そして…アナタに逢いたくて。

先にお花を摘みに行ったユリィさんに気を使ってユックリと階段を降り、二十一階層の扉を開けたまま俺とエイナは立ち尽くしている。


今の所は上からの光でお互いの顔を認識出来てはいるが、その先は真っ暗闇なのである。

ま、予測はしていた訳だし、今回はユリィさんがなんとかしてくれるだろう…とエイナと話し合い、彼女を待っている次第である。


エイナ的にもマップを暗記していても尺度がわからない、敵は気配で倒せても…見えない所で襲われて魔物の餌に成り果てようとしている俺のガードまでは出来ない。

「お腹減ったかも…」との証言も取ったので、そろそろ転移石も発動の時間ではなかろうか?

などと考えていると左の通路の扉が開いた音が響き、この一区画が明るく照らされた。


ユリィ「…あ、お待たせしました~!」


と言いながらパタパタと走って来たユリィさんへの一言が…


エイナ「あ、お姉ちゃん…ウンチちゃんと出たぁー?あはは~♪」


で、ある。

またもや顔を真っ赤に爆発させ…


ユリィ「違います~オシッコですよ~!

    もぉ~…エイナちゃん!

    女の人にそんな事聞いたらメッ!なんですよ~!」


オシッコとか答えないで良いです。


エイナ「え~?そうなの?アサヒ~。」


キラーパス来た…。

先程のエイナの質問に対して…

「もちろん快便よぉ!」とか、「モリモリ出たわぁ!」とか返してくる『女の人』が身近にいるので心苦しい!


俺「そ…そうだよ。人によるけど…ユリィさんは恥ずかしいみたいだから、

  そーゆーのは理解できるまで、リア相手だけにしておきなさい…。

  嫌だって言われた事を繰り返したら、

  ユリィお姉ちゃんに嫌われちゃうぞ~…。」


必死です!

俺自信も…『おしりに痛みはありませんでしたか!?』と訪ねたいが我慢している!


ユリィ「…アサヒさん~…。」


と、ユリィさんがコチラを見てきた!

あれ?今の口に出てませんでしたよね!?


ユリィ「お仲間にリアという名前の方がいらっしゃるんですか~?」


と、両手を組んで目をキラキラさせながら寄り添ってくる!

…胸の感触……全くもう、わがままだなぁ…♪


俺「は…はぁ…、でもまぁ…よくある名前みたいですけど…?」


すると突然ユリィの独言が始まる。


ユリィ「リア…きっとその名を冠する、

    貴方の友人も素晴らしい方に違いありませんわぁ~!

    幼い頃からノロマだのナメクジだの言われて友達の居なかった私に~…

    初めて手を差し伸べてくれた方も『リア』というお名前でしたの~♪」


…あ、そですか…。


ユリィ「あの方が居たからこそ、私もここまで来れたのです~!

    突然『旅人になりたいから…』と、私の前から姿を消してしまって…。

    リア様…私は貴女に逢いたくて…レイヴンからシーティスカヤに移住して…

    手に入れた使いっ走りの身分を利用して各地に飛び回っているのに…!」


…なんか続いているようなので、内容をまとめてみると悪い予感しかしないので覚悟を決めてエイナに尋ねる。


俺「…なぁエイナ…

  さっきからお姉ちゃんが繰り返してるシーティスカヤって…」


興味なさげに聞き流していたエイナに、ニョンっと電源が入る。


エイナ「うん、レイヴンが小さな王国だった頃の隣の魔導大国だった所だよ♪

    戦いが始まった時は皆レイヴンが負けるって笑ってたんだけど…

    零也お兄ちゃんだけは勝つって言ってたんだよ…。

    『どんなに一撃が強くても…

     戦略、戦術を知らない烏合の衆は…ただ自滅する道化だよ。

     記憶したかい?エイナ。

     コレは私の予言だよ、ははは~♪』

    ってさ…意味は良く分からなかったけど…。

    結局そうなった~って言ってたね♪」


それはモノマネか?だとしたら◎です。

…しかし、あの男はその戦争にも何か仕込んでいたのだろうか…?


