そして…呪いは好きですか?

翌朝のギルドである。


これからクエストに出かける冒険者達を送り出し、落ち着きを取り戻しているであろう時間を狙って来たのだが…

それでも賑わっている街だけあって、そこそこの人数が集まっている。

張り出されている募集の張り紙の量も多い方だと思う。


まずは登録を済ませる為に順番を待っているところ、

そのアナウンスは聞こえて来た。


受付嬢「パーティ名『ちんちん団』様~!どうぞ~!」


キレ気味なテンションで呼んでいる。


…とんだバカな連中も居たもんだ。

女性に卑猥な言葉を言わせたいだけの為に自らを貶めるなど…

愚の骨頂も甚だしい!


拳を握り締めてその不愉快な時間をやり過ごそうと震えていると、

さらに怒鳴り声に近いテンションでロビーに声が響く。


受付嬢「『ちんちん団』の『アサヒ・ハザマ』様ーーー!!

    ぶっ飛ばしますのでコチラの窓口までいらしゃいませや!ゴラァ!!」


リア「ん~、あたまに『お』を付けた方が上品ねぇ♪」


お前も前向きに受け入れてるんじゃない!


エイナを睨むと…テヘッ☆とやってるのだが…


許すわけにはいけない!


何故…何故この世界にスマホやカメラがないのか!?

この一瞬を切り取ることの出来ないこの世界を!!


などと悔しさを顕にしていると…。


受付嬢「そこのお前だよ!この変態やろう!!」


俺「はい!すみません!!

  子供のイタズラなんですよ~!

  昨日見てたでしょ!?


  俺は字の読み書きも出来ないんですから!!」


自信満々に建物内に響く程の声で訴えようとしただけなのだが…

言い終えた自分の言葉に少し死にたくなった。


受付嬢「…自分で言ってて恥ずかしくないですか…?」


恥ずかしくて情けなくて消えてしまいたいです…。

周囲の視線が痛い…。


受付嬢「…とにかくキチンと登録し直してください。

    今度ふざけたら永久登録に回しますからね!」



新しい用紙を受け取り今度はリアに記入を任せた。


俺「…パーティ名は空欄だ。

  決して頭に『お』を付けた物にするんじゃないぞ…。

  お前たちもその名で呼ばれるんだからな!」


リア「わかってるわよ~。

   あんた一人ならともかく…さすがにそれはないわぁ。」


スラスラと記入箇所を埋めていくのだが…

今までも記入を任せてきたリアとシュミカはお互いのフルネームや出身地は知っているという事か。


俺「なあリア、お前ってレイヴンって所の出身なのか?」


リア「…何よ…。」


俺「いや、昨日ライゴールさんがレイヴン王国に知り合いがいるらしくてさ、

  お前を見て思い出したんだってさ。」


リア「…王国って言ったの?」


俺「ん?…はっきりとは…。」


リア「ふぅん…。

   大きな意味ではそうね。ただ、今は帝国よ。

   とても広いから…話が合うかは微妙ね。


   あ、お姫ちゃんはクルセイト出身のクルセイトのままでいいのかしら?

   身分バレちゃうけど…。」


エイナ「大丈夫だよ♪

    ボクは気にしないし、あの国に産まれたことは

    ボクの誇りだものぉ~♪」


と、くるくる回っているのだが…

違うぞエイナ、そのクルセイトの名が穢れてしまうことを心配しているんだぞ…。


リア「ま、まぁいいわ…あの国は元々アレだし…。」


まぁそうだな。


リア「はい、出来たわぁ♪

   じゃ、提出してくるわねぇ。」


とりあえず二人には飲みながらでも親睦を深めるために色々訪ねてみよう。 

などと考えていると、クイックイッと服の裾を引かれる。


ふと見るとシュミカが高揚した笑みを浮かべて一枚の紙を差し出してきた。


どれどれ…いや、読めないし…。


シュミカ「んん…♪コレはあなたの為に有るような仕事…。

     報酬も申し分ない。

     手続きを…。」


俺「いや、ちょっと渡せ!」


と、シュミカからその紙を奪い取ってエイナに読ませる。


エイナ「えっとぉ…。

    

    『高度な呪いと解除の実験の被験者急募!

     サポートは万全!

     最上級術士が開発した最新の呪いを最上級術士が解除します!

     呪術の発展に興味の有る方、よろしくお願いします!

     

     なお、実験は特殊な閉鎖施設で最上級神官も同席、

     最悪の場合でもその場で浄化、消滅してもらえるので、

     意識を失ったまま他人に迷惑をかけることも絶対にありません!』

   

    だってさ~。」  


シュミカ「ん、どう?」


俺「『どう?』じゃねぇよ!

