そして…お任せ致します…

ある程度の話の流れは理解するしかない。


大きな声で楽しそうにハシャイでいるルキリ姉さんが

俺達を見つけた時に仕事を忘れて飛びついてきたのもわかる。


で、その仕事とやらだが…それは流石に少数ながら兵を率い、こんな所に身を隠している状況を考えても簡単に話せる事では無いだろう。


いや、ちょっと聞けば話してしまいそうな相手だからこそ聞く訳には行かない。

ルキリ姉さんが先程ポロッと漏らした敵とやらが街なかにいるのだとすれば尚更だ。


面倒事に巻き込まれてたまるか!


ここの所ギリアさんやエイナに助けられていくつかの窮地をあっさりと乗り越えてはいるが、俺とリアとシュミカの三人がまだまだ半人前の存在で有ることに変化はない。


…姉さんの事もここの人達に任せておいて問題ないだろう…。


そんな事を想いながら、

今は大きめのテント内で先程無理やり始まった昼間の宴に混じっている。


こうして見ている分には、あの頃と変わらないルキリ姉さんがそこにいる。

余計なキーワードを与えたりしない限りはパニックを起こしたりもせずに普通に過ごせる程までになっているというのは、精霊とやらの力に頼ったのだとしても…

それはそれで感謝する以外にない。

カディスさん達にも…そしてもちろん、


ここまで生き残ってくれたルキリ姉さん本人にも。


ルキリ「アサヒ!飲んでいるか!?」


こうして接している分には違和感のない姉さんを引き取る程度の甲斐性もない自分に腹を立てていると、テントの外でリアに怒られていたカディスさんが顔を覗かせる。


コレまでの道中で皆が時々言っていた、

「この魔物は普段こんな所にはあまり居ない」という情報。

詰まりは大きな魔力に怯えた小さな魔物達が縄張りから離れたせいで、

玉突きのように影響が広がったに違いない。と、言うのがリアの見解だった。


だとしたら…あの村の惨劇にも影響があったのかも知れない…。

もちろん理由あっての事なのだろうだから、俺ごときが口出し出来る範疇ではない。


カディス「ルキリ=スターニー。

     今回の報告がまだであるぞ。

     先に済ませよ。その後は構わんから…。」


ルキリ「は!失礼いたしました!


    …じゃあルキリはちょっと仕事してくるからな!

    楽しんでいるといい!」


と言い残して姉さんが出ていった後のテントの中には…

数人の兵の深いため息と重苦しい空気が押し寄せてきた…。

    

…お疲れ様です…。


入れ違いに入ってきたリアはその様子を見て…


リア「…ちょっと、私がシラケさせたみたいにしないでよ…。」


俺「あんな話を聞いた後じゃなぁ…。気分的にも微妙だよ…。」


シュミカ「ん…さすがのエイナもホラこの通り…。」


俺がコチラに混ざった時には既にエイナは

乱れた服装で放心状態で固まっていた…。

…かわいそうに…何があったのか…。


ダトス「まぁ…あの人の事は我々に任せて、姉御は旅を続けてくださいよ。」


ガトス「そっすよ。

    あの人も普段は普通の人と変わりませんし…

    忙しくしていた方が気も紛れるでしょう。」


ダトス「アレでも飲酒量も減って来てますから…大丈夫です。」


リア「そう…。

   所でなんであなた達まで軍に入っちゃってるのよ…?」


ガトス「いや、帝国の軍に入らず安全に姉御の帰りを待てるように、

    カディス様が私兵として雇ってくれてるんすよ。」


ダトス「ま、今回みたいにちょっとした仕事くらいはしなきゃですけど。

    戦場にでるような事は基本ありませんしね。」


リア「そう…感謝しなきゃね…。

   …私も一杯貰おうかしら…。」


と言って、受け取ったグラスの酒を一気に飲み干したリアは、

俺が提案しようとしていたのと同じ提案を伝えてきた。


リア「ねえ、とりあえず今日はこのまま街に戻らない?

   姉さんには悪いけど…タダ酒に釣られるには割が合わないわ…。


   あなた達に押し付けちゃうみたいで悪いけど…

   私達も気持ちを整理したいわぁ…。」


タダ酒ならまさに今飲んでるだろう!

