そして…前途は多難です。
壁に無数に掛けられた明かりが続くこの洞窟を抜けて麓に降りるためにはやはりあの空間を通る事になるのだが…
心配はいらないようだ。
流石にまだ慣れない馬車の操作に苦戦している俺の横に座るエイナはその空間をキョロキョロと見回している。
エイナ「こんなに広くなっちゃってたんだね…ここ。
竜さん…ただ生活してただけなのに…ごめんなさい。」
と、手を組んで祈りのようなものを捧げた後にそっと見上げて…
エイナ「行ってきます。
零也お兄ちゃん…。」
と伝えると俺の方にコテッと倒れてきて体重を預けながら、
今度は俺に話掛けて来る。
…割と余裕無いんですけど…。
エイナ「ね、まずこの後はどうするの?」
俺「そうだな…取り敢えずはまずこの馬車の持ち主がいる村に行って、
ちゃんと買い取る手続きかなぁ…。
あと、ギリアさんを見送ったら…完全にノープランだよ。
日々の生活をするために仕事を見つけてこなしながら旅を続ける感じだね。
…何処か行ってみたい所ややりたい事とかって有るかい?」
ん~~…と考え込みながら足をぶらぶらさせているエイナは…
エイナ「ちょっと皆に面白そうな所がないか聞いてみるよ~♪」
と言い残してすぐ背後に有る小窓をくぐって荷台の中に入って行った。
…本当にどうしようかなぁ…?
前金に貰った金貨があれば暫くは働かなくても旅は出来そうだけど…受け取った額を女性陣に伝えたら確実に旅はそこで終わる。
身の危険のリスクが減ったのなら、俺も少しはこの世界とやらは見てみたいと思う。
この金は隠して上手くやり繰りしなきゃな…。
俺の後ろではどうやらギリアさんの冒険譚が始まったようだ。
楽しそうに盛り上がっている。
…この後かぁ…。
などと考えているウチに前方に光が見えてきた。
やっと外だ!
少し馬車のスピードを早めてこんな洞窟とはおさらばだ!
…やがて出入り口に到着すると…とんでもない暴風雨に大歓迎されました…。
前途多難だ!!
馬車を止めたので、後ろの荷台から皆が降りてくる。
エイナ「出口~?
どうしたの?」
…と、すぐに状況を理解したエイナは少し考え込んでいる。
俺「まぁ…こういう訳だから…、少し様子を見よう。
幸い洞窟内なら濡れないし、後ろは上りだから浸水の心配も無いと思うし…。」
リア「そうねぇ…あれだけ盛大に送り出して貰ってアレだけど…
最悪、日が暮れそうなら一度街に戻りましょう…。」
シュミカ「ん、異議なし。」
ギリア「私もそんなに一分一秒を急ぐ訳でもないからね…。
安全第一だよ。」
俺「じゃぁ、ここで少し時間を…」
と言いかけた時、
エイナが足元の小石を拾い上げて額にあて…ボソッと何かを呟いて空に向かって放り投げる。
放物線を描くソレは最高到達点に達すると一度ピタッと宙に留まり、
大きな光を発して空高く一直線に飛び上がった!
リア「あらぁ…キレイねぇ♪」
ちがうだろ!
やがてその小石だった物は上空の雨雲を吹き飛ばして、これから旅立つ俺達に青空をプレゼントしてくれた。
いや、実際にくれたのはエイナだが…。
シュミカ「ん!こ…コレは…『天候までも支配する高レベルの凄い魔法』!」
俺「…絶対違うよな。」
シュミカ「…ん…、こんな高レベルの何かなんて僕にわかる訳…無いでしょ…。」
軽く肩を落としているシュミカを尻目にエイナの方に目をやり、
俺「スゲェじゃんか、エイ…な…?」
エイナ「あ゛あ゛ぁぁぁ~~~!!!」
…何か凄い吐いてる…!
俺「大丈夫か!?エイナ!どうしたんだ!?」
ケホケホ言いながら…やがて落ち着くと…
エイナ「…ふぅっ…はあ……。
ゴメンよ…ちょっと魔法は苦手なんだよ~…。
抑えたつもりでも物凄く反動が来ちゃうんだ…。」
俺「そういうものなのか?シュミカ…。」
と、エイナを介抱しながらシュミカに目をやる。
シュミカ「ん…この世界の魔法は精霊に何をどうしたいか心の中で
お願いするだけ…。
あなた達の想像する呪文の名前なんてないし、威力は全部…
そこにいる精霊さん達との相性で決まる。
簡単にいうと…エイナは精霊達に愛されすぎてて
居場所がバレてストーカー被害を受けた感じ。」
…わかるようなわからんような…。
シュミカ「ん、どんなゴツいオッサンでも、魔法を使う時は皆、心の中で…
『この地に御座す精霊さん!どうかお願いを聴いてぇ♪』
…と唱える所から始まる。」
…ふと見ると…「事実だけど仕方が無いじゃない」…といった表情のリアとギリアさんがうつむき加減で現実から逃避していた…。
エイナ「…せっかくの出発の朝だよ…。
明るく行きたいじゃないかぁ…♪
…でも、出来れば魔法は使わないでおきたいかな…。」
…と、やっと落ち着いたエイナは…よほど苦しかったんだろう、涙を湛えた瞳で笑顔を作って青空に指をさして叫ぶ!
エイナ「さあーーーっ!
冒険の始まりだよ~♪」
…序章はここで切るべきだったかな…?などと、自分から禁止した発言を頭に浮かべながら、
少し思うところもあった。
その精霊とやらに、それほどまでに愛されているのなら…さっきの大嵐も、エイナがこの地を去ってしまう事を知った精霊達の悲しみが溢れ出した故の現象だったのかも知れない…。
何はともあれ日が沈むまでには余裕で辿り着き、様々な手続きも終える事は出来るだろうが…目下の目的は…名前なんて覚えてはいないが、この馬の故郷であるその村へ急がなくては!
俺「あ、そうそう…助かったよ。
ありがとう!エイナ!
ただ、あまり無理はしちゃダメだよ♪
まぁ…こっちの方が助けてもらう事が多いかも知れないけれど…
俺達も頑張って見るのは好きなんだ。
余り楽しみを奪わないでくれよ♪
本当に…楽しい旅にしよう!」
シュミカ「ん…僕にそんな趣味は無い。
僕の目的は一つ…。
出来ればそれ以外に労力は使いたく…ないの…。」
そういえば…リアとシュミカには目的が有るのか?
コレまで一杯一杯でそんな事考えた事もなかった…。
俺の様に迷い込んで仕方なく始めた訳ではない。
この世界に産まれて旅に出る必要があったからそうしているのだ…。
いずれ知ることになるのかも知れないが…。
それまで生きている事こそが俺の目的だ!
エイナ「いろんなもの、いっぱい見ようね、アサヒ♪」
そして…地面が泥濘んでいることには変わりなく…例の村にたどり着いた頃には日が沈みかけていた…。
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