そして…選ぶは修羅の道。
ここからは中級者以上向けとされる階層が続く。
何とかエイナの影に隠れてやり過ごすしか無いのだが、安全が比較的保証されているウチに色々と経験を積んでおかなくては…!
ひとまずは先程の傷を癒やすべく、先生のアドバイス通りにガイドブックを読みながら回復の泉に向かっている。
魔物のようなのも出てきてはいるが、先程までとは違って小さなコウモリや少し大きめのネズミ…そんな相手が多い。
この程度なら俺でも何とか出来そうなのだが…確実に感じる違いがある。
『野生っぽさ』と『明確な殺意』だ。
上層階の、ただ猪突猛進に突っ込んでくるだけの奴らとは違い、知恵が有る。
とはいえ今回ダンジョンの様なものは初めてだが、
コレまでも簡単な洞窟の探索程度なら仕事でやってきた。
ここの所、ギリアさんやエイナに頼る事が多かったから忘れていたが、
あちらの感覚で半年だかそれ以上は生き延びて来たのだ!
そう言えば…コチラにも季節のようなものは有るのだろうか?
たまに年の話のような事もしているし…何かしら周期の様なものは有るのだろうが…。
今までの『あちらからの客人』の方々が様々な文化や思考を根付かせてくれているので、あまり違和感を感じずに来たが…。
少しずつ思いついたら調べていこう。
なにせ元の世界ですら四季を重要視するのは、あの小さな島国程度だった…なんて聞いた気もするしな…。
郷に入っては何とやら…だ。
そんな事を考えながら、既に道を暗記しているらしいこの…
最近気がついたのだが、いくつかのパターンが有って今のお気に入りは、
くるくる回って、ててててて…
くるくる回って、ぴょんぴょん。
次は逆方向に、
くるくる回って、ててててて…
くるくる回って、ぴょんぴょん。
…を繰り返しながら先を進むエイナを眺めながら進んでいる。
その動き…なにかの修行のような行動なのだろうか…?
俺「なあ、エイナ~…も少しユックリじゃだめかぁ…?
まだ色々痛くてさぁ…。」
ぴょんぴょんくる!っと回って立ち止まってくれるエイナ。
エイナ「あ、そーだったね~。
大丈夫かい?
もう少しなんだけど…痛い所があるなら舐めてあげるよ♪
出してみて?」
お願いしたい!!
いや、だがダメだ!!
…ほんとにもう一度…零也に遭遇できないものか…。
趣味嗜好はそれぞれの自由だ。
だが、実際の人物を混じえたうえで
やって良い事と悪い事の違いについて教えてやる!
…数多の事故物件をバラ撒いて勝手に消えてしまいやがって…。
この子はまだお前を忘れない様にチョコチョコ名前を出してくる…。
その度に寂しそうにしているし…
その度にコチラは大変気分を害するのだ!
俺「あ…大丈夫だよエイナ…。
それは無事に戻って、寝る前に頼むよ…。」
エイナ「そなの?
ん、オケだよ♪
今日は一緒に寝ようね~、あはは~♪」
よし!
やる気出た!
もう何も怖くない!
痛み?
そんなの幻想です!
俺「そげぶ!」
エイナ「…?
何を言ってるのさ、アサヒ?」
俺「…元気の出るオマジナイ…かな?」
そうこうしているウチにそのポイントにたどりついた。
…まあ…現実にはこんなものですよね…。
イメージとしては、大きく開けた空間に小さな滝があったりして、
いかにも地下水脈!…な物を想像していたのだが…。
ちょっと大きい水溜り…としか表現出来ない。
一応チョロチョロと上から流れ落ちて来ているので
飲むぶんにはいけそうだが…
まあ、こんな上層階でそんな大ケガも無いか…。
エイナ「あ…何かこの水を入れておける物が有ると良かったね!
回復ポイントなんて寄ったこと無かったから…。
次は覚えとこうね♪」
はい、ご迷惑をおかけしてるのは重々承知しておりますよ…。
しかし流石だ!
その水は一口飲む度に身体に染み込んで行くのがすぐに体感でき、
あっという間に身体の痛みは消え、軽くなった!
俺「見た目はアレだが…凄いな…。
こういうの、先にもたくさんあるのかな?」
エイナ「ん~ここのは2~3階層に1箇所あったり無かったりかな?
