そして…俺達の戦いはこれから…です!

ギギギ…とユックリ扉を開き、静かに中に入ってまず一礼。


俺「よろしくお願い致します!」


土で作られた椅子に腰掛けて腕を組んでいるその魔物は…


魔物「何か…言っておきたい事はあるのかな…?」


と睨みつけて来る…。


俺「…あ…はい、先程は…つい勢いとは言え…

  大変失礼…いたしました…。

  この度は心を入れ替え、勉強させていただきたいと…

  思う次第でございます…。」


ふうっ…とため息を着いた魔物はスッと立ち上がり、握手を求めてくる。


魔物「ちゃんと出来るじゃぁないか…。

   

   腹は立ったが、キチンと謝罪の出来た者を追い詰めたりはしないぞ、私は。


   だが、相手が敵であるといっても礼節はわきまえなくてはダメだ!

   覚えておきたまえ!    


   では、構えなさい…。


   いざ尋常に勝負、というやつだ!」


魔物も漫画とか読んでんのか?

…まぁ、同じ事の繰り返し、しかも初級者の相手ばかりを続けてれば…

息抜きも欲しくなるものなのか…。


やがてお互いに剣を構えて少し間合いを取り、戦いは始まった。


明らかに手を抜いて戦ってくれているのは感じるが…それでも戦い慣れてない俺からしてみれば必死に相手をしなくてはとても太刀打ち出来ない。


様々な攻撃を同じ角度や強さで何度も繰り返され、受け流し方が多少わかる様になりかけた所で絶妙に軌道を変えてくる…。


いい先生じゃないですか!


魔物「よしよし、少しは慣れてきたようだね。

   では少しスピードアップ!スキあらば、たまに当てていくぞ!」


と、スピードも上がり攻撃の手順もランダムになっていく!

だが本当に慣れて来たのだろう。

動きに追いついていける!

もちろんランダムとはいえ、それぞれの攻撃の軌道は今まで出てきたいくつかのパターンそのままだ。


俺、暫くココに通いたいかも知れない…。

この魔物が俺の師匠だ!


暫くの間その様な戦いというか…そんな事が続き、そのうち相手が距離をとって動きを止める。


魔物「…オッケ~…。

   だがもっと攻撃を覚えなくてはいけないな!

   ところどころにスキを作ってたのに相手の出方を待ってばかりじゃ、

   いずれ疲れて倒れてしまうぞ!」


俺「はい!ありがとうございます、先生!」


魔物「防御も大事だが、スキを見つけたら素早く戦いを終わらせる!

   君は50回は死んでいたぞ…。


   常に一対一などという事は無いのだからな。


   ちなみに私は先程からあちらの小娘が投げてくる小石を避けながら

   指導していたのだが…気づいていたかね?」


あ、もう指導とか言い出しちゃったよ…。

でも確かに気づかなかった!

なんて視野の広い!


魔物「討つ受ける避ける見る感じる!

   そして生き残れる立派な冒険者になってくれ給え!

   次は三連撃のあとにスキを作るから見事に私を討ち取るといい!


   ただし…それが出来なければ君の冒険は私の手で、ココで終わりとする!


   行くぞ!!」


ゴクリ…!

ここは先生をガッカリさせてはならない!

集中だ…。


まずは上段をコチラから見て左に受け流す!

その流れから左斜め下からの攻撃を右へ!


…この軽い剣に買い替えて置かなければ、今のは間に合わなかったかもしれない…。


その次に来たのは…今まで一度も出て来なかった…突き!


間一髪のところでクルッとギリギリで身をかわし…


相手は勢いのままコチラに背を向けている…。


何という…何というカッコ良さだ!

背中で語る…「さあ、今だ!」と。


本当に今、俺は本気で貴方に憧れた!

先生、ありがとうございました!

俺は…


先に進みます!


と、その背中に一太刀…。


魔物「よく出来た…。

   今後も精進するんだよ…。

   

   この下は大広間…最初の試験だ…。

   

   心の準備をしっかりして来ると良い!


   先に行って待っているよ…。」


と、言い残し…またもやサラァっと地面に戻っていった。

 


気を落ち着けて、それまでの自分の動きを反芻する。

…もっと頑張ればちゃんと戦える様になりそうな気がして来た!


これからは他の街でもダンジョンに挑戦してみよう!

初級者向けだけ!