ユリィ「ああ!リア=スティルノア様~!

    貴女は今どこに~…!」


やっぱりそうか…リアさんモテ期ですか?

きっとこの出会いにも精霊とやらの暇つぶしの手が加えられているに違いない!

ユリィさんは個人的に超好みなので巡り会いには感謝だが…

面倒ごとは御免なのでこれ以上は深く踏み込まないのが妥当だろう。


エイナ「あ!同じ名ばべ…!!」


直感でエイナの口を両手で塞ぐ!


俺「はぁ…残念ながら、

  ウチの『リア』はご期待に添える『リア』ではなさそうです…。」


するとユリィさんは、ハッと我に返り…


ユリィ「あ…ごめんなさい~!

    ず~っと探してる人なもので…

    その方、地元ではとても人気の有る方だったんですよ…

    変なオスに付きまとわれてたりもして…

    きっとアイツのせいで旅に出るなんて言い出したのに違いないのです!」


…そのオスとは割と楽しくやっているように見えたが…。


俺「レイヴンというと…ユリィさんも竜人…」


と言いかけた所でグイッと手を下に引かれる。


エイナ「もー!

    お話はいいから先に進もうよ~!

    アサヒにもズドンするよ~!」


ヤメテ!呪われますよ!?


ユリィ「…ズドン…?

    …にも?」


俺「いえ、 なんでも無いです!

  そうですね!早く探さないと!!俺達の転移の時間も近そうですし!

  …あと、明かりの準備してなかったので、お願いしてもいいですか?」


ユリィ「あ、もちろんです~。

    行きましょう行きましょう~。

    時間無いんですものね~。」


簡単に流してくれる人で良かった…。

強者故の余裕かな?


この後は、このまま時間があれば余裕でこのダンジョンの記録を更新出来そうな勢いで進むのだが…

そこに有るの知ってたの!?と聞きたくなる様々なトラップを二人が

『小石に躓かないようになんて気を配って歩かないでしょ?』と言わんばかりに越えて行く直後にことごとく俺が引っかかり、あまりにも進まないものだから…

今、俺はユリィさんにオンブしてもらい…


…たかったのだが流石にそれは却下され、これも影響を受けているのだろうか?

リアお得意のアレによって浮かされている。


周囲の安全が確認される度に全員で戦利品の回収と例の羽や竜の幼生体の痕跡を探して進む地味な作業が続く。


ユリィ「ふふ♪

    アサヒさん…無力すぎて素敵です~!

    ず~っと守ってあげたいです♪」


…もう…殺して貰っていいですか?


エイナ「ダメだよ~!

    ボクはまだちっちゃいから出来ないけど…

    おっきくなったらボクがアサヒを担いで戦うんだからね!」


…永遠にお荷物のイメージ…でしょうね。

その通りです!その折はよろしくお願い致します!


その繰り返しの果に辿り着いた問題の二十三階層!

このダンジョンの記録保持パーティはこの階層で消息を断っている。


二十二階層?

知りませんよ、イッパイイッパイだったんじゃ無いですか?


他の冒険者には本当に申し訳ないのだが…運ばれながら、敵の居なくなった場所を捜索するだけの簡単なお仕事しかしていない俺には…本当に何の実感も持てないのです…。


やがて辿り着いた二十三階層中ボス部屋の前である。


道中にいろいろと感じた疑問をユリィさんに訪ねた所、この辺りは知名度も高くなく、初級者ばかりが集まっていたために難易度の鑑定が曖昧だったのだろうとの事。


件の竜の幼生体の噂が広まらなかったら上級冒険者が集まる事も無かっただろうとの事。


それらを聞いて、それが精霊達が仕込んだ遊びなのかどうかはわからないが…。

ただ言える事は…

そう、全てには理由が有る。


だからこそ、このとても良い人に…ウチのリアを紹介して良いものか悩む…。

俺は大好きだが、リアは苦手そうな人種であろう。


…俺としては仲良くしたいのだが!

