◇30.罪は消えない
「これが、俺の……童貞であり続ける真実ってやつ?」
「もう誰も好きにならないし、なっちゃいけないって。だけど俺の前に梨紗ちゃんが現れた。電車の中で初めて見た瞬間、似てるなって思った。どこかで関わるのが怖いって、けど、関わることは
「一緒にすんなよっ……!」
縮こまった喉の奥から梨紗は苦しそうに言葉を吐きだした。真っ赤になった目は、感情の昂りを露わしている。
「何なんだよ勝手にその元カノに重ねて! 罪償おうとしてんのか!? あたしはあたし、その女じゃねーんだよ! 大体今聞きゃあ分かってんだろ! 人に傷負わせたらその罪はいくら足掻こうが消えない! やり直したくたって過去には絶対戻れない! 取り返しなんてつかねえ! だからあたし達は苦しまなきゃいけないんだよ一生! 一生苦しむんだよ! 苦しいんだよっ……一生……傷ついた身体は、心は……もう自分を痛めつけることでしか生きてらんねーんだよ!」
吐き出した。ぐちゃぐちゃに心を乱しながらも、梨紗は抱えている辛さの一部を漏らし始めている。
受け止めたい、あの時出来なかったことを、どれだけ罵倒されようともするべきだ。
「そうだね、言う通り、俺は彼女と梨紗ちゃんを重ねてる。だけど、俺が今知りたいのは梨紗ちゃんのことだよ。勝手ばかり押しつけてごめん、でも分かりたい、梨紗ちゃんこと。だから、話して」
梨紗は膝を抱えて頭を埋めた。しくしくとしばらく掠れた泣き声だけが響いていたが、のちに静寂は訪れた。
「……あたしには、ないんだよ。人に大事にされる資格が……」
梨紗は自らの手で濡れた顔を拭った。そして、消えない傷痕のある左足を擦ってから、その重たい口を開いた。
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