第5話 悪路

父との会食後は心にポッカリ穴が空いたように、ふぬけた毎日を送っていた。

憎しみや怒りはソファに寝そべってしまい、自分の生というのはいかにネガティヴな感情で支えられていたのかと愕然とした。

そして、今後の人生、どころから手をつけてやろうかという思いと、あまりに巨大すぎるその問いに攻めあぐねてもいた。

結局、浪人生という身分に甘え、図書館へ行き、勉強するふりをしては、お気に入りのミステリーを読み漁り、飽きたら家に帰って好きな音楽を聴くという、どこぞの貴族とも違わぬ生活を送った。

旧私でももう少し勉強していたと思うが、人生の焼き増しとあってはなかなかやる気も出ない。一度死んだ人間というのは案外そういうものかもしれない。

そうこうしながらも時は流れ、季節はもう夏になろうとしていた。

例のごとく、図書館へ出かけようと思っていたが、あらかた興味の引くものは読みつくしていたので、サイクリングへ出かけることにした。

サイクリングとはいうものの、オシャレなロードバイクではなく、前にカゴのついたいわゆるママチャリだ。

「僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる」いつだったか、どこで聞いた詩を思い出しながら自転車をこいでいた。さすが18歳の肉体だ。心なしかペダルが軽く感じる。

体を動かしていると、徐々に心と体が繋がっていくのを感じた。やっぱり私は私でしかないのかもしれない。

今までの自分が生きてきた道をなぞる必要なんかない。なんだって新しいことに挑戦できるんだ。

例えば、それが人に褒められるようなことでなくても。

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