そして…お姉さま!

あの朝の衝撃は忘れない。

だが、コレまでこの世界で生き延びることが出来て、いかに生きる事が大変なのか…、流石に理解は出来ている。


大きなパーティだったし、より大勢を生き残らせる為に足かせとなる存在を排除するのもありだろう。


捨てられた俺達はたまたま運が良く、ギリアさんに拾って貰えて今に至る訳だが…

死んでいれば心から呪っただろう。

だが生き残った今はわかる。


俺が常にあの邪悪な神職者をどうにかしたいと思っている様に!


だからこそ今更…恨み言等言うつもりもない。


ただ…ただ遭遇さえしなければそれでよかったのだ。


だって…んもぅ…気まずくて…いやん☆



その大きな胸の中に俺の顔を押し付け、安楽…窒息死させようとしている、

男勝りだが自分のことを自分の名前で呼ぶ系ハイテンションガール、


ルキリ=スターニー。

通称ルキリ姉さん。


以前のパーティでは人数の多さゆえ、いくつかのグループに分けてあり、

俺達三人がお世話になっていたグループのグループリーダーのような存在であった。


比較的安全な後方勤務、治癒や防御、結界やシールドに特化したグループで、

常に守ってもらっている事にすら気づかず…

役立たずだったことを恥じる以外に今、言える事は無い。


…河の向こうに零也の姿が見えそうになってきた頃…バッと肩を押されて解放され…

久々の酸素と共に体内に取り込まれる大量の肌の香り…。


男ってもう…どう仕様もない生物だな♪


ルキリ「ん~~~ッ!

    本当にどうしてたんだよ、お前たち!

    ボスも探してたんだぞ!

    えっと…ボスは…あれ?

    うん、そうだ!

    心配していた!他の皆も…うん、一生懸命探したんだぞ!?」


…こんな熱い人だっただろうか?

声を掛けてしまってから逆に気まずさを覚えて取り繕っているのかも知れない…

とも思ったが、次の言葉を聞いてそれは違うと認識できた。


ルキリ「そうだよ!

    なんであの結界から出ちゃたのさ!ルキリ姉さんの渾身の結界だったのに!

    …そんなヤバイ魔物にでも襲われたのか?」


俺「…はい?」 



…どうやら認識のズレが巨大過ぎるようなので…

とりあえずお互い落ち着く事を前提に俺達側の認識を伝えてみると……


ルキリ「…あ~はっはっはッ!!

    そうか、そういう事かぁ~…」


…と、立ち上がり、シュミカのローブを背中側から吊し上げて鬼の形相で睨みつける…。


シュミカ「ん…んぁ…く…首…が…しま…りま……。」


エイナ「ちょっと!やめてよ!なんなのさ!?

    お姉ちゃんをいじめるならボクが相手になるんだよ!」


ルキリ「…なんだい?このお嬢ちゃん…。

    ルキリはそのお姉ちゃんのお姉ちゃんなんだよ!

    黙っておいで!」


…なんだか迫力に負けたようで、エイナは子猫がよくする様に俺のお腹に潜ろうと必死でグリグリしている…。


そこに穴は開きませんよ~…。


エイナ「外の人…怖ぃょ…優しく無ぃょ…。」


俺「そもそも結界って…あの日何かあったんですか?」


はぁ…っとため息をついてから、ルキリ姉さんは話してくれた。


ルキリ「あの晩ね…普通にキャンプ張って飲み始めただろう?

    アサヒとリアはさっさと酔いつぶれていたからな…。

    その後さ、すぐ近くの村の辺りから火の手が上がったんだよ…。

    遠目でもすぐによくわかったさ…

    何かしら大きめの魔物に襲われてるってね。

    

    で!


    ルキリ姉さん渾身の大結界を張って、

    後は精霊と上手くやり過ごせばいいだけにしておいて

    皆で援護にむかったのさ。


    そしてその結界の維持をお前に任せただろう?

    シュ~ミ~カ~~!?


    しかも万が一の為に少し程度生活出来る資金も残しいておいたはずだ!」


俺「シュミカ死にます!本当に死ぬので降ろしてください~~!!」


…まさか…クルセイトで言ってた軍資金とか例の物って…!?


ルキリ「で、かなり時間がかかったけど、ようやく倒して、

    怪我人やらの応急処置なんかが終わって、明け方戻ってみたら…

    お前たちが居ないじゃないか!


    もう…そっちの方が大パニックだったよ!

    あ……ボスとか…とか……も…本当に心配してたんだからな!」


もぉっ!

と、その場に投げ捨てられたシュミカを抱き上げながらも、

ささやかな疑問は気になるので…


俺「…シュミカ…

  お前…その後…記憶無くなるまで飲んでただろう…?」


シュミカ「ん…けほっ!…はぁ…は…ぁ……。

     ん。

     そのとおり。

     目覚めた時に半狂乱になってたこの男に影響されて混乱した!

     そう!

     全部この男が悪い!」


シュミカの脇にそっと手を入れて持ち上げて言う。


俺「ルキリ姉さま、献上致します。」


再度襟首を掴んで持ち上げるルキリ姉さん。


ルキリ「ん、苦しゅうない。」


シュミカ「ングううう~うううぅぅう!」


ふふふ…シュミカが逆らえない存在…。

それが味方であるなど最高だ!

最高の眺めだ!


…とは言え…

もう十分に満足したからそろそろ…良いんじゃないかな?


リア「ちょっと姉さん、やりすぎよ…。」


ルキリ「あ、そっかぁ~~♪

    ははは~!

    いやぁ、いつも皆がすぐ止めてくれるからさぁ~~。

    ん~~…


    あれ~?

     

    皆って……誰だっけ~?ははは~~♪」


リア「姉さん…朝から飲んでるでしょう…?」


ルキリ「ありゃ、ばれちまった?はははは!

    

    …でもね…その後いろいろ有ったみたいで皆ともハグレちゃったし…

    アンタ達も死なせちゃったって思っちゃったりで…

     

    ルキリ姉さんも辛かったんだよ~!

    少しは付き合ってくれよ~…。」



全くもう…相変わらず自由奔放でつねに酔っ払ってて…

実はとても頼りがいのある…俺達が大好きだった姉さんとの…再会はとても嬉しいサプライズである!


俺「エイナ、この人もお姉ちゃんって呼んで大丈夫だよ。」


エイナ「…ん~…でもこの人ちょっと苦手だよぉ…。」


ルキリ「なんだい!そんな事言わないどくれよ…

    エイちゃん!」


エイナ「そんな呼び方しそうな雰囲気だからだよ!

    

    アサヒ…怖いからやだよ…あの人…。」


俺「そんな事ないよ。

  いい人だからさ♪

  冒険にはいろんな人を知って理解していくって楽しみも含まれるんだぞ。

  大丈夫。

  力の方は無理でも、そっちは俺達が守るからさ!」


そうだ。

始めて自身を持って守ると言えた!


俺達はこちらから、この子を守るのだ!


決してちっこい子供に守られるだけのダメな大人じゃない!


エイナ「はぁぁぁ…♪

    う……んっ…わぁ…は~…♪」


…少し引くくらい喜んで飛んだり回ったりし始めて怖くなったので、

テンションに合わせて安定出来る方の普通の抱っこに持ち込んで押さえつける!




そして…、

この世界に来て始めて出来ていた家族との誤解が解けて良かったと…

心から思うのだが…、

俺とリアとシュミカには間違いなく違和感というトゲが心の中に残るのである。

    

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