そして…贈り合う気持ち。

リアとシュミカはまだギルドに用が有るというので時間と待ち合わせ場所を決め、

俺とエイナは最低限の身なりを整える為に一度宿に戻る。

時間までに例の買い物も済ませておかなくては…。

部屋に向かっていると…とある部屋の前にサラシェさんが立ち尽くしていた。


俺「サラシェさん、どうかされたんですか…?」


と声をかけるとコチラに気づき…。


サラ「あ…アサヒさん…実は主人が…。」


話によると、知り合いに頼まれて護衛の仕事に出掛けたライゴールさんが泣きながら帰ってきて、一人になりたいと部屋に閉じこもってしまっているそうだ…。


ユリィさんの護衛はアンタかよ!


俺「…そ、それは…まあ、心配ですね…。」


サラ「暫く放って置いたんですが…もう、中から鍵まで掛けてしまって…

   お財布が中に有るので出かけることも出来なくて…。

   返事が無いからきっと布団を被ってねちゃってるんですわ…。」


俺「なにかご予定が?」


サラ「いえ…ただ次もありますので、そろそろ装備の見直しも考えようと…。

   道具屋を覗いて見たかったんですが…。」


これは…もしかしたら助かるかも知れない!

エイナに目をやると、多分同じ事を考えたのだろう。

俺を見上げて、うんっ!うんっ!と頷く。


俺「もしよろしければ…ですけど、とりあえず今日は立て替えますので、

  俺達の買い物を手伝ってもらえませんか?

  実は…ウチの女性陣にエイナが贈り物をしたいらしいんですけど…。

  何を贈って良いものか解らなくて…。」


サラ「まぁ♪それは素晴らしいですわ♪

   是非お手伝いさせてください。」


その後身支度を整えた俺達は道具屋等を巡り、サラシェさんのアドバイスに頼って二人に贈る物を買い、待ち合わせの場所に向かう。


待ち合わせた場所には既に二人の姿があった。


リア「あら、早いじゃない。」


シュミカ「ん、良い心がけ。苦しゅうない…。」

 

…おや…?なにか足りませんよ?


俺「あれ?ユリィさんは?」


と尋ねると、今までに見たことのない絶望に満ちた表情を浮かべたリアが…


リア「…必死に撒いたに決まってるじゃないの…。

   なんて物を引っ張ってきて来てくれたのよアンタ…。

   お酒に毒を入れるわよ…。」


止めてください、お願いします…。

しかし…そんなにヤバそうな人には見えなかったが…。

とはいえ、今日は少し真面目に話したい気分でも有るので…下心は置いておこう。


少し早いようだが、全員集まったので予約してあるという店に向かい移動を始める。


…いろいろと忙しい日だ…。

聞き慣れた大声が耳に突き刺さる。


ルキリ「おい!お前たち!

    勝手に帰っちまって…冷たいじゃないか…今日は約束してただろう!」


なんでまた!?


ガトス「姉さん姉さん!

    仕事です仕事!」


と、例の二人が制してくれている。


ダトス「すみません、姉御!

    明日はよろしくお願いします!」


明日?また何か背負い込んだのか?リアは…


ルキリ「ちぇ~~。ルキリは飲んでた方が働けるんだぞ~…。

    お前ら~!

    明日は逃さないからな~~!」


ガトス「もー!目立っちゃダメなんですってば!」


…と、なんとかこの乱入者も退ける事が出来たようだ…。


そうこうしているウチに予約の店に着いた頃には丁度良い時間になっていた。


この辺りでは人気のあるその店は石造りの大きな建物で、中に入ると多くのテーブルはほとんどが埋まっており、かなりの賑わいを見せる。


予約する時に顔を合わせていたらしい女性店員がコチラに気づき、小走りにやってくる。


店員「いらっしゃいまっせ~、スティルノア様。

   お待ちしてまっした~!」


と、トレンチを胸に抱えて敬礼のようなポーズで八重歯をむき出しにして笑うその小さな店員は、吹き抜けになっている店内の三階の奥の静かなスペースへと案内してくれた。

テーブルの脇には一階のキッチンに繋がるパイプがあり、その脇の箱に入っている小石を落とすと各テーブルに繋がるパイプを通して下とやり取りが出来るとのことだ。


とりあえずは三人は、例の『バリ』と呼ばれるビールのような泥水(実際は違うのだが…原料を見てしまうともうそうとしか思えない…。)と、エイナの為にオススメの果実のジュースを注文する。


店員「かしこまっリました~!少々お待ちくださいまっせ~♪」


と小走りで階段に向かった店員を見送り、テーブル側に目を向けた途端に後方の階段かガラガラガラ…ドシャン!という音が響く…。

するとあちこちから笑い声と共にその音源に…

「ノイちゃん、今日も派手な階段落ちだなー!」

「店壊すんじゃね~ぞ~!ははは!」

「料理運ぶ時は勘弁してくれよ=!」

…などと野次が飛ぶ。

店員「あたた…平っ気で~っす!お騒がせしっました~~!」

との声の後にドッと笑いが起る。

どうやら名物店員のようだ…身体は大丈夫なのかな…?


リア「…思ったよりも賑やかねぇ…。

   静かに話せる場所って聞いたのだけど…。」  


とはいえ、下の階に比べれば静かなのは間違いない。

多少値の張るらしいこの階のテーブルは、よほど満員にならない限り利用者数は少ないそうだ。

…ちゃんと稼いでおいて良かった!