その本に書いてある先はわかんないけど…。」
そんな先まで行かないから大丈夫です!
エイナ「もう大丈夫なら先に進もうよ♪
…実はね…アサヒにだけ言うけど…
何か高く売れる物を持って帰って、
お姉ちゃんたちに今までのお礼がしたいんだよ!
…さっき…あのシュミカお姉ちゃんですら凄く悲しんでたし…。」
…確かにその通りだが…『ですら』って子供の口に出させる程のシュミカ!
エイナ「でも…何をあげれば喜んでくれるのかわかんないから…。
出来るだけ先に進んで、良い物が欲しいんだよ…。
アサヒはお姉ちゃんたちが欲しいもの…わかる?」
そんな事を考えていたのか…。
俺「…ん~、俺は考えたことも無かったよ、ハハッ☆
…とは言え、そうだな…
あの二人に直接言いたくは無いけど…
俺もなにか今までのお礼はしたいかもだなぁ…。
実際そうなる事になるだろうけど、
俺はずっと足手まといだったって言ってくれるなら…
付いては行くからちゃんと守ってくれよ、エイナ。」
エイナ「うん!もちろんだよ!」
あの二人が喜ぶ物ねぇ…。
金、酒、食べ物…馬への貢物と…俺の不幸…?
エイナ「…お姉ちゃん達が喜ぶ物…何か思いついたら教えてね、アサヒ…。
ボクも頑張るよ~♪」
はは…くるくる回って照れ隠ししているこの姿も可愛いなぁ…。
だけど…俺も送る側じゃなくて送られる側にいたかったなぁ…。
まぁ、いい。
アバウトだが、とりあえずの目的のようなものも決まった。
時間的にも体感であと3~4時間くらいなものだろう。
戦いはエイナに任せられるし…どんどん進んでしまおう!
俺「よし、ここいらであの二人に恩を売ってやるぞ~♪」
あ…つい本音が…
エイナ「…アサヒって…まじアサヒだよね~…。」
お前が言うと色々混乱するからやめろ。
俺「と…とりあえず…傷も癒えたし、進もうか。
そんなに時間は無いからね…。」
なんにしてもまずは今夜の飲み代だ!
出すと言ったからには、想定の5倍は用意いておかなくてはいけない。
幸い手元にあるガイドブックには金銭的に狙うべきアイテムランキングも載っているので、楽に手に入りそうな程々の物を数多く集めるのだ!
エイナ「…でね…、アサヒ…。
十五階層から先がその本に載ってない方のルートの先に
行ってみたいんだけど…。
何があってもボクの全力で守るからさぁ…。
…どうかな…嫌ならアサヒはここで時間を待っててくれてもいいけど…。」
…あ~あ…。
何処の世界でも孤独な強者を支えるのは、その強さの想像も出来ない弱者の役目なのだ…。
ふと元の世界でのバンド活動時代の事を思い出す。
孤高で在りながら寂しがりやで、「あの人には近づくな!」と、キャラ付けされて…
何も知らない自分の様な人間をとても大事にしてくれるのだが…
不器用な優しさで突き放そうとする…そんな大先輩がいたな…。
あの人は今どうしているのか…。
俺「エイナ…大丈夫だよ。
守ってくれるんだろ?
まあ…怖いけどさ…信じてるし…。
いや!行こう!
俺が行きたいんだ!あの二人をあっと言わせてやろう!」
パァァっと輝くエイナの笑顔。
まだ十分な戦力になれない俺の仕事は…
この笑顔を曇らせない事だと、今、思い出した!
ついていくぞ!
いつか役に立てる男になるのだ!
この子は男の子ではあるが、俺達の大切なお姫様!
その上とても強くて頼りになる存在!
何を迷うことが有るものか!
共に進もう、どこまでも!
エイナ「良かった!
ありがとう!
…でも念のために聞くけど…
コレまでそのガイドブックにルートが載ってないの…
なんでかわかる?」
はははっ!そんなの簡単な話だ!
…誰も帰って来れなかったから…です…ね…。
俺「…今言っただろ?
信じてるってさ。」
ポンっとエイナの頭に手を置き、後はただ祈るのみ…。
そして…この後エイナは一つの禁忌を犯してしまう…。
その一滴から起こった波紋がやがて大きな津波となって帰ってくるのは
ず~っと先になるのだが…。
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