そして…彼女はもう居ない。

カディス=レイヴンと名乗ったその男は、カエルの様に地べたで潰れている。


先程リアに抱きついていた時にどうやら、短すぎて普段は目立たない尻尾に触れてしまったらしい。


今まで一度も聞いたことの無いような高い声で

「ひゃんっ!」

っと叫んだ彼女は数少ない得意な重力系の魔法で、その男を押しつぶしている最中である。


リア「あ…あんたいい加減にしなさいよ!」


潰されたままの男は、その姿勢のまま笑っている。


…あなたも真性の何かですか!?


カディス「ふふふ…

     本物だ!リア=スティルノア…

     本当に…死んだと…諦めていた……。」


震えながら声を絞り出している。

俺がコチラに来る前の知れ合いなのだろう…。


リア「…カディス…。」


カディス「…だから…もっとスキンシップを!!」


と、一瞬リアの力が抜けたのか、

サッと身を翻して男はまたリアに飛びつこうとする!

     

が、エイナがとっさに割り込んで踵落としを食らわせて、

男はまたカエルの様に地面に叩きつけられた。


エイナ「ボクのお母さんに何するのさ!?」


ユックリと…焦点の定まらない目でエイナを見上げながら男は狼狽している。


カディス「え…?…え…?

     おかあ…さん…君の?」


ふと見るとシュミカがニヤニヤとコチラを眺めている。

お前の入れ知恵か…。


この男達との関係性は知らないが…

どうも周りのあちらサイドの人達も口を出して来ないと言うことは…

まぁ、オッケーなんだろう…。


それも踏まえ、エイナもなんだか乗ってきたらしいのだが…


エイナ「そーだよ!ね!おかあさ…」


と、振り返った瞬間に


リア「違うわよっ!」


パンっ!!と、上から地面に叩きつけられた。


例の男は呆然と震えながらコチラを見ている…。


カディス「…お前が…父親か…?

     そうなのか…?」


と這い寄ってくる…怖い怖い!


カディス「リア殿が選んだ者なら…我は身を引く…

     幸せに…してやってくれ…。」


いや違います…と言いかけた時に…


ルキリ「カディス様!

    ルキリが!ルキリがおります!!」


と、ルキリ姉さんがカディスに飛びつくのだが…

コントはココで終わりだ!

と言わんばかりにそれを跳ね除けてスッと立ち上がる。


カディス「控えろ!ルキリ=スターニー!!

     お前の出る幕では無い!!」


ルキリ「すみません!すみません!」


と、カディスにすがるルキリ姉さんを見ているのは辛い…。

何なのだ?この光景は!


ああ…殺意が満ちてくる…。

もちろん先に手を出すのはリアなのだが…。


ガッと首を締め上げ、カディスを宙に浮かせる。


リア「お前!

   姉さんに何かしたわね!!?

   許さない!縊り殺すわよ!!!」


リアの手首を掴んでかろうじて耐えているカディスは…


カディス「…我…死にます…!本当に…降ろし…てくだ……。」


そこまで来てやっと手下の人?の様な兵士二人が割って入る。


「姉御…そのくらいで!ご説明しますので!」


と、リアを静止してカディスを降ろさせ、

顔を覆っていた兜を外して顔を見せると…リアはその二人の顔を確認して混乱しているようだ。


リア「あんた達!…なんで!?」


咳き込んでいるカディスにルキリ姉さんは必死に寄り添い介抱している。

もう様子がおかしいなんて話じゃない。


『傷ついて使えなくなったヤツは敵の餌にして使い捨てる!』


が、持論であるが故の、皆に恐れられるルキリ姉さんなのだ!!


とにかく再会してからずっと気持ち悪い!



その後リアを『アネゴ』と呼んだ二人の兵士がリアの足元に跪いて頭を下げる。


兵士「スティルノア家の御息女であらせられますリア様!

   この度は…え…と…ごめんなさい!!」


うわぁ…この女まで本当は姫とか…本当にやめてよ…。


リア「…考えてる事はわかるわ…。

   安心して。私は普通に売れない鍛冶屋の三女よ…。

   いつか地元の近くを通ったら荒屋に招待するわ…。


   悪ふざけは止めなさいな、ガトス、ダトス!」


兵士「お久しぶりですね!

   姉御!

   ……死んだって聞いて…自分らも辛かったんすよ~~!」


と、二人の兵士はリアに抱きついて泣き出す。


…お前はどこでもお母さんなのか?


それを眺めていると、暇を持て余したシュミカがす~っと隣へやってくる。


シュミカ「ん…説明…いる?」


俺「…お願いします。」


シュミカ「ん。

     まずあの偉そうでバカな竜人。カディス。

     レイヴン皇帝の弟。

     リアにぞっこん、ストーカー。

     ずっとリアを追いかけて付き纏っていたけど、

     出来る兄が周辺諸国を平定して皇帝になってからご無沙汰だった。

     あなたが来るずっと前。

     ガトス、ダトスはリアが地元でヤンキーだった時の子分。」


リア「やめろ!

   …てか…なんで軍なんかに入ったんだよ…お前ら…」


いろいろあったんだな…。

それはそうだ。

俺等がコチラに来るずっと昔からこの世界には営みがあり、

人と人は繋がり続けていたのだから。


…俺はあちらの世界でココまで思い入れしてくれる人と繋がれて居たのだろうか?


仮に居たとして、その彼らはこの様に感情をあらわにしてくれるだろうか?

もしくは逆の立場であった場合…俺は心からそれを表現出来るだろうか…?

再会した時に心から喜び会える関係…無くはなかったな。


彼らは今頃どうしているのだろう…?


そんな事を考えながらシュミカの言葉をスルーしている間にカディスさんが回復したようです。


カディス「ガトス、ダトス!

     これからはセンシティブなアレだ!

     ルキリ=スターニーを……少しココから離せ…。

     

     彼女らに全部説明したい…。」



兵士「は!」


と、敬礼して、ぼ~っとしているルキリ姉さんを介護するように…


兵士「…はい、ルキリねーさーん!あっちで飲みませんか?」


と、促しながらコチラへの配慮も忘れず、

『おまかせください』

と、口には出さず頭を下げて去っていく心遣い…とてもロイヤルです!


ルキリ「あれ?なんだい!

    アンタ達いたんだね!?」


兵士「いい酒手に入れたんですよ~…」


などと言いながら丘の方に連れて行かれるルキリ姉さんを見ながら、

正しさの所在などどうでもよく、ただただ悲しくなる。


やはり…認めたくは無かったが、他の何がおかしい訳ではない。





あの人が壊れている。





その理由を聞かねばなるまい。

…もう存分に嫌な予感はしているのだが…。





そして俺は…やはり世界は残酷なのだと改めて知るのだ。



        




     

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