そして…アナタといつまでも…。

二度目のダンジョン探索。

今回は十九階層へのヒントを探してユックリと進む。


三層の中ボス階で礼儀正しく土の魔物に挨拶を済ませ、もうチュートリアルは必要ないからと前回とは違う扉から十一階層へと通して貰う…。


魔物「先人の記録を破ったらしいが、慢心はするなよ。

   それと今日は…昔レイヴンで良く見た顔が有るようだが…

   ここは他とは多少趣が違う。あんな所とは比にならんから心して行けよ。」


ガトス「了解っす!その説は本当にお世話になりましたっす!」


…本当に全部のダンジョンで情報が共有されているんだな…。

この魔物はいったいどれだけの冒険者達を育て、見送って来たのだろう…。

そう考えると、本当に頭が上がらない…。

今後、違う街に行っても挨拶だけは欠かさずにしよう!


その後はダトス、ガトスのストレス発散とエイナの運動に付き合いながら自分たちにダメージが来ないように細々と魔物の残骸を集めて回る三人の構図が出来上がる。


リア「はぁ~…本当に強くなったわねぇ…アンタ達…。」


ガトス「当然っす!姉御を守れる男になるのが自分らの目標でしたからね!」


ダトス「…行方不明の話を聞いても諦めずに…

    頑張った成果を出せる時が来るなんて感激です!」 


…本当に…リアはお母さんだなぁ…。


なんて事を考えながらの必死の探索も、大した成果もなく…エイナ以外の体力が着きてしまい…しかも今回は高額な例のアイテムを人数分揃えてもおらず…ギルドへの早々の帰還を余儀なくされてしまった。


エイナ「ボクは楽しかったよ~♪」


…その一言で少なくとも俺は癒やされたのだが…年端もいかないチビッ子に遅れを取った二人の竜人は自信を喪失し、ただただ呆けている…かわいそうに…。  


ガトス「な…なんなんすか、その子…。

    助けてもらえなかったら五十回は死んでたっすよ…自分…。」


あんたでもか!?


ダトス「…でも…、安心してカディス様に仕えられそうだな…。

    姉御を頼むよ、お姫ちゃん…。」


それを聞いたエイナは得意げにVサインを突き出して…


エイナ「もちろんだよ♪

    …ボクの前ではもう誰も死なないんだよ!あはは~♪」



…まだ幼いこの子の、その悲壮な決意を…どうして俺達は…。



…やがて日が沈み、ひとまず今回この街で過ごす最後の夜が来る。

宿に戻った俺達を迎えてくれたのは、ハイテンションなルキリお姉さんである。


ルキリ「エイナちゃん!!

    待っていたんだ!さぁ、早くルキリに弄ばれておくれよ!!」


対面早々に抱きつかれて囚われたエイナは硬直してなすがままにされている!

まさにリアに対するユリィさんとカディスのような天敵に喰われようとしている構図だ…。

そう言えば…いつの間に手のひらを返したのだろうか?

はじめはエイナを煙たがっていた様に思ったが…。


エイナ「やだよ!助けてアサヒ!この人怖い!」


と、ルキリ姉さんを振り切ってコチラに逃げ込んで来るエイナを匿って說明を請う!


ルキリ「ふふ…ルキリはね…ただ可愛らしいだけの女の子なんて大嫌いなんだ!

    だけど…可愛らしい男の子は食べてしまいたい程…大好きなんだよう!!」


目をグルグルさせてエイナのスカートの中に潜り込もうとするルキリ姉さんをリアとシュミカの三人掛かりで制しながら援護を頼もうと二人の竜人に目を向けると…


やれやれ…といった顔で通路の先を指さしている。


カディス「静まれ!ルキリ=スターニー!