必死にメニューを覗き込んでいるシュミカとエイナに戦慄を覚える!


まぁ…実際に稼いでくれたのはエイナなので好きに食べさせてやろう…。

いざとなれば換金できる物は…いつの間にか多少は有る。


やがて飲み物が運ばれて来る。


店員「お待たっせしました~♪」


先程の店員さんだが、傷がひとつもない!?これは聞かずにいられない…。


俺「あの、身体大丈夫なんですか?」


飲み物を置き終えた店員さんは、得意げに八重歯をむき出しにして微笑み、


店員「あ~、よく聞かれるんっすけど~、

   自分、両親がちょっと特殊でして~身体メッチャ頑丈なんっす~♪

   だから運ぶものがない時は注意力なくなっちゃうんっすよね~☆

   お騒がせでしたらスミマセンでっす~!

   では、ごゆっくり~~!」


そう言って仕事に戻る彼女はまた大きな音を立てて、『落ちて』いった。

…絶対わかっててこの階の担当にされてるだろう…?

多少賃金も良いのかも知れないが…。


…ソレは俺が心配する事では無いな。

体をテーブルに戻すと、シュミカとエイナがパイプに向かってアレやコレやと喚いている…


俺「…心配しなくて大丈夫だから…。

  とりあえずテーブルに乗る量からにしなさい…。」


注文を済ませ、酔いが進む前にまず済ませることが有る。


俺「エイナ、二人に渡す物があるだろう?」


足をブラブラさせてジュースをに夢中だったエイナはハッと顔を上げ、小脇においていた小箱をテーブルに並べる。


エイナ「あのね…これ…その……プレゼント!」


恥ずかしくなったのだろうか…テーブルの下に潜ってモジモジしている。


リア「あらあらぁ!本当に!?

   うれしいわぁ~!!」


シュミカ「ん!どこかの朴念仁とは育ちが違う!」


どこまで俺を貶める必要があるのか!?


リア「形が違うけど…どっちがどっちなのかしらぁ?」


すると、エイナはニョキッと顔を出し、照れながらもコッチがコッチ…と分けて箱を押し出す。

デザインはサラシェさんに選んでもらったが、ものとしては共に魔力を高める魔法具である。

シュミカはネックレス、リアの方はブレスレットのチョイスだ。

イメージ的にもしっくり来たので、すぐに決まった。


もちろんそこで子供相手に冗談でもあっちが良かったなどと言い出す二人でもなく、

とても喜んでくれたのだが…少し微妙な空気も流れている…。


シュミカ「ん…リア…。」


と、促されたリアもまた少し照れながら小袋をテーブルの上に置く。


リア「お姫ちゃん…ありがとうねぇ~。

   あたしたちからもプレゼントがあるわぁ~、出てらっしゃい♪」


もぞもぞと顔を覗かせるエイナを持ち上げて椅子に座らせる。


シュミカ「ん…ありがと…とても嬉しい♪」


と、シュミカも笑顔でエイナに気持ちを伝え、リアの脇をつついた。


リア「わかってるわよ~。

   さっきギルドでお揃いがどうとか言ってたじゃない?

   だからね…。」


と、袋の中から五つの小箱を取り出す。

一つ一つを全員に渡し、ソレを開けてみると…リングが入っている。

これも魔法具のようで、どの指につけてもサイズがピッタリ合う♪


リア「それほど高価な物じゃ無いけど…その…仲間っていうか…家族に?

   …なった…印というか……なにか欲しいと思ったのよぉ~…」


と、今度はリアがシュミカに抱きついて照れ隠しをはじめた…。

自然と全員に笑いが生まれる。

…なんていい感覚だろうか…。


エイナ「ありがとう!お姉ちゃん達!

    ボク…とっても嬉しいよ!」


俺「ありがとう、たいして役に立たないけど…

  今後ともよろしくお願いします!」


シュミカ「ん、まったく!改善の余地あり!」


…また笑い声が上がる。

テーブルの上に残った最後のひとつの箱、もちろんギリアさんの物だ!


これを渡し、またこうやって今度は五人で楽しくやるまで絶対に死ぬわけにはいかない!

静かにそう誓い、改めてこの家族との出会いに感謝する。


やがて運ばれて来た料理の山にテンションマックスのシュミカとエイナを微笑ましく眺めながら、

まずはリアの旅の目的から尋ねる…今までの流れである程度の性格なども把握しているので、想像は難しく無いのだが…。


リア「んん~そうねぇ…。

   本当に正直に言うのだけど…本当に特に無いのよ…。

   強いて言うなら…旅をしたかった…。

   小さな頃から漠然と思っててね…お姫ちゃんと同じじゃないかしら…?

   いろいろ見たいと思ったのねぇ…。」


まあ…そんな所だろうとの予感は有ったが、ソレをきちんと聞けただけでも意味はある。

もやもやは一つでも消しておくに限る!


リア「あ!!旅に出る頃に一つだけ思っていた事があったわぁ!」


…それもなんとなくわかる気がする。

手に取るように呼吸もわかる…。


そして…指を差し合いハモるのだ。


「カディス(さん)とユリィ(さん)から逃げ出したい!」


お互いに大笑いした後に少しだけリアの昔話が始まる…。






    

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