そして…それは禁止します!

やがて木で出来た塀に囲まれた村が見えてきた。


リア「ずいぶんと遅くなっちゃったわねぇ…。」


交代で今は手綱を引き、上機嫌だったリアも流石に疲れを隠せないようである。


ここまでの道中の地面のコンディション、先程の魔法の影響と乗り物での移動に慣れていないエイナが度々具合を悪くしたのはもちろんだが…

一番の原因は、ギリアさんが休んでいる間に二日酔いのシュミカがいい加減なナビをしたせいでかなりの遠回りをする羽目になったからだ…。


自分が弱っている事に気づかせたくないシュミカが平静を装って働こうとするもんだから、交代でエイナの具合を見ていた三人は見落としてしまった…。


シュミカ「…ん…、僕は頑張った…僕は悪くない…とても一生懸命働いた……。」


と、荷台に引きこもって反省もしているし、本当にシュミカなりに頑張ってくれた結果なので誰も文句は無いのだが…。


いつもは自分からイタズラしてばかりだが、自分が意図しない所で仲間に迷惑を掛けてしまうと物凄く落ち込むのが彼女だ。


俺はリアの隣で、流石にもう必要の無くなった地図をカバンに仕舞いながら…


俺「シューミーカーさーん、大丈夫だよ~、

  お前の体調に気づけなかった俺達も悪かったのはわかってるんだから…。」


リア「そ~よ~。

   でも辛い時は辛いっていいなさいなぁ…。

   誰もあんたの寝首を掻いたりする趣味はないわぁ~。」


もちろんだ!

この世に零也以上の悪霊を放ったりしてなるものか!


ギリア「…おねぇちゃんになったから…頑張りたかったのかな?」


俺とリア「あ……」


シュミカ「んんーーーーーっ!!!

     そんな事はない!

     僕はいつも冷静!何事にも動じないだけ!

     無駄肉マッチョマンはうるさいーー!」


ギリア「いたたた…いたいいたい……!

    心も痛いからその呼び方も…やめ…て…。」


言っちゃうんだなぁ…ギリアさんは…。

ヒステリックにポカポカ叩かれているギリアさんとも明日にはお別れだ…。

     

物知りで頼りになって、変な所で空気が読めなくて…とても優しい。

理想の兄とはこういう人だと思う。


エイナにとって、少しでも…一部分だけでもこう在れる存在にいつかなれるのだろうか…?


よし、頑張ろう!


リア「あとちょっとよ~。

   お姫ちゃんは大丈夫かしらぁ~?」


シュミカ「ん…顔色も悪くない…。

     そして何より僕の治癒魔法はとても優秀…。」


リア「それは何よりだわぁ…♪」


と、リアは後ろに声を掛けながら前方を凝視している…。




リア「ねぇアサヒ…この距離で感じるかしら?

   少し様子が変じゃない?」


まだ少し遠い上に薄暗くて良くは見えないが…


俺「守衛さん…いなくない?  

  でも…交代とかじゃ…。」


リア「…そうなっちゃうわよねぇ…。

   

   血の匂いよ…。

   

   魔物が入っちゃってるんじゃないかしら?

   急ぎましょう!」


相思相愛のリアから活を入れられた、未だに名前の決まっていない馬は気合十分!

あっという間に村の入口の間近までたどり着く!


そこにたどり着く間に騒がしい声や、その間にあがった炎などでその懸念が正しい事は理解できた!


…ところでピタッとリアは馬車を止める。


俺「ちょ!」


リア「あ!

   …このまま放っとけば面倒な手続き無しで

   先に進めるんじゃないかしらぁ…?」



クズばっかりだ!!



俺「いやいや!

  今日泊まる所も食事する場所も大変な事になって…。」


…そこでリアと馬の間に何かしらの…ピキーーン!的な何かがあったらしい…。


そもそもここはその馬の生まれ故郷であり、親兄弟や今現在の契約上のご主人様が居て…

しかも窮地に陥っているのかも知れないのだ!


チラッと目を向けると…目に溢れんばかりの涙を蓄え…そのダムを決壊させながらリアは叫んだ。


リア「ごめんなさい!今行くわ!

   お父様!あなたの息子さんを私にくださいーーーーー!!」


それを聴いた馬は今までに無い速度で走り出した!


高揚しながらも馬の動きにシンクロして安定感を保ち続けているリアに掴まって振い落されない様にしている俺の耳には、後ろの荷台から聞こえる阿鼻叫喚の叫びが響いているが…どうしようも無いじゃない! 

 

既に用をなしていない村の入口を突破して辺りを見渡すと、凄惨な光景が広がっていた。


全てではないが多くの家が焼け落ち、怪我人達が治療を受けている。


ギリアさんが馬車から降りて辺りの人達に事情の説明を求めると、この辺りを縄張りの一角にしている野犬型の魔物の群れの侵入を許してしまったらしく…既に十数名の犠牲を出しながらも残り数匹までに減らし、村の奥に追い詰めているとのことだ。


ギリア「そんな事が…。」


村人「数年に一度くらいですがね…、

   奴らも数が増えると食糧不足になるらしくて…。

   近隣の村も被害に遭うんですよ…。」


ギリア「…生存競争か…。

    仕方ないとはいえ、その場に居合わせたのなら協力させてもらおう。


    しかし…もう少し早く辿り着いておければ…。」


やめてあげてよギリアっち!


青ざめたシュミカは頭を抱えてしゃがみこんでいる…。


シュミカ「んんん…ワザとじゃない…ワザとじゃない…

     …ごめんなさいごめんなさい…。」


ギリア「あ!!

    そういう意味じゃないんだ!!

    悪かった悪かった!」


シュミカ「ん、そう…だいたいいつも悪いのはこの男…。」


と俺を指さして言う。


俺「…余裕があるじゃねぇかコイツ…。」


