋ねる。


「ちょっ! どうしたのよ急に! 」

「よく考えて! 僕らにとって都合のいいものは、他の動物にとっても都合のいいものなんだから! 」

「……えっ? 」


 言われたことが分からない瞬。


 当り前だが、人間の家程住みやすい場所は無い。

 敵から隠れられて、水に困らず、尚且つ保温効果もある。

 そして人が動物である以上、人が住みやすい環境は他の生き物も住みやすい。

 害虫、害獣が勝手に住み着くのも致し方が無いことなのだ。


 刀和は顔を蒼白にして怒鳴った。


「巨大な動物ほど住処に困るんだ! 洞穴なんか取り合いするぐらいだよ! 」


 熊なんかはよく知られるが、大きすぎると寝床が見つからずに冬の間も餌を探し続ける羽目になる。

 そうやって大きすぎる熊は自然に死ぬようになっているのだ。


「さっきのチビモササウルスはああいう種類じゃない! 上で泳いでる奴の子供なんだ! 」

「……えっ? 」


 瞬が呆然とすると同時に、洞穴からモササウルスもどきが出てきた!


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