第6話 影
何故もっと早く気づかなかったんだろう。
未来が分かるなら、手っ取り早くその情報をお金に変えることだってできるはずなのに。
ハンドルを握る手が汗ばみ、鼓動が高鳴る。
例えばギャンブルはどうだろう?あいにく、競馬や競艇はまったくと言っていいほど疎く、大きなレースの結果も知らなかった。
「なんでギャンブルやらずに生きてきたの!?大金ゲットできたチャンスなのに」
ギャンブルはダメ。じゃあ株は?これも社会に関心を持たずに生きてきたので、どんな会社が成長していたかもサッパリだ。
「世の中甘くないよね・・・」
でもきっとなにかこの状況を活かせるものがあるに違いない。
信号を待っていると、対面の歩道に春奈がいた。春奈は高校時代の同級生で、そこそこ付き合いがあったが、卒業してからは会うこともなくなっていた。風の噂では、地元の国立大に合格したらしく、キラキラしたキャンパスライフを送っているであろう彼女とはあまり関わりたくなかった。
今の私は浪人生、しかも名ばかりで勉強もろくにしていない。
しかし春奈もこちらに気づいたらしく、無邪気に手を振っている。
淡いブルーのワンピースに、ふわふわしたパーマがかかった髪が風に揺れ、いかにも男を狂わせそうな感じに仕上がっている。
「ひさしぶり~」
他人のフリをしてやりすごそうとしたが、満面の笑みでそう言われては無視もできなかった。
後ろためたさを持たぬ者の笑顔は凶器だ。言動のすべてが、自分を否定しているように感じる。
「ひ、ひさしぶり」
「卒業式以来?かな?元気してた?」
「うん、そっちは?」
「えー?大変だよお、勉強つまんないし、テニスサークルの先輩にしつこく言い寄られるしさあー」
恐れていた事態が起きた。軽い自慢を交えた身の上話ならまだいい、私も大人だ、笑って流そうではないか、この後やってくる禁断の言葉に耐えられないのだ。
「麻衣は?今何やってるの?」
小動物のような雰囲気をまといながら、羆のような鉤爪で私の心を抉る。
「浪人生、かな」
「そうなんだ、えーでもいいじゃん、そういう期間って人生には必要らしいよ」
「ありがと」
こういう時は見栄を張らず、すべてをさらけ出すのだ。あとは煮るなり焼くなり好きにしてくれる。
「じゃあ、私いくね?また今度みんなと集まろうよ愛ちゃんとかも誘って」
「そうだね・・・うん、みんなで遊ぼ」
この手の浅い付き合いは、10年後綺麗さっぱり無くなっていたのを知っているため、幻と会話している気分になった。
彼女は10年後どうなるんだろう。それなりの仕事につき、優しくてかっこいい彼氏と結婚するのだろうか。
そんなことを考えると、さっきまでの前向きな気分に冷水をぶっかけられたような気分になった。
私ってなんなんだろう。
蝉の鳴き声が響き、鬱陶しい程の青い空の下で呆然となった。
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