俺「…終わったよ、エイナ…。」


と、見ると…丸まって寝ているエイナがいた…。


ヒマだったよねぇ…すみません…ちょっとハシャイじゃいました…。


揺すって起こそうとしてもなかなか起きない…

何とか運ぼうとしていると…


「あの…自分、次の冒険者の担当なんだけど…

 そろそろ来るからとりあえず下に進んでもらえない?」


と、先ほどと全く同じ風貌の魔物がオロオロしている…。

中身は違いそうだけど…


俺「…あ、すいません…。

  俺、体力無いもんで…この子運ぶの手伝ってもらって…いいすか?」


やれやれ…といった感じで下の階層まで運んで貰って、礼を言う。


魔物「こちらから手助けするのはこの階層までだからね。

   この下からは皆、本気で殺しに来るから気をつけるんだよ。

   じゃあ頑張って!

   縁あってまた会えることを祈ってるよ。」


と、手を降って、その魔物は階段を登っていった。


…良い人ばっかりか!


さて、エイナは寝たまま。

そしてここはボスの間だ。

気を引き締めよう!

…と正面を向くと…無数の岩が飛んでくる!


何とかそれを避けると同時に背中に衝撃が走る!


攻撃を…受けた?

呼吸が…整わない…。


もう一度激しい衝撃を受けて…俺は意識を失った…。










…声が…聞こえる…


「アサヒ~…起きてよ~…アサヒ~…」


エイナ…すまない…

身体が痛い…情けないお兄ちゃんだったなぁ…


ここで終わりだなんて…この夢が覚めてくれれば…


…いや、そのくだりはまだ早い!


身体は痛いが頭は冴えてきた…。


ユックリ目を開き、頭を起こして周囲を見ると…

エイナと例の土塊の魔物が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる…。


魔物「おお…目を覚ましたか…。心配したぞ…。」


エイナ「もぉ~、ほんとだよぅ…。」


魔物「まぁ、その怪我は授業料だと思いたまえ…。

   本当の初心者に最初からネタバラシしても為にならんから

   熱血指導したがね…。

   どのエレメンタルダンジョンも最初は本当にチュートリアルなんだ。

   

   それぞれの冒険者の状況を見て指導する。

   

   今回、実際には一番最初の不意打ちが一番の正道だよ。

   

   私は精霊様にこういう風に作られたから意思疎通も出来るが…

   ほとんどの野生の魔物はそうではないからね。」


エイナ「ゴメンね…。

    ボクはクルセイトのダンジョンで知ってたんだけど…。

    零也お兄ちゃんにも、

    初めての人には言っちゃダメって聞いてたから…。」 


なるほど…本当に厳しい世界に来たんだな…と、今更ながら思う。


魔物「魔物だけではない。

   この様に意思疎通が出来るからこそ、

   同族の敵にも気をつけて欲しい。

   

   今回のように気持ちや思考をコントロールして、

   最後に手のひらを返して汚い攻撃に転ずるのは

   君たちのような種族の専売特許なはずだろう?」


…ごもっとも…。


魔物「とりあえず、そちらのお嬢ちゃんの強さは認めるから、

   先に進むのは許可しよう。

   ガイドブックはあるんだな?」


俺「あぁ…はい…。」


魔物「まずは次の階層の回復の泉に向いなさい。

   そこの水を飲めば軽傷が、暫く浸かればそこそこの怪我の回復も早まる。

   致命傷には効かないからな。


   下に降りてすぐだから迷う事も無いだろうし、

   敵が来てもお嬢ちゃんがいれば問題は無いだろう。

   

   あと、この先で我々のように意思疎通の出来る魔物はいない。

   その様な素振りを見せてもそれらは全て罠だ。

   

   それらを踏まえ、

   より良い冒険者になって精霊様達を楽しませる存在になる事を期待する!


   …我々は通り過ぎて行った者たち全てを記憶し続けていて、

   そして記憶は各地で共有されているんだ。

   

   だから…汚い手でもなんでも使って生き残り、

   この先何度も逢える事を楽しみにしているよ。

   アサヒ=ハザマ。


   チュートリアルはコレで全て終了!


   さあ、行きたまえ!」


…何か少し感動がデカイんですけど…!


俺「はい!ありがとうございました先生!

  またご指導お願い致します!」


そう言ってこの階層を後にして、怪我を庇いながらヒョコヒョコと階段を下る…。


俺的にはコレまででも割とキツかったんだが…。

これからがスタートか…。


それでもここから先はエイナ先輩が頑張ってくれるだろう…。


俺「ゴメンなぁ、エイナ…。

  最初っからボロボロになっちゃったよ…。」


まだ所々痛みが残る…。


エイナ「大丈夫!

    この先はボクの遊び場だよ♪

    泉でアサヒが回復したら探検スタートなんだよぅ♪」

   





そして…自分自身の少しの成長を感じ、

多少の様々な決意を胸に俺は思うのだ!


「早く強制転移の時間来ねぇかなぁ…」

…と!

    

  

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