第5話 海藻の檻


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!  」」


 慌てて後ろの林に逃げようとする二人!

 

「ゴァァァァァァ!!!! 」


 モササウルスもどきは咆哮を上げて二人へと襲い掛かる!!


バクンッ!


 二人の居た場所でモササウルスもどきの顎が空を切る!

 間一髪で林の中に逃げ込めた二人!


「はぁはぁ……」

「危なかった……」


 何とか林の中に入った二人は息を整える。

 ちなみに件の亀は上手い事逃げられたようだ。

 海藻の間から外の様子を窺う刀和。


「どう? 」

「とりあえずは助かったみたいだけど……」


 困り顔の刀和。


「ピンチには変わりない……」


 木立の間から見えているのは、モササウルスもどきが付近を回遊している姿だった。

 そして、困ったことにこの海藻の林は小さかった。

 

 モササウルスもどきは林の周りをぐるぐる回遊しているのだ!

 それに気づいた瞬は冷や汗をかきながら呟く。


「まずいわね……」


 モササウルスの全長は約3m前後あり、遠くで見たよりは小さかったようだが、二人を食い殺すには十分な大きさである。

 この林は10m四方ぐらいしかなく、ごっそり生えた海藻の茂みが無ければ、モササウルスも中に入り込める程度である。


「どうしよう……」


 途方に暮れて涙声の瞬。

 竹林を出たことが完全に裏目に出てしまったのだ。

 その様子を見て刀和が顔を険しくする。


(僕がしっかりしなきゃ! )


 震えている瞬の両肩をポンポン叩く刀和。


「絶対逃げ切ろう! 」

「……うん……」


 弱弱しくうなずく瞬。

 目の端に涙が出ていた。


(昔っからトラブルに弱いんだよなぁ……)


 瞬は男勝りの性格ゆえに勘違いされがちだが、強がることが多いだけで実際にはトラブルの対応に弱い。


(前に遊園地に行った時もそうだったなぁ……)


 みんなで東京の遊園地に遊びに行ったときは、刀和と瞬がはぐれて迷子になった。

 最初は「私が見つける! 」って言って刀和を引っ張っていた瞬だが、すぐに泣き始めたのだ。

 その時は刀和が冷静に大人に頼んで、迷子アナウンスを出してもらったということがあった。


(何とか逃げ道を探さないと……)


 刀和が冷静に辺りの様子を窺う。


 林の周りには最初に刀和たちが居た竹林。

 竹林の右にはサンゴ礁。

 その右にはモササウルスもどきの巣穴。

 そしてそれ以外は荒れ地で所々に大きな竹林はあるのだが、かなり遠いのでそこまで泳ぐ間に襲われる可能性は高く、その割には身を隠す場所がない。

 そして珊瑚礁は一応隠れられないことも無いが一人ぐらいしか入れない穴が多く、下手すると一人食べられる。


(ふむ……)


 冷静に状況を考える刀和。

 じっとあることを考える。


(英吾ならどうするだろう? )


 自分の悪友のリーダーの顔と仲間を思い出す刀和。



 久世 英吾

 嘉麻 一石

 九曜 圭人

 大上 悠久

 天沼 刹那


そして


 万代 刀和

 玉響 瞬


 この中で一番トラブルに強かったのはリーダーの久世英吾だった。


(英吾なら……)


 彼は困ったときほど、周りを見渡していた。

 基本的に立っているものは犬でも使うような男で、辺りにあるものをなにがしか利用してアホなことをしていた男だった。


(そう言えば上級生に囲まれたときがあったっけ……)


 あの時は彼があることをして、華麗に脱出を決めたのだ。

 ちなみにその次の日にボコボコにされたのも彼だった。


(……よし! )


 刀和はその時のことを思い出して作戦に取り掛かった!





 用語説明


 モササウルス


 ジェラシックワールドに出てきたので知っている人も多いと思いますが海の恐竜です。


 体長18mを超え、現代で言うクジラのような大型の魚を取っていた化け物。


 今作で出てくるのは大きさによって種類の差はありますが、登場しているのは体長3m前後の小型種です。



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