そして…恋の花咲くことも有る…。

リア「男ども!すぐにココから出ていきなさいな!!」


その一喝に呆然と立ち尽くしていた一同は我に返り…言葉の意味を悟ってこの部屋から出ていく。


リア「…姉さんをキレイにしてあげたいわ…。

   ノイちゃん…悪いけど手伝って貰えるかしら…?」


ノーイラ=タスツはビクっと反応し、両手で口元を覆いながら震える身体をなんとか顔をリアの方へ向け…


ノイ「…姉さんは…こんな物を見せるために…自分を呼ん…だん…すっか~…?」


こんな時にどうしてリアはこんなに落ち着いて……いるわけは無かった。


リア「知らないわよ!そんな事…役に立たないならアンタも出ていって!」


…今はまだ悲しみよりも怒りの方が勝っているのだろう…。

握り込んだ拳が激しく震えている。


リア「…シュミカ…。辛いでしょうけど…浄めて貰えるかしら…?」


ゆっくりと顔を上げたシュミカは、うん…うん…と頷いて精一杯の意思を伝える。


ドスドスと前に出たリアは、今も四つん這いで顔面を床に擦り付けたままの竜人の帝国皇帝の弟の頭を踏みつけて叫んだ。


リア「この糞野郎!いつまでも姉さんに汚ぇケツ向けてんじゃないわよ!

   …このまま踏み潰すわよ…!」


カディス「…どうか…そうしてくれ…。」


そのままリアは、フン!と鼻を鳴らしてカディスを部屋の外に蹴り出し、神妙な顔つきでコチラを見て言う…。


リア「…わかるでしょう…アンタ達もよ…。」


なんとか立ち上がりガクガク震えて言うことを聞かない膝をなんとかコントロールしながら、エイナを連れて部屋を出る。

また…エイナに辛い思いをさせてしまった…。

どれだけダメな奴なんだ、俺は。


ノイ「…じ…自分も手伝う…っす…。」


必死にベッドの方へ向かうノーイラ…。

そうか…せめて最後にもう一度…あの歌声を聴きたかったのかも知れない。

姉さんは…考えうる幸せを手土産に、かつての仲間達の元へ旅立ちたかったのか…。

あの人らしいと言えば、らしいかも知れない…。


やっとの事で廊下に出てみると、そこにはダトス、ガトスの二人のみ…。


ダトス「…カディス様は、皆で風呂に運んで行きました。

    連中は直には皇帝の配下ですからね…。

    逆にこういう時には助かりますよ…。」


ガトス「とりあえず…下で待ちましょう。

    肩…貸すッスよ。」


ダトス「お姫ちゃんは俺が…。」


と、スッとお姫様抱っこで持ち上げる…悔しい…。

…こんな事でも多少は気が紛れるな…。

朝めざめた広間に戻り、何もしないでいると…ようやく段々といろいろな感情や思考が追いついてくる…。


そんな所に数人の部下に連れられて、小綺麗になったカディスが戻って来るのだから…頭に血がのぼるのも仕方が無かったと思ってもらいたい…。

俺は椅子を倒して立ち上がり、一目散に駆け寄るのだが流石に邪魔も入るだろうよ。


カディス「…よい。

     好きにさせてやってくれ…。」


気持ちを汲んだ部下たちはカディスの後ろに下がってこの後に備えて構えている。

余裕だな…じゃぁ、お言葉に甘えて…まずは…リアに習って容赦なく正面から顔のど真ん中に一発!

後ろに飛んだカディスを部下たちが受け止め、立ち上がらせる。


カディス「…その程度で気は済むまい?

     キサマ如きの力では我はどうにもならんぞ!

     何を使っても構わんから好きなだけヤルがいい!!」


歯に当たったのだろう。右の拳からはいつの間にか血が垂れ落ちているが、痛みなど全く感じない。

俺の拳が両方共砕けるまでぶん殴ってやる!


短い時間だったが、皆で旅をしていた頃のルキリ姉さんとの思い出が脳裏で高速のスライドショーを展開している……どうしてあの人の思い出がこんなにあるのか?

あの人の掴みどころの無いハイテンション、他の連中が恐れる凶暴性、

そしてそれでも周囲に良く気を配り、時折見せる優しさ…。

そうか…

俺はあの人に…ルキリ姉さんに憧れていたのだ…。


これは…ただの嫉妬だ。

だって…この件でこの男には…何一つ悪い所など無いのに!


だがそれに気づいたからこそ止められない。もう拳も握れない。

なんとか両手で持つ事が出来た椅子を振り上げた所でやっと耳に声が届く…


ノイ「何やってるすっか==!!」


背中に衝撃を受けて、俺は目の前のカディスの上に倒れ込んだ。

ああ…この感覚は…飛び蹴りだろうか?


ノイ「…大体の話は聞いたす…。まだ…心の整理はつかないスッけど…。

   ルキリ姉さん…本当はもう…とっくに死んでたんすね…。

   よく…今日まで……。本当は…もう逢えなかった…ハズ…

   だた…のに……。」


ノーイラは俺を挟み込んでいる事など関係なくカディスに抱きつく。


ノイ「…ありがとうす…、

   最後に…もう一度…もう一度姉さんに逢わせて…くれて…。」


予想もしていなかった礼を受け取ったカディスは…俺を挟んだままノーイラを強く抱きしめて、子供の様に大声で泣き叫んだ…。


カディス「…楽しかったんだ!…戦争が起きる前に旅した時間が!

     …やっと…やっと…前の様に…また全員で旅が…したかった…!

     だから…だから…リア達を探して…でも…間に合わなくてぇっ!

     

     助けられなかった…もっと早く…我が辿り着いていたなら!

     …蟻の大群如き…簡単に…吹き飛ばして……

    

     ゴメン…ゴメンナサイ…皆…ルキリ…ゴメンなさい……。」


…そうだ…あのパーティが全滅した事件。

あれから贖罪を求めていたのはルキリ姉さんだけでは無かったのだ。


既に壊れ果ててしまっていた姉さんとも再会し、話もできた。

昨夜の…姉さんの最後の言葉も、全てを理解した上での言葉だったのか…?


そして何より…記憶の封印を解いてしまったのは…自分達だったのではないか…?


シュミカ「…ん、考えてはダメ…アサヒ…。

     僕は……頑張った……。」


リアにオンブされてやって来たシュミカは、それだけ言うと目を閉じ…寝息を立て始めた…。


リア「…最後にね…、

   シュミカが全部の魔力を使って姉さんの残留思念を探ってくれたの…。

   聞こえたのは…

   『ゴメンナサイ…』

   『ありがとう…』 

   『早くミンナに逢いたい…』

   『もう一度聴きたかったなぁ…』…これに関しては…頼むわよ、ノイ。」


ノイ「…ふ…ぐっ……、も…もちろんすっ!」


ツカツカとコチラに歩み寄るリアは、カディスの髪を掴んで引っ張り上げて言う。


リア「…絶対に!あたしの言葉じゃないわよ!

   姉さんの魂の言葉よ!一生心に刻んで置きなさいな!

   …行くわよ…。」


それを聞いたカディスは両手で顔を覆い…記憶操作などで本当の人の気持ちなど完全に変えられるものではないのだと悟り…慟哭する…。



そして…躊躇しながらも…大切な言葉である。

覚悟を決めてリアが告げた言葉はこうだ…


『初めて逢った、その日から…ずっとアナタが好きでした…。』


全く…この竜人…もう一発殴らないと気がすまない。

    










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