そして…思い出は黒い絨毯の下に。

場を仕切り直して俺達は一人の竜人の男を囲う。


カディス「さて、初対面の者がいるので改めて自己紹介しておこう。

     我が名はカディス=レイヴン。

     レイヴン皇帝ブレム=レイヴンの弟にあたる。」


エイナ「レイヴン家ってたしか…

    ご先祖が響きのカッコ良さでその名を名乗って、

    それがアサヒ達の世界の鳥の事だって知られるようになってから


    『鳥に憧れた竜族』


    って呼ばれてるアレだよね♪」


知っている情報をとにかく言わずにいられない無邪気な言動にヒヤッとしたが…

予想に反してカディスは上機嫌で大げさに前髪をかきあげながらエイナの方を指さして言う。


カディス「そのとおり!

     よくご存知だな、可愛らしいお嬢ちゃん!

     『鳥に憧れた竜族』…なんと詩的で甘美な響き!

     我が一族に相応しい!!」


…なんでも良い方に解釈する、おめでたい性格のようだ。


リア「…馬鹿にされてんのに気づきなさいな…。」


カディス「で、お嬢ちゃんと…そこの男は何者かね?」


とりあえずは妙な誤解を生まないように、コレまでの経緯を話して聞かせる。


カディス「…そうか、あちらからの客人と…クルセイトの第三王子…。

     男の子であったか!

     うむ、どちらにせよ美しいのは良いことだ。

     

     か~わい~ねぇ~!!」


可愛いと言われながら髪をワシャワシャされて、エイナはご満悦である。

…子供の扱いに慣れてるな…。


カディス「…そして、アサヒ殿か。

     よろしく頼む。」


と、差し出された手を握り、高圧的でない態度にもつい好感を持ってしまう。

コレが高いコミュニケーション能力という物か!?


リア「いいから早く話しなさいなぁ!

   ルキリ姉さんはどういう状況なの?」


カディス「…うむ、順を追って話そう。


     アサヒ殿は知らぬ事なので言っておくと、

     我は少し前に冒険者としてあのパーティに参加しておってな…。」


シュミカ「ん、それは嘘。

     リアを追って勝手に付き纏っていただけ。

     ボスもとても迷惑がっていた…。」


少し考え込む様にしてから、カディスはシュミカに顔を向け…


カディス「……ねぇ…それ、本当…?」


と、とても悲しそうに落ち込んだ…。


リア「面倒くさいわね!引っこ抜くわよ!」


カディス「あ!角は!角はやめて…!

     

     ゴホン…。ま、まぁいい。

      

     そうこうしている間に母国周辺で戦争が起こってな。

     流石に遊び歩いてもおれんので我は国に戻り戦いに参加するのだ。

     

     やがて我が兄ブレムと赤髪の戦友や仲間達の活躍で周辺諸国を平定し、

     竜人が多くを占める帝国を立ち上げた訳だ!」


アンタの兄の戦友の髪が赤毛だろうがどうでもいい。


俺「…その赤髪の人は割と早い段階で命を落としませんでしたか…?」


カディス「おお!アサヒ殿はあの悲劇をご存じか!?

     …我もあの場に立ち会っていてなぁ…。」


きっと名前はジークなんとかさんだろう…。


リア「早く進めないと…

   アンタも割と早い段階で命を落とすことになるわぁ……。」


…リア様が刃物を持ち出したので、チャチャを入れるのはもう止めましょう…。


その後の話の流れはこうだ。


暫くは大人しくしていた彼だが、戦後処理も落ち着き、政治向きでは無いカディスはまたリアを求めて度に出る。


やがて以前のパーティの情報を得て合流した時には、リアとシュミカ…とついでに俺はハグレた後だった訳だ。


パーティの方はメンバ-全体の生活も有るので人探しの余裕が無く、

リアの捜索を引き受けたカディスが各地を回り俺達(リアを)探してくれていたそうだ。


いい人も極まったな、コレ…!


リア「…そういう善意の塊みたいな所が嫌いなのよ…。」


褒めているのか貶しているのかわからないが…多少の感謝はしているのかな?


一月程度を目安に合流地点を決め、カディスはパーティと情報を共有するためにその街へ向かう途中だったそうだ…。


カディス「…何やら胸騒ぎはしていたのだ…。

     その辺りは砂の国周辺でな。

     『凶暴でなんでも襲うデッカイ軍隊アリ』

     に襲われる冒険者も多いのだ…。」


軍隊アリって言ったな?

そこまでネーミング出来て何故そこからが大雑把なのか!?


シュミカ「ん…アリの話は嫌なので僕はあちらの酒盛りに参加してくる…。」


…何かを悟ったのだろう。

青ざめた顔のシュミカはそっとエイナの手を引いてその場に背を向ける。


エイナ「?

    ボクは平気だよ?」


半分寝ていただろう!


