そして…美味しくいただきました。

食堂として通された広間は…旅館などによくある宴会でもできそうな畳敷きの大広間。

…和室である。

なんか色々…とっちらかってるなぁ…。


修学旅行や社員旅行のような感じでグループ毎に輪を作り、一人ひとりの前にお膳が置かれるスタイルだ。


他の宿泊客達は既に宴を始めて盛り上がっているのだが…ただ一角がひっそりと静まり返っている…。


理性の箍を何とか保っている獣女王二匹に囲まれて、魂が逃避行動に出ようとしているライゴールさんを視認して…なぜサラシェさんがわざわざ急いで呼びに来たのかを悟った。

申し訳ない!


エイナ「…ライさんが哀れだよ…。

    早く行こうよアサヒ…。

    ボクもお腹ペッコだよぉ…。」


哀れって……仕方ない…いざ、戦場へ!


俺「あ~…お待たせ…しました~…。」


キンッ!!と4つの瞳が俺を突き刺す!!


シュミカ「…ん…、早く…座る…。お料理が…冷める…。」


リア「そ~よぉう…、せっかくですものぉ~。

   美味しくいただきましょお~~♪

   た・の・し・く・ねぇ!」


俺「ちょっと待て!俺は俺で仕事してたんだからな!

  ここも知らなかったし!」


二人「(ん…)ええから早う座らんかいや!」


俺「…あ、はい。」


何系の何組の方々でしょうか…?


エイナ「はは……アサヒ…いただきますだよ♪」


…おお、極まった道の傍に咲く一輪のエンジェぅ…!


エイナ「…あと、なんかゴメンね☆」


…キラッ☆

…じゃねぇ!いつの間にか何処かに何か仕掛けやがったな!?



…とは言え、無事に「いただきます」を済ませてしまえば全員美味しい食事に舌鼓を打ち何事もなく宴は始まる。 



シュミカ「ん…僕はこの、なんかヌルっとしたのを生贄にして、

     あなたのデッキからそのお漬物を強制召喚!」


俺「させるかよ!好き嫌いはいけません!

  …エイナが見てるよ、お姉ちゃん。」


シュミカ「んん~~~!違う!

     優しい僕があなたが好きなものを譲ってあげて、

     嫌いなものを食べてあげようという心温まる話!」


俺「俺もお漬物は好きだわ!そしてそのヌルっとしたのは俺も苦手なんだよ!」


エイナ「あ…ボクそのヌルヌルしたの好きだから…貰って…い~い?」


…コレは…空気の読める出来た子なの?

     本当にそれが好きなの?

     …それとも真性なの…?


俺シュミ「ん…あ、そう?ありがとう…」


と、答えを出しては行けない謎を前に俺とシュミカはその後、

静かにそそくさと食事を片付けた…。


言葉にこそ出さなかったが…ココに、

『エイナの前では何かアレな事に繋がるキーワードは控えましょう条約』

が締結されて…いればいいなぁ…と、切に……。



リア「美味しかったわねぇ~~♪ギルも今頃満足してくれているかしらぁ?

   

   あと、このいい匂いのする床材は…タタミっていうの?

   この草原で座って食事する感じも不思議で良かったわぁ♪」


この街に滞在中の厩舎のギルには、もちろんリアの自腹で最高級の食事が運ばれている。

…と言っても、もちろん良い草や果物程度なのでそれ程値の張る物でもないのだが…。


ライ「喜んでいただけて良かったですよ。

   本当にあの時助けていただけなかったらどうなっていた事か…。


   ぁあ、ギリアさんにもご馳走出来ればよかったんですけどね…。

   

   そう言えば、サラからは聞きましたので、

   滞在する間のご予算は提示額で済むように交渉しておきますから、

   好きなだけユックリして行ってくださいね。」


俺「ライゴールさん達は?」


ライ「我々は…新しい馬車の手配で少し掛かるので、

   二日後くらいには発てればいいな…と思っています。

   次の仕事もありますからね。

   二人で落ち着いて暮らせる様に今は頑張らなくちゃですよ♪」


と、いつの間にか離れた所でリアとサラシェさんに遊んで貰っていたエイナが走ったりゴロゴロ転がったりしながらコチラに来る。


畳か…いつの時代の人かわからないが、そんな職人さんもコチラに来て…その存在をこの世界に残してくれていたんだな…。

もちろん子供の頃の話だが…俺も飛んだり跳ねたり転がったり…

申し訳ないけど、引っ掻いたり毟ったりして叱られるのも…それに香りも好きだった。


ん~、ノスタルジー♪って思ったところでエイナと衝突。


わしゃぁ~~ってやると、身体全体で笑う可愛らしい生き物。


エイナ「はは…あはは……はぁ、

    そうだアサヒ!お風呂だよ!ボク大っきい方が良い!

    みんなで入りたいんだよぉ~♪」


…ん~~


俺「残念だが…本当に残念だが…君は選択を迫られる!  