     …困ってるじゃないか……   

     子供に今のお前の冗談はトラウマになる…。」


カディスの登場によだれを拭いながら、仕方ない…と立ち上がるルキリ姉さん。

助かった安心感で泣きながら抱きついて来るエイナを慰めながら…とりあえず俺達は宴の準備が整えられているらしい広間に向かう…。


エイナ「…ひ…ひぃっ…アサヒぃ…

    ボク…パンツ履く…嫌いだけど…履くから…買ってぇ…。」


…と訴えられ、とてつもなく微妙な気持ちだ。

これも成長の一環かな?だとしたら良いことなのだろうが…。

羞恥心、大切では有るが…寂しさも感じる。

子供か…こうやって一歩ずつ自立して行くのだな……この場にいる中で最強の生き物も…。


今回の作戦に参加した部下を労っていたカディスはやがてダトスとガトスを連れて来ると、

「さて、偉そうな上官は邪魔であろうから、我もコチラに混ざらせて貰おうか…。」

と、乾杯を交わす。

この文化はどこでも根付くものなのか…。


リア「…いや、コチラでもアンタは邪魔よ…。」


カディス「酷い…。我はこんなにもお前のことを…。」


シュミカ「ん…今回は僕も手伝った…。

     ギャラの件についてなら話を聞いてあげてもいい。」


リア「それもそうね、わすれていたわぁ♪」


カディス「やれやれ…少し多目にギルドに預けてさせておくから…。

     勘弁してくれ…。」


などと軽い挨拶程度の会話をかわし、

なんと無くギリアさんの事を避けつつも…これまでの経緯やレイヴンでの思い出話、

俺がまだコチラに迷い込んで来ていない頃のパーティの話などで盛り上がる。


そのうちにアチラで騒いでいたカディスの部下連中がコチラに来て、


部下「カディス様!外出してきても大丈夫ですか?

   今、この街でノーイラ=タスツのショウが観れる店が有るらしいんです!

   隠密行動も終わりましたし…。」


カディス「ほう…お前たちは好きだったな。

     構わんが、くれぐれも問題だけは起こさないようにな。

     軍務ではないとは言え、レイヴンの名を冠して来ているのだからな。」


部下「大丈夫うっすよ~♪

   あの子の歌は騒いで聞くものじゃありませんっし~。」


ダトス「…口の利き方に気をつけろよ…。」


と、一瞥をくれるダトスに窘められた男は、スッと背筋を伸ばして青ざめている…。

隣でバツの悪そうに目を泳がせているガトスはこっそりと…

「ダトスは酒が入ると怖いんっす…急に上下関係に厳しくなるんスよ…。」

と、教えてくれた…あぁ、いるね…そういう人…。


カディス「ああ、ああ…構わんから…。

     ずっとあんな沼地にいたのだ。今宵は程々に羽目を外せ。

     程々に…な。

     あと、紋章は持っておろう?支払いは我に回しておけよ。」


部下「はい!ありがとうございます!

   行ってまいります!」


と、言い残しすとこのテーブル以外の者達を引き連れて出ていった…。

カッコイイ上司ではないか!と、カディスを見ると…。


カディス「そうかぁ…お前ら全員で行くのかぁ……。

     しばらくは節約であるなぁ…。」


と、引きつった笑みを浮かべていた。

あれ?さっきの男性の変なイントネーションの喋り方…そうだ、昨日の…。


俺「あ…カディスさん…、今彼らが言ってた店、多分昨日俺達が行った店で…

  多分その目当ての人、昨日で最後の日…とか言ってましたけど…。」


エイナ「あ~、あの綺麗な声のお姉さん!そんな名前だったね!」


それを聞いたカディスはもう泣きそうな顔になっている…。


ガトス「これは…連中荒れるっすね~…。」


カディス「…すまん…。お前たち…頼んでいいだろうか…?」


ハァ…と溜息を吐きながら立ち上がった二人の竜人は、店の場所をリアから聞いて先に出た連中を追いかけて行った。


いつの間にかこの広間にはポツンとこのテーブルに残された俺たちだけだ…。

そこに現れたのは…


ルキリ「おいおい!なんだよ…他の奴らは何処へ行ったんだ!?

    ルキリのコネを最大に利用したスペシャルゲストを呼んだのに!!」


と、大きな料理皿を持った、我らがルキリ姉さんと後ろには…

昨夜の店でのセッションで御一緒させていただいたメンバーと…この部屋に人が居なくなった原因そのものである、ノーイラ=タスツその人である!

そのノイちゃんは俺の顔を見ると、八重歯をむき出しにした笑顔で俺の手を取ってブンブン振り回してピョンピョン跳ねながら…


ノイ「わっあ~~!昨日のお兄さんじゃなっいすーかぁ~!

   なぁ~っに先に消えちゃってるすっか~?

   探したんでっすよ~?」


他のメンバーにも昨日の礼と、子供がいたので…との說明をしてウチのパーティを紹介する。


リア「あたしはリアね。素敵な歌声だったわぁ…♪よろしくね。」


シュミカ「ん…神職をしてる僕には、とても心に響いた。シュミカ…です。」 


エイナ「ボクはエイナ!すっごい綺麗な声だったよ!また逢えて嬉しいよ♪」


カディス「我はカディス=レイヴンという。よろしく頼む。」


と、流れに乗っているがアンタはウチの人じゃないだろう?


カディス「ルキリ…こんなサプライズを用意してるなら先に教えてくれ…。

     他の奴らはこのレディの歌声を求めて出ていってしまったぞ…。」


ルキリ「そ…そうだったのか!?

    それは申し訳ないな…皆が好きだと聞いていたから…。

    先日この街に来ていると聞いて密かに交渉してたんだが…。

    裏目に出たな!アハハハハ!」


ノイ「幼馴染で~、姉さんにはめちゃお世話になったんす!

