そして…それはダメなチャレンジです!

回復を済ませた俺達は、この階層で入手した物をギルドに転送するための部屋にいる。

小さなその部屋には岩を切り出したテーブルのような台があり、

そこには魔法陣のような物が書いてある。


俺「コレ、どーすんの?」


背伸びしてテーブルの上を覗こうとしているエイナを持ち上げて說明を請う。


エイナ「えーとね…まずはこの真中に送りたい物を置くでしょ?

    で、ココ。」


指さされた所には四角く囲われたスペースがあり、

エイナが指でなぞるとその軌道が光の文字になって浮かび上がる。


エイナ「ココに名前と、送った物をどうして欲しいかを書くんだよ。

    今はボクが書くね。

    『アサヒ=ハザマ、全部換金よろチクビ。』

    で、バンって叩くの♪」


すると魔法陣が光りだし、そこに置いてあったものは消えて無くなった。

はぁ…コレまた便利だな……じゃねぇ!


俺「ちょっと待ちなさい、エイナ…。

  じゃ、今のは俺の名前で『よろチクビ』ってメッセージが送られたのか…?」


エイナ「…あ…。

    …戻ったら、またあのお姉さんに怒られちゃうかもね…☆

    あはぁ…。」


俺「…わざとだろう…?」


エイナ「ゴメンね…ついノリでやっちゃったんだよ…。

    一緒に怒られて上げるよう…。」


某大先生の、『わざとじゃない!?』のクダリを求めるには荷が重かったか…。

しかも本当にわざとじゃないっぽいので、ここは流しておくとしよう。


俺「じゃ、それで頼むよ…。

  ところで、ココに文字を書けば…

  送る物がなくても上にメッセージを送ることが出来るのか?」


もし出来るなら、これは危機に瀕した時に使えるかも知れない。

あちらからの返事は期待できなくてもいい。

『どこそこでヘルプ!』を伝えるにはとても便利だ。

場合によっては自分達の救出クエストを依頼だってできるじゃないか!


エイナ「ん~…どうだろう?

    物を送る場所ってしか思ってなかったから…

    ちょっとやってみよっか♪」


と、そこに字を書くために再度、抱っこを要求される。

背後から手を回してお腹辺りで手を組んで持ち上げる…


俺「…なぁ、言葉をちゃんと口に出しながら書くんだぞ…。

  いずれ俺も字を覚えるからな…。

  嘘は必ずバレるぞ…。」


エイナ「だ、大丈夫だよ…。変な事は書かないよ…はは…。」


…やばかったかも知れない。


エイナ「えっと…じゃあ、

    『ゴメンね』…と。

    いいでしょ?」


まあ…いいか。と、頷く。


エイナ「じゃあ…バン♪」


書かれた文字は何事もなく消えてしまった。


エイナ「…ダメみたいだね…。

    やっぱり物が無いとダメなのかも…。え~っと…

    あ、コレでいいや♪」


と、エイナはテーブルの隅っこにあった石っころを魔法陣に放り込んで

再度先程と同様の文字を書いてバンっと叩く。


すると魔法陣と文字は光りだし、石っころは消えてなくなった。


エイナ「何か物とセットならイケるみたいだね!

    すごいや!

    お腹減ったら、ごはん持ってきて貰えるかもね!」


実際に暫くした後に同じ事を考えたあちらの人がいたらしく、

デリバリーシステムを作り上げて一財産を成したらしい。

おかげで各エレメンタルダンジョンの攻略率は飛躍的に上がることになる。


…閃きとは、それを形にする行動力が伴って初めて真価を発揮するのだ。


しかしさて、今の問題はそれじゃない。


俺「なぁ、エイナ…君ならさ…

  嫌悪するような事を言われた後に、

  ゴメンねって石ころ渡されたら…どう思う…?」


エイナ「……。」


抱っこされたままのエイナは反り返りながらユックリと顔をあげて俺の顔を見た後にまた魔法陣の方に目を落として同時に肩も落とす。


傷口が広がった!


エイナ「ごめんょ、一緒にあやまるよう…。

    それより先に進もうよ~。」


それもそうだ。

先程送った物が換金されたとしてもドリンクいっぱい程度にしかならない。

もっと下に行くか、お宝でも拾って稼がなくては!


俺「そだな。

  じゃ、行こう!頼りにしてるからね、エイナ!」


エイナ「うん!」

    

その後はエイナもやる気を出し、走り去った後に残された魔物の残骸からガイドブックに書いてある素材を拾い集める役割を俺が担う。

そして各階でアイテムを送り、その中で自分の名前と、

『換金でお願いします』という意味のスペルだけは覚えた。


やがて十三階層、眼の前の扉を開けると中級向けエリアに入って初の中ボス戦である!


エイナ「アサヒ、やってみる~?」


俺「ん~…、そうだな~、

  経験も欲しいしやってみようかな…。

  ただ、ヤバそうに感じたら遠慮しなくていいから頼むよ。

  まだまだヘバってられないし。」


エイナ「了解だよ♪

    じゃ、開けるよ~。」


ユックリと扉を開け、いつもの簡単な演出の中にも油断はしない。

明かりが灯り、姿を現したのは…多少の予想もしていたがやはりコイツ!

その名は元々種族名ではなく個人名だったはずだが…様々なファンタジーで

初期の強敵として設定されることの多い魔物!

どうせコチラでは『頭が牛の変な狂戦士』とでも呼ばれているのだろう。


そう、『ミノタウロス』…実際は『ミーノータウロス』だったかな?


そんな事はどうでもいい。


敵は…『敵』だ!


俺は勢い良く飛び出し、不意打ちを狙う!


俺は期待に答える男だ!

…盛大に勢いよくスっ転んで、

地べたに這いつくばった俺の上を一陣の風が駆け抜けて行き、

顔をあげた時には魔物の上半身は消し飛んでいた。


エイナ「…アサヒって…まじアサヒだよね…。」


やめて!


小石を手の中でポンポンと遊ばせ、くるくるとワンピースの裾をはためかせながら近づいてきたエイナは…

俺の目の前にしゃがみ込んで俺の頭を撫でる。


エイナ「でもそんなアサヒだから、

    可笑しくてボクは大好きなんだよ♪

    この調子でどんどん挑戦だよ♪」


ああ、なんて強くていい子なんだ…。





そして…この角度だからこそ気づける事もある。


俺「エイナ…そろそろパンツは履きなさい。」

   

何チャレンジだよ! 

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