第3話

◯道(夕)

   二人で夕方の道を歩く。

   烏天狗はふわふわと浮いてついてくる。

   すれ違う人がぎょっとして二人を見る。

   サワはカバンで顔を隠しながら歩く。一方烏天狗は気にしない。

烏天狗「ところでサワよ 貴様おれの親父殿の像に何かをお願いしていたな」

サワ「…まあ はい」

烏天狗「どうせ意中の異性とまぐわいたいとか煩悩むき出しの低俗な願いだろ」

サワ「そんなんじゃないです! …ただ部活の先輩でちょっと気になる人がいて

 うまく話せないっていうかいつも素っ気無くしちゃって あの烏天狗様みたい

 に堂々としていられたらなって思って…」

烏天狗「貴様! おれの親父殿を縁結びの神と間違えているのか!」

サワ「人の話聞いてました!?」

烏天狗「まあいいついでだ 天狗の神通力でその先輩とやらを惚れさせてやろ

 う」

サワ「は?」

烏天狗「ちょっと行ってくる」

サワ「え わっ ま 待って!」

   サワ、飛び立とうとした烏天狗の足を掴む。

   烏天狗は勢い余って地面に叩きつけられる。

烏天狗「大バカ者! 痛いではないか!」

サワ「そういうのは自分でやるから! 変な力で惚れさせるとかズルはなし

 で!」

烏天狗「難儀なやつだのう だったら自分で何とかせえ」

   ザッと風が吹く。

   そしてサワがあっと言う間に、目の前に先輩が立っている。

先輩「え どういうこと?」

烏天狗「人さらいは天狗の十八番よ」

サワ「わーっ! せ 先輩!」

先輩「あ きみは… 漆原さん…?」

サワ「え あ その あっ えっと」

烏天狗「けっ おぼこが」

先輩「ぼくもよくわからないけど とりあえず落ち着いて」

サワ「こ 今度一緒に! 茶でもしばきませぬかあ!?」

先輩「え?」

   再び風が吹く。

   サワが目を開けるとそこには先輩の姿はない。

烏天狗「無粋にもほどがある!」

サワ「ううだってえ…」

烏天狗「夜這いじゃ夜這い! 女から夜這われて喜ばん男はいない!」

サワ「そんなあ…」

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