   あと、好きなだけ飲ませてくれるて聞いって~♪

   流石に楽器は持ち込めないんでアレすっけど~、

   簡単な歌くらいは平気スよ♪」


こんな時にスマホでも普及していればすぐに呼び戻してやれるのにな。

だが…こういった運に左右される昔ながらの感覚も良いものかもな…。


静まり返り掛けていた宴はまた賑やかさを取り戻し、久しぶりに再会しあったそれぞれの思考も麻痺していた…。

そう、この時にその違和感に気づいても遅かったのかもしれないが…。


やがて酒も回りノイちゃん一行は、主が捕らえられて居なくなった、この宿の部屋を自由に使い休息に着いた。

エイナも俺の膝を枕にしてとっくに寝ている。


この場にいるのはウチのパーティとカディスとルキリ姉さん。

俺とシュミカはほぼ限界である…。


リア「ねぇ…ルキリ姉さん…あたし達ね、

   パーティとかじゃなくて…家族として…ね、

   旅を続けて行きたいと思うのよ…。」


ルキリ「ああ!それは素晴らしいな!

    …あの…家族は無くなってしまったものな…。」


リア「それでね…あの…こんな物があるろよ…。」


と、リアが腰袋から取り出したのは昨夜俺達に渡されたリング。

ギリアさんのじゃなかったのか…。


シュミカ「…ん…、リアがとおちゃに渡すのが…安物の訳…ないで…しょ…。」


最後の力を振り絞って人の心を勝手に読むな。

シュミカ様、轟沈。


リア「これね…あたし達の家族の証なの…。

   …ね、ルキリ姉さん、あたしたちと…行かない?」


酔ってフラフラながらも少し思考を巡らせて…姉さんは語りだす。


ルキリ「いっや~、そうかぁ~。

    それもなぁ~いいかもだけど…。」


と、チラチラとカディスに目をやりながら…


ルキリ「なぁ、カディス…ルキリはね…お前がとっても好きなんだよ…。」


と言われたカディスは…ブッと酒を吹き出して困り顔である。

まさかその感情が…記憶操作の産物で有るなどとは言えない!


ルキリ「あ!いいんだよ!

    お前が昔からリアを追いかけていたのは、もちろん知っているし…

    その為にどれだけの努力をしたのかも分かっている!

    振り向かせようなどとも思っていない!

    ただ!…ただ…お前が許してくれるのなら…今後も…

    せめて…一緒にいたいと思うのだが…ダメだろうか?」

   

フラフラしながらも少し考えたカディスは…


カディス「そ…それで…いいのであればな…。

     ただ…我はお前には冷たくあたるからな…

     リアへの気持ちも変わることは無いぞ……いいのか?

     …それでいいのなら……お前と飲む酒はウマいからな!ははは!」


…こんなルキリ姉さんの表情は初めて見た。

それどころか、なんて柔らかく…こんな幸せそうに涙を流す人を見たことが無い。


リア「カーディースー!

   なんれこんらに素敵な姉さんじゃダメなのよぅ~!!

   ちょ~っろ考えなさいよ~!!」


…ドMだからだろう…?とは流石に言えずに、そろそろ俺も限界だ。


ルキリ「心配するなリア!

    もともとライバルなどとも思っては居ない!

    ただ…ルキリが…この人を想っていたいだけだ…。

    大切な家族になったんだ…。このリング…ありがとう…!

    でも…一緒には…行けないな。

    

    あぁ…!

    ああぁ…!

    仲間がいて…

    たとえ離れても家族が出来て…

    好いた男とも一緒にいられる!!


    ルキリは…ルキリは本当に幸せだなぁ…!

    

    お前たち…お前たちは……死んだりしないでおくれよ…!」


…出来る限り善処します。

…いや、このままだとヤバイかも…。

リアもいつの間にか痙攣している…。


ルキリ「…な~んだ、お前たち…もう限界か?

    やれやれ…カディス!まだ飲めるだろう!?」


割と限界っぽいカディスさん…


カディス「…ああ…お前に負けたりはしないぞ…。」


ルキリ「みんなそろそろ限界だ。

    あっちで飲むぞ!ルキリと飲む酒はウマいんだろう!?

    酒がトラウマになるまで付き合ってやる!

    ははははは~!」


カディス「ふっはははは~!望む所であるぞ!」


…と粋がるカディスは歩くことも出来ずに引きずられて行った…。

俺も…このまま解放してもらえるなら寝たふりでもしてやり過ごすに限る!



ん…はて…目を瞑って寝ようとすると整理しきれなかった情報の断片を見て整合性の無い情報に違和感を覚える…。


気にはなるのだが…睡眠ではない。

気絶が俺を襲う…。



そして…この一連の違和感の正体に気がついた時には、一つの救済と…

残された者達の想いと後悔が残るのである。


救いとは…状況によっては身勝手な嗜好品となりうる…。

これが人の心というものなのだ…。

     



     




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る