シュミカ「ん…宴には華も必要。

     聞きたければ後で聞けばいい…。」


そう言われて、長い話に退屈していたエイナはくるくる回りながらシュミカの後に続いた。


エイナ「アサヒ~!またあとでね~♪」




ふぅっとため息を着いたカディスは…


カディス「さすがシュミカ殿…。

     確かに子供の耳に入れるような話では無いな…。」


ココまで来るとリアもある程度までは悟り、話を急かしたりはしない。

というか…聞きたくない。


だが…聞いて置かなくてはならない…。   

    

カディス「…続けて良いか?」


俺とリアはお互いにチラッと目を合わせ、ユックリと首を縦にふる。


カディス「だいたい考えている通りだ。

     我もあの生き物は苦手で空から移動していてな…

     ふと大きな黒い塊を見つけてしまった…。

   

     少数のパーティならあそこまでは集まらん…。

     それに襲われているのが

     自分に関係ない者達でも見捨てるなど出来ん質でな。


     とにかく急いでそこに向かったのだが…。


     そこには大きな岩の上で一人分の強力な結界を張り、

     一面に広がる黒い絨毯に囲まれた彼女の姿があったのだ。


     …もう放心状態で無心に結界を維持していたよ。

     きっと精霊達にも好かれて居たんだろう…。


     救出の為に結界の強制解除をしようとしたらすぐに受け入れてくれて…

  

     抱き上げて空に逃げ延びた後は…ただひたすらに

     『ごめんなさい、ごめんなさい…』

     と繰り返すばかりで会話にもならなかった…。」


そこまで聞いて、リアはバッと立ち上がり…血の気の引いた顔でフラフラとその場から離れた。


カディス「…結界に守られた自分の目の前で…

     仲間達が刻まれて餌として運ばれて行く様を…最後まで見ていたのだ…。

     

     …あの時点で彼女の心は死んでいた。 

     我としても思い出深かったあのパーティは…


     『全滅した。』」


聞きたくない言葉No.1だった。


もちろん悲しみは大きいが、それに加え…


運命の朝、もしかしたら…シュミカが酔いつぶれずに、俺も勘違いして慌てず、

あの場でパーティの帰還を待っていたのなら…

きっと姉さんのトラウマの一部になっていたのだろう。


カディス「アサヒ殿、我は異世界とやらからの客人には何人か出会ったことがある。

     貴殿の世界はどの様な所だった?


     争いの絶えない世界、平和な世界…鉄で身体を作り治せる世界…

     色々な場所から来た者たちが居たが…。」


俺「…まあ…平和な世界…ですかね?」


一概には言えないが…。


カディス「そうか、素晴らしい世界に産まれたのだな。

     だが、この世界は違う。

     

     残酷に思えるであろうが…それぞれ必死に生きているのだ…。」 

     

…大自然の営み…

…それに全てをどうにでも出来る精霊とやらが居て、

暇つぶしに災厄を撒き散らしてくれる地獄のような世界だがな…ここは。


コレは…本気で元の世界に帰る術を探すべきかも知れない…。


すこしの間そんな話をしているとリアが戻ってきた。

色々と事情を飲み込んで来たのだろう。


真っ赤になっている目元をカディスに向けて、


リア「続きを聞くわ。」


と、静かに伝えた。


カディス「うむ。

     まあ…大体の出来事はそういう事だ。

     その後も彼女は精神が壊れたままでな…。

     一度国に連れて行き…禁忌スレスレだが記憶の改竄で

     何とか自我と、ある時期までの記憶だけは取り戻す事が出来てな。


     …もちろんあの日の記憶だけは封印させてもらったよ…。


     過去に触れない会話と日常生活くらいは出来るようになったのだが…

     目を話すと……すぐに死のうとするのだ…

     皆が言うには…無意識に、

     仲間を見殺しにした罰を求めているのではないか…?との見解だ。

    

     それで出来るだけ一生懸命に、

     我としても慣れない厳しい態度をとる様にしているのだ。


     しかしそれが癖になってきているようでなぁ…

     叱ってやると喜ぶようになってしまって困っている…。


     学者や魔道士連中からも、心の拠り所が必要と言われてな…。

     どうして良いものやら…。


     …ルキリ=スターニーの件に関しては、以上だ。

     コチラも精一杯保護しているつもりだ…。


     理解していただけると…助かる…。」    


う~ん…。

こんな良い人を何故煙たがるのか…?


リア「…全てを飲み込める訳ではないわぁ…。

   でも…そう、皆…もう居ないのね…。

   姉さんが元のままでは無いにしても…

   会えるようにしてくれた事に関しては感謝するわ…。


   ありがとう、ごめんなさいね…。」


珍しくリアがコレまでの非礼を詫びる。

もちろん俺もそれに続くのだが。


カディス「…我としても元の彼女を知らない訳ではないし、

     今後も努力していくつもりだ。」


リア「…まあ…時々変になるのを流せばいいのよね。」


ゆるい!!


リア「…あと少し聞きたい事が有るのだけれど…。」


カディス「なんであろうか?

     出来る限り嘘偽り無く答えるが…。」



リア「アンタ程の魔力を持った存在がこんな所にいるせいで、

   この辺りの生態系が変な事になってるの理解してるのかしら?


   あとなんで私兵まで引き連れて野営してるのよ?」


カディスは少し考えて…ハッと顔を上げる。


カディス「ああ!

     仕事であった!!」


…さっきのスライムの群れや、

ここ数日の魔物に遭遇する確率の上昇はコイツのせいか!!




そして…また出来るバカが増えた。    

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