15 晴れた未来
「よくわからない? でもわからなきゃ。ここじゃ何だし、というかもっとくつろぎたいから、移動しよっか! グリー!」
きょとんとしている俊をそのままに、アニエルは何かを呼ぶ。
その呼び声に応じて、遠くから獣の声が聞こえた。
「グリー! こっちだよー、はーやーくー!」
「グギャァゥ!」
人の声ではない獣の声。しかし聞き覚えがある。あまり好きではない声……俊の顔は少しずつ引きつっていった。
「グリ! やっと来てくれた! あ、ピンちゃんも連れてきてくれたの? ありがとう!」
「グルルル……」
やって来たのは目立つピンク色の生き物。
アナザーに来てすぐに出会ったあの生き物だ。嘴、翼を持ってライオンのような体、そして体のピンク色が俊の頭に強く残っている。
その生き物の背に、いつも俊の帰りを待ってくれている桃色のウサギが乗っていた。
アニエルはその二匹を撫でてはぎゅっと抱きしめる。
「そいつって……」
「この子はね、グリフォンのグリグリ。それでこのウサギちゃんはラビットウイングのピンちゃんだよ! 私の大好きなお友達なの!」
「友達……? え?」
「友達だよ」
「モンスター的なやつじゃ……」
「この子達はお友達! お手伝いしてもらってるんだ。今回もありがとう!」
アニエルはずっと撫でている。
撫でられている二匹は嬉しそうに喉を鳴らしている。
「手伝いってな……」
「それはね、俊くんの監督。私だけじゃ無理があるからさー、お手伝い必要だよね」
「んんんんん? 訳わからない」
「うーん……ピンク色の子達はね、私のお友達ってことだよ!」
「なぜにピン」
「ピンクってかわいいよね」
以前もアニエルはピンク色が可愛いって言ってた気がする。そうだ、ろうそくの色を変えたときだ。可愛い色だからと野生で暮らす生き物までピンク色にしていたということなのか。目立つから天敵などに狙われやすくなる。そこまでは考えてなかったのだろうか。
「ピンクって目立」
「ピンクって可愛いから全て許されるよね」
何だそんな主張は。ピンクなら許されるとは?
アニエルはそのほかの意見は受け付けませんというように、何を言ってもピンクは正義で返されそうだ。これ以上色については聞かないことにした。
「ささ、移動するよ。背中に乗って!」
「あ、うん……」
アニエルが先にひょいっとグリフォンの上に乗った。俊はアニエルに手をひかれて、同じように乗る。
「グリグリ、行く場所わかる? わかるよね、いつも行くもんね。そこまで安全にお願いしまーす」
「グギャ!」
ポンポンと優しくグリフォンを叩くと、軽快な足取りでグリフォンは歩み始めた。
俊が上に乗った時とは違う。スピードはあるものの、急に曲がったり、枝が密集するような場所を通ったりはせずに、広い道を進む。
「俊くん、どう? この子優しいでしょ?」
「ああ、前のときとは大違いだ」
「うふふっ」
駆け抜けていくグリフォン。
顔にあたる風が心地よかった。
グリフォンに乗って移動してから五分ほどで止まった。
さほどさっきの場所から距離はなかったように思える。グリフォンに乗らなくても歩いていける範囲のはずだ。
「ついたよー。降りて降りて」
目の前には白くて高い建物。
アニエルが魔法で作ったというあの村よりもずっと近代的だ。
言われたとおりにグリフォンから降りる。
アニエルも俊に続いて降りた。
「グリグリはここで待っててね。後でご飯持ってくるね。ピンちゃんは一緒にいこっか」
「グギ」
「キュン」
ウサギもといピンちゃんをアニエルは抱えて建物の中に入る。俊もそれに続く。
建物の中は真っ白で清潔感にあふれていた。
アニエルは立ち止まることなく進んでいく。そして現代と同じエレベーターに乗り込む。
「上に参りまーす」
エレベーターガールの真似なのか、アニエルは楽しそうだ。楽しさを感じ取ったのかウサギの耳がゆらゆらと揺れている。
エレベーターがチンッと目的の階層へ到着したことを告げた。
扉が開く。アニエルは先にスタスタと歩いて行くので、俊は黙ったままついていく。そしてある扉の前で立ち止まった。
「ささ、どーぞどーぞ」
アニエルが扉をあけ、入るように促されたのでそれに従う。
部屋の中には白いベッド、テレビ、冷蔵庫、ソファーなどこの部屋で十分暮らすことができるほどの設備が揃った贅沢な部屋だった。
「ちょっと待ってて! すぐ戻るから。好きなようにしてていいよ!」
アニエルは部屋から出て行く。残された俊はソファーに腰掛けた。ふかふかのソファーは座った瞬間に腰が沈む。あの家でベッドの代わりに使っていたソファーとは段違いだ。
「おっじゃまー!」
ノックせずにいきなりガチャッと扉を開けてアニエルは戻ってきた。
そんなアニエルの後ろにもう一人誰かが立っている。
「お疲れだけど、お話しなきゃなの。ね?」
「ああ、そうだ」
アニエルは後ろの人物へ顔を向ける。
その人物とはスーツを着たオタヤだった。
「オタヤ……?」
「ああ、そうだ。おっともっと髪を変えたらわかるか?」
オタヤはそう言って、伸びた前髪を後ろにかき上げた。顔全体がはっきりとなると、オタヤとは別にその顔にどこか見覚えがあった。
「テレビをよく見るタイプだと思ってたんだが。それとも馬鹿だから記憶力がないのか……」
オタヤが鼻で笑いながら言う。その時一瞬見えた首元の傷で思い出した。
「かた、せ?」
「ああ、そうだ。俺は片瀬。
テレビで見た。
アナザーについて討論していて、首の傷を見せると周りが凍り付いた人だ。
「ちなみにね、私も
「うん? アニエルは? 別名?」
「そうだよ、別名!」
「なんで?」
「アナザーに来て、日本人名で名乗ってるやつに会ったら気が緩むという話だそうだ。昔の上のやつらが決めた、まあある意味伝統だな」
「はあ……」
話ながら二人は俊の向かいのソファーに座った。まだ納得のいかない俊は頭上にはてなが浮かぶ。
「なんでそんな名前に?」
「簡単な法則だ。ローマ字で名前を書けばいい」
「ローマ字?」
「私はね! 怜奈だからスペルはREINA。それを逆さから読むの! そうしたらアニエル、だから私はアニエル! 先輩はHAYATOでオタヤ!」
「へ、へえ……」
ローマ字なら何となくわかる。考えられた名前なのかとアニエル改め白雪の話でわかった。
「それはそこまで重要ではない。俺はこの世界の話をしに来た」
片瀬が真剣な眼差しで俊を見た。
白雪はピタッと喋るのを止める。
本当に大切な話なのだと思い、俊は座り直した。
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