   そんな遊びすぎて生活に困窮した学生が

   苦し紛れに飛びつくようなアルバイトで人生に幕を引いてたまるか!」


シュミカ「ん…本当につまらない男…。」


…そうだな…、次の仕事も探さなくちゃだな。

と、壁いっぱいに張り出された募集のチラシに目を通し始める…

…読めないのだが…。


今度本気でエイナに字を教わろう…。


リア「あっちは終わったわよ~。

   何かいい仕事、ありそうかしら~?」


エイナ「これ!これ!どうかな?」


壁から一枚の紙をむしり取って俺に見せてくるのだが…読めないんですってば!

…本当に悲しくなってきた!


リア「どれどれ、貸してみなさい。…え~と


   『ハウルレリル城に新規魔王就任!君に討伐できるかな?!

    

    先日、当城の前任魔王が討伐されましたので、新たに配属されました

    ”フォルナーイ”と申します。

    属性等は今後皆様から暴いていただくとして、

    主に呪いをバラ撒く活動をしております。』」


呪い好きだな!ココの奴ら!


リア「 『前任地での蓄えもありますので

     周囲の街から金品等の強奪などは行いませんが、

     ハウルレリル周辺を実験場とさせていただきます。

     

     土地を少しずつ腐食させていきますので、

     お早めの討伐をお薦めします。

  

     腕に自信の有る勇者共!かかって来ると良い!

     ははははは!


     なお、討伐報酬は城内の金品全てです。

     小さな島程度なら買えると思いますので、奮ってご来城くださいませ。

     お待ちしております。     

                     ”フォルナーイ”』


   だ、そうよ☆」


あ、それでさっきシュミカが持ってきた依頼があったのか…てか、


俺「この世界って魔王とかいるの!?」


リア「いるわよ。

   割といっぱい。」


俺「いっぱいいるの?」


シュミカ「ん…元々はアナタの世界の人達が持ち込んだ概念。

     そして零也の魔王シリーズで火が付いて…

     その強さや生き様、

     仲良くすれば良いのにそうせずにわざわざ勇者にカッコよく滅ぼされる。

     …その姿に感銘を受けた人達が人生を賭けて美学を追求する…

     とても高尚な職業…。」


なんて酔狂な職業だ…。


リア「魔王協会っていうのまで出来て、全世界に広がっているわ。

   

   ていうか、

   そんなのでもなきゃ冒険者なんて

   たま~に魔物を倒して、後は畑を耕すくらいしかやること無いわよ。」


そりゃまぁ…こんだけ人数がいればそうか…。

この世界なりのバランスのとり方…なのか?

…にしても酷い設定だ!


リア「そう言えばギリアの次の依頼も何処かの魔王討伐だったはずよ。」


俺「人間同士の戦争って…そういう意味か…。

  …でも初級冒険者のサポートで楽勝とか言ってたけど…。」


リア「ああ、たまにいるのよね…

   泊を付けたくて新人魔王に挑もうとするバカって。

   まぁ、あの人がいれば大丈夫でしょ。    

   流石にもうわかってるでしょ?

   ギリアがどれくらいのランクにいる男なのかくらい。」


うん、すごいうえ。


エイナ「ボクの兄上も今何処かで魔王やってるはずだよ♪

    一人で国を出る前に言ってくれたんだ♪

    『オレは唯一の大魔王になる!

     そしたらお前は零也と一緒にオレを倒しに来い!

     悪逆非道を貫くから、

     美しくオレを討ち滅ぼす勇者になるんだぞ!』

    って!」 


第一王子が居なかった理由はそれか!?


零也…一国の王家の運命をメチャクチャにし過ぎだろう…。

…もしかしたら…あの洞窟の件が無ければ、零也と第一王子が合流して恐ろしい世界になっていたのかも知れない…。


モグラ…お前は人知れず世界を救っていたのかもな…。 


その時俺達に向けて、出来れば聞きたく無かった声が響いた…


「ちょっと…おまえ…

 アサヒ!アサヒじゃないのか?!

 リア!シュミカ!

 …おまえ達…生きていてくれたのか…!?」


…と、飛びついてきたのは…命の恩人であり、

その後俺達を見捨てて地獄へ叩き落としてくれた

例のパーティに居たメンバーの一人。

ルキリ姉さんであった。

  



そして…今こそ真実が明かされる時が来た…のかな?


…気まずいのはゴメンです…。 


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