第3話 サボテンの花

私は白いドレスを着て、群青色の海を自由に泳いでいた。

水面から顔を出すと月明かりで水がキラキラと反射している。

星は水平線の向こうに降り注ぎ、息が詰まるほど綺麗な世界なのに、どこか寂しかった。

周りには誰もいない、1人ぼっちだ。

「誰かいない?ねえ、誰もいないの?」

大声で叫んでもあたりは不気味なほど静まり返っている。

「1人は嫌だ!」

再び叫ぶと、呼応するように電話が鳴り響き、夢から覚めた。

どうやら夢を見ていたらしい。

慌てて腕の傷を確認する、相変わらず18歳のままだ。

「だよね・・・」


居留守を決め込むも、あまりにしつこく電話が鳴るので仕方なく出ることにした。


「はい、佐々木ですがー」

「麻衣か?卒業おめでとう」

やたらしつこい電話の主は父だった。携帯にかけても出なかったらしく家電にかけてきたとのことだ。

以前にもこの会話はしていた。

「おめでとうなんて言ってほしくない」

考えるより先に、つい反射的に口が動いていた。

あの時も父を責めたんだ。

私はなんにも成長していないんだと落ち込んだ。

「ごめんな麻衣、今度食事行かないか?勿論母さんはいい顔しないかもしれないけど」

ここで電話を切ったんだ、それから父とは疎遠になり、一方的に送られてきた手紙は読むこともなく捨てた。

幼稚なのは分かっている。でも優しくされればされるほど、何故母と別れ、私を捨てたのか、どれほど私が辛い思いを耐えてきたか、その時間を踏みにじられるような気持ちになり、耐えられる勇気もなかったからだ。

悪者でいてよ、そう思わない日はなかった。


「いいよ」

そんな気持ちとは裏腹に、父の誘いをOKした。

会って思いっきり怒りをぶつけてやろう、それまでは健気な18の娘を演じるのだ。

「いいのか?よかった、うんうん」

意外な答えだったのだろう、少し驚いた様子だった。

「何食べたい?寿司か?焼肉か?・・・麻衣が何食べたいのかお父さんまったく分からなくて」

少し情けない声を聞くと、胸がチクリと傷んだ。その中途半端な優しさで私はとんでもないひねくれ者になったんだよ。

「なんでもいい、あ、静かな場所がいいな、あとは特に」

「じゃあ週末にでも行こうか、母さんには内緒にしてくれ、また何かとこじれそうだからな、詳しい日にちはまた連絡するから」

「いいよ、じゃあね」

「あっ待ってくれ、本当に卒業おめでとう、じゃあな、体に気をつけてな」

受話器を置くと、ドッと疲れて深いため息が出た。

人間ってなんで面倒くさい生き物なんだろうか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る