とは言え全く持って同意です。

あとエイナの消耗がとても心配だ!


俺「俺からもお願いします…。」


ダトス「もちろんです。

    適当に理由つけて置きますから、行ってください。

    カディス様もそのつもりで足止め中でしょうからね。」


ガトス「田舎でゴチャゴチャしてた頃は気づかなかったっすけど…

    意外と気配り出来るんすよ、あの人。

    …姉御が生きてたってわかっただけで自分らは…」


正直どちらがガトスとダトスなのだか理解するほどの時間は過ごしていないが…。

竜人というのは約一名を除いては良い人なのだという認識で間違いないだろう。


ダトス「まだ数日はコチラに居ますし…

    たまには地元にも寄ってくださいね。

    お仲間の方々も歓迎しますので!」


リア「ありがとねぇ…。

   カディスにも…よろしく伝えておいてちょうだいねぇ…。」



と、話はまとまり俺達はその場を後にした。


珍しく気を使ったのと、流石に精神にダメージを受けたシュミカ。

相変わらずの放心状態のエイナ。


その二人を浮かせて運ぶ、複雑そうだが…少し楽しそうなリア…。

 

色々と聞くのであれば…このタイミングであろう。


俺「なぁリア…今夜は俺が出すからさぁ…

  お前たちの話って…聞けたりしないか?

  言える範囲でいいからさぁ…。」


ん…と少し考えたようだが、帰ってきたのは割と軽く…


リア「…そぉねぇ…別に私は隠すような事もないし…

   特別な目的があるわけじゃないから別にいいわよ~。

   別に今でもかまわないけど…奢って貰えるなら後にするわぁ♪」


ふわふわと運ばれているシュミカももちろんその会話を聞いているので…


シュミカ「…ん…。

     否定はしないけど…僕の話はとてもセンシティブ。


     ……言葉にするのは難しい…。

     言える範囲で良いのなら構わない…。


     後は…出てくる料理と飲物のクオリティによるものと推測される。」


とのことだが…流石にコレまで守られてばかり、この先も守ってもらう為にも多少の接待も必要か…。


俺「もちろんだよ。

  言いたくないことまで聞き出そうとは思わんよ。   

  

  …あまり高いものばかり頼まないでくれよ…。」


シュミカ「ん…それは今夜の僕のお腹次第…。」


リア「そぉねぇ…何が食べたいかしらぁ…。

   シュミカ、後でちょっと街を見て回りましょう♪」


俺「…お手柔らかに頼むよ…。」


…少し空気が和らいだ…。


どうせ俺にはあまり金の使いみちは無いのだし…

こいつらの気を晴らす為に投資するのも悪くない。


俺「まぁ、良さそうな店を頼むよ…。」


と、ふと見上げると……無言で死んだ目をしたエイナがコチラを見下ろしていた。


俺「うわ!ビックリした!

  …どうした、エイナ…我に帰ったか…?」


エイナ「…お肉食べたい…。」


俺「あ…あぁ、今日は一杯食べていいぞぉ…。」


コレは多分違うな…。


エイナ「…敵を…喰らいたいんだよ…アサヒ…。」


狂犬の目だ!!


ずっと大人しくしていたから忘れていた…

一番遊びたいお年頃の俺達の守護神!

見たことのない世界ばかりで戸惑っていたのだろうが…

先程の何かで箍が外れたのか…?


ていうか何があったのか…。


俺「わかったわかった!

  まだ時間も早いし、

  街に戻ったら何か近場で出来る討伐のクエストでも受けよう!

  エイナが選んでいいからさ!」


エイナ「…本当?」


俺「ああ!

  ただし近くで出来るものだぞ!

  夕食に間に合わないと、お姉ちゃん達が怒るからな!

  ははは…。」


リア「あらぁ…、お財布だけ置いといてくれれば私達は平気だわぁ♪」


いや、大事な話をする体での奢りだよ!?


シュミカ「ん…気の済むまで行ってくると良い…。

     あなたには汚されたお姫様の心を癒やす義務がある…。」 


だから何があったんだよ!?

お兄ちゃんは心配だよ!?




そして…

実際に知るのは随分と後になるのだが、

守護神の対局にあるウチの死神が一つの決断を決めたのは…

なんかこの辺りだったらしい…。





  

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