そして…始まる前の唄。


それなりにほろ酔い程度ではあるが、それぞれ開放的になっては来ている。


もちろん相手の言いたくなさそうなことまで引っ張り出そうとは思わない、

だだ…もう少し聞いてくれたら言いたいのに…程度の、線引が曖昧になる頃合いだ。


俺自身この世界の旅になにかの目的が有る訳が無いのだから、何の批判をする訳でもない。


ただ、もう半歩相手を知るためのコミュニケーション…世間話がしたいのである。


テーブルに肘を突き顎を右手の中指と人差し指に乗せて、リアは新しい家族と共有したい思い出を検索している。


共に過ごした時間は数ヶ月程度であるが、あちらの世界とでは明らかに密度が違う!

シュミカももちろんだが、リアの…スティルノア等という姓すら知らず…

出身地や過去の知人が今日一日でワラワラと出てきて情報過多にも程がある。


リア「…そう言えば、なんでユリィなんかと面識があるのよ?

   アレ、あたしと知り合うまでは一人でひたすら魔導の研究してるだけの娘で、

   変な研究機関にも狙われてた変な娘なのよ…。」


と、聞いて…とりあえず今日の出来事を簡単に話して聞かせる。

もちろんライゴールさんの件まで。


リア「はぁ…、確定ね。」


と、一言漏らしたリアは空いた左手の中指でコンコンっとテーブルを叩く。

すると一つ飛ばしたテーブルで静かに時間を過ごして居た数人の客がバッと立ち上がって、その場を後にする…。


ななな…?


リア「…気にしなくていいわぁ…。

   今ので今日のお仕事は完全に終了だから…さあ!飲むわよー!!」


と、パイプに石を投げ入れたリアはワインの様な果実酒を樽で注文し、シュミかとエイナもなんだか盛り上がる!


俺「…なあ、シュミカ…絶対にエイナに酒はダメだからな!?」


シュミカ「ん!もちろん!

     子供に飲ませる酒があるなら自分で飲む!」


ここまで食べ物に夢中だった二人もやっとコチラに意思を割く余裕ができたっぽい。


エイナ「で、おかーさーん、あのユリィお姉ちゃんは何なの~?

    たぶんギリアっちと肩を並べるくらいだよ…アレ…。」


リア「誰が『あ母さん』よ!」


リアがペンっとエイナのおでこを叩き、エイナがべっと舌を出すまでの完成されたやり取りを記録して残せる道具を…誰か!!


…と、まぁサラッとユリィさんの強さのレベルが判明した…。

しきりに王立なんちゃらとか叫んでいたしな…。

その都度、魔法具の開発者の趣味で~…とか弁解はしていたが、アレは確実に本人も楽しんでいた!


リア「…もう昔の事だからちゃんと覚えてないのよぉ。

   確か…スクールの頃ね…。

   あんなだからユリィはイジメの対象だって…皆は思ってたみたいなの…。

   

   あたしは…そ~言うの好きじゃないから近寄らなかったんだけど…。」


当時、よくある子供のグループ闘争である。

貧しい家庭の出身だが、明るく目立って人気のあるリーダーシップ基質のリア。

王家の出身だが他人に興味がなく、取り巻き達に持ち上げられるカディス。


本人同士はほぼ面識もない、もちろん興味も無い。

だがそれぞれの神輿を担ぐ者達は自分達が掲げる者の優劣を競い合いたいのである。

決して自分がその高みに上がり、肩を並べようなど考えには全く無い。


やがて蚊帳の外で我道を行く異端の存在であるユリィにも手が伸びる。


先に手を出したのはカディスの取り巻き連中であった。


もちろん曲ったことが嫌い(『当時はね…若かったから…』本人談。)だったリアはユリィを擁護し(1キラリ♪)、

それまで誰からも直接に表立って敵対行動を取られたことの無かったお坊ちゃまカディスは、

「王族なら自分を慕う仲間の不始末くらい飲み込みなさいな!」…との言葉に感銘を受けてしまったらしく…(2キラリ♪)。


それからは執拗に二人からの求愛から逃れる日々だったとのことである。


…ちなみに、リアが本当にユリィを毛嫌う理由の一つは…

ユリィがもともとリアに好意を持っており、カディス陣営を貶めたと告白されたかららしい。

しかも子供にはとても言えない状況下で…。


エイナ「一緒にお泊りしても嫌いになっちゃったの~?

    強くて優しかったけどな~…。

    …ボク頑張るから、いつか仲良くなってくれたら嬉しいよ!」


…とのまばゆい笑顔に…

年長者の俺とリアは耐えられず目を伏せる!


後も、「そうね…」「そうだね…」…と、子供の純粋さに目を反らすしか無い!!


後は真面目な話として…貧しい家庭で育ち、竜人は成人率がとても低い傾向にあるらしく…報酬の殆どはギルドを通して実家に送っているとの事をサラッとシュミカが暴露する。


リア「ちょ!…気まずくなるじゃないの!」


…との言葉に、シュミカはまたしても邪悪な視線をコチラに向けて尋ねる。


シュミカ「…ん、気まずい?」


…答えは…本当に気まずい!


俺「…なんだそれ!今まで知らずに手助け出来なかったとか…

  逆に俺からの貸しだと思え!

  戦力にならないし…防具以外に金の使いみちは無いんだからな!俺は!

  でも…ありがとう。」


…悪態のつもりが、最後にありがとうだったのは…酒のせいだ。

無駄金は使わない!

…なるべく!w


…そこそこ出来上がってエイナとじゃれ合っているシュミカ…もちろん急ぐわけでもないから今日中にいろいろ聞き出さなくては行けないわけではない。


それにリアとは違って多少込み入っているのはなんとなくリアからも情報をもらっている。


しかし…かつてのパーティメンバーでも、聞いてもどうにもならなかったらしいとの所までは知っている。

ただ、俺自身はそれすらも聞いていないので、できれば家族…としては委ね切れないのかも知れない…。


急がない。

ユックリだ。


何にしても、リアの話は聞ける所まで聞いたのだし…

等のシュミカは…ふわふわタイムである。


その時突然店内の明かりが落ちる!


下のフロアからは大きな歓声が上がり、一度静まる…。


何かのイベントか…?





そして…戦力にはなれないけれど、自分にも少しは出来る事があると知る。

…必要とされる場面は…その後あるのだろうか…?



   


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る