  クルセイトとは違ってココやこの先では…、

  お兄ちゃん達とお姉ちゃん達は一緒に入れないんだよ!」


もちろんクルセイトでも一般的にはそうだったに違いないのだが…。


エイナ「ん~、なんなん?」


俺「君はまだ子供だから許される…眩く美しき桃源郷と…

  汚さすら消え失せた虚無の世界と…の二択の選択だ!!」


エイナ「アサヒはどっちにいるのさ?

    ボクはどんな世界でもそっちがいいな♪」


…嬉しくて泣けてくるのと、残念で泣けてくるのと、申し訳なさすぎて泣けてくる…

全て純粋な善意。


美しすぎる最高のサイコパスの卵!


孵化だけはさせないように気をつけようと、今、心に刻んだ。


シュミカ「ん…女性以外…特に僕はこの磨き上げたボディは唯一、

     もしくは法外な金銭を代償にしない限り見せるのは無理。

     …というか、僕は部屋のお風呂に一人で入る。」


リア「そおね~、よくわからないけれど…

   そろそろちゃんと分けた方が良いお年頃なんじゃないかしらぁ?」


いや、もう答え出てるから良いだろう…。


俺「じゃ、今日はお風呂入って寝よっか、エイナ。

  あ…そう言えば…」


今日のギルドでの話を忘れていた。


出来れば朝イチあたりでさっさと登録だけは終わらせて

生活費と活動費を稼ぐ為のクエストでも探そう!と提案すると、

もっと遊びたいだの一人で働けだの反論があると思ったが、以外にもあっさりと受け入れられた。


ギリアさんが抜けた事とエイナが入った事が影響しているのかも知れない。

何にしても良い兆候だ。

二人部屋を二つ用意してもらい、大浴場へ向かう。


前回エイナと二人で入浴した時には、エイナが寝てしまったために

倒錯した異常とも言える絵面が広がったもんだが…。

今回もこの可愛らしい存在に欲情する不届きな輩が居ないとも言えない!


軽く震える手を巧みにコントロールしながらエイナの胸元から…

もうバスタオルと呼んでいいだろうそれを巻き付けて、

不届きな視線からエイナを守るのだ!


…こうすると本当に女の子だなぁ♪


俺「お湯から出る時はこうするんだよ、エイナ。」


エイナ「お洋服みたいだね。 

    アサヒはなんで下だけなの?」


俺が胸元からタオルを巻くと、

隠すべき物だけを露出し強調したシュールな変態像を

演出するからだとは言わずにササッと浴室に入る。


先程アレだけ客が居たのだから、コチラも人が多いと思ったが…

以外にも誰も居らず貸し切り状態だった。


そう言えば皆さん、かなり酔っていたみたいだし、

まだ宴会の途中か風呂が面倒になって寝てしまったとかなのだろう。

そのうち増えてくるかもしれないし…今のウチにノンビリしておこう♪


先に身体を洗い流していると、早速バシャバシャと派手な音が響く。


俺「コラ~エイナ~、お風呂で泳いじゃイケナイよ~。」


と、顔を上げるとエイナに並んでライゴールさんが泳いでいた…。


俺「…何をやってるんですか、アナタは…。」


もしかしてコチラではアリなのか?

いや、クルセイトでは一人も泳いで無かったぞ?


ライ「いや~ははは、これだけ広くて誰もいないとね~、

   つい童心に帰りたくなってしまいまして…。」


エイナ「ライのおじちゃん、泳ぐの上手だねぇ~。」


俺「…子供が見てるんですから…ヤメテくださいよ…。」


ライ「はは…失礼、失礼。」


その後、軽く会話を交わしながらノンビリと入浴を楽しむ。

…エイナは音を立てない様に…やはり泳いでいる。犬掻きかな?

まぁ、こんな事も良い思い出になるのは知っているし、

迷惑をかける他人も居ないのだから多目に見てやろう。


ライ「そう言えば皆さん、ずっとこのパーティで?」


俺「いや、元はもっと大きなパーティだったんですが…

  なんというか…ハグレて…しまい…ましてね…。」


軽い経緯を説明する。ただし、捨てられたとは言わない!


ライ「なるほど…また合流出来ると良いですね。」


それは気まず過ぎる!出来れば合わない方向で!


ライ「あ、そう言えば…竜人の方がいましたね…。

   あの方はレイヴンのご出身で?」


俺「レイヴン?」


何だよ、あのワンとかニャンとか鳴く鳥にピッタリの言葉があるじゃないか。

まぁ、意味は違うんだろうけど…。


ライ「あ…ご存知ありませんか。

   古い竜に守護された、割と大きな竜人の王国ですよ。

   仕事の関係でたまに立ち寄るので、友人も居ましてね…。 

   もしかしたら話が合うかも…とね。」


俺「はぁ…今までいっぱいいっぱいで、

  お互いの話なんて殆どしてきませんでしたから…」


…あれ?やけに静かに…


俺「うわああああーーー!エイナーーー!!」


ぐったりして湯に浮いているエイナが流れている!!

お湯の中で激しく動くから、すぐにのぼせてしまったのか!


ライ「お湯は飲んでませんか!?

   とりあえず運びましょう!」


まさか…今後も風呂に入る度にこうなるんじゃないだろうな…。




そして…その翌日から、少しずつ小さな歯車が噛み合い始めるのだ。

  








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