正直に言う!

おっぱいが好きで何が悪いか!?


…なんてことを考える程度しか出来ることの無い俺は、いつの間にか中ボス部屋にいて…

なんか見えない壁…ユリィさんが張ってくれた結界だろう物に守られている。


いつもの演出の後に現れたのは…なんと表現すれば良いのだろうか…?

例えるなら…

『半透明で宙に浮かぶ顔がついた白い布』…であろうか?


簡単に言うと、おばけ。

ゴーストである!


壮絶なバトルが始まる!…と思い隠れる場所を探す俺の耳に一言…


『…浄化。』


ユリィさんが発したそれで簡単に中ボスらしき存在は消えてしまった。

…本当に?

とも当然思ったが…その後何も起ることもなく、やはり今のが中ボスであったらしい…。あっけない…。


記録保持のパーティが辿り着いた先が何故ここまでだったのか?

という理由は現れた階段を降りる途中で知ることになる。


骨と化した複数人の屍…。

その辺りに多数散らばる輝く物…。


どうやら先人は中ボスを撃退した後この階段でたまたま『ソレ』と遭遇し、破れた…。

おそらくはそうであろう。


先程ユリィさんに見せて貰ったレプリカの羽に似てはいるが、美しさは比べ物にならない存在が数枚だが落ちている。


そのパーティは竜の幼生体と遭遇して全滅したらしい。


エイナ「あ!アサヒ、時間みたいだよ!」


と、突然目の前が暗くなる!転移か?


慌てるユリィさんの声…


ユリィ「あわあわ…受付で待っててください~!

    すぐに私も~転移石を割って……」



…やがて視界がひらけると目の前には腕を組み、呆れたように俺を見下す受付嬢の顔があった。


受付嬢「全く…石ころが来た時は、帰還後にぶつけてやろうと思いましたが…。

    二十三階層からの帰還を認めます!


    当ダンジョンのレコードキーパー認定です。

    おめでとうございます♪


    それと…この羽のような物…換金とされてましたが、

    高価過ぎて…コチラでは対応出来ませんので、

    もう少し大きな街のギルドか…

    それなりの物流に投下されたほうが良いかと…。」


…裏市場的なものがあるの?


その例の羽一枚を受け取り、これまでの経験を今の現実に置き直し終えた所で馴染みの声を聞く。


シュミカ「ん…帰って来た。お店は予約済み。

     覚悟するといい♪」


リア「あらお姫ちゃん!汚れ過ぎよぉ!お着替え買わなくちゃ…」


…ほんの数時間でしか無かったはずだが…何だこの安心感!

邪悪であるシュミカですら女神に見える!


シュミカ「ん…なにか失礼な意思を感じる…。

     この男のお金で新調すべき。

     エイナが居たのだから稼いだ…でしょ?」


俺「はいはい…。」


エイナ「アサヒ~~!おそろいのペンダント…消えちゃったよ~~!」


その御蔭で無事に帰還できたんだ!

兎にも角にも稼いだ金額は装備に掛かった金額を遥かに超えていたので安心だ。

美味しいごはんを食べに行こう…と…


ユリィ「アサヒさ~ん!待っててくださいって言ったじゃないですかあ~…。

    あのパーティはちゃんと弔って…」


100パー忘れてた!

やばい!

面倒くさい事になるかも!?

…ふとリアに目を向けると…もう信じられないというか…


地獄でカディスさんに会ったような顔をしていた…。

…ごめんなさい!カディスさん…でもそうとしか表現できなくて…。


ユリィ「…り…リア様ぁ~…リア様!ああ!」


そして……

…デジャブであるが、硬直したまま抱きつかれてなすがままにされるリア…。

それを見て、とりあえずリアが旅に出ようと決めた理由の何割かは理解出来た気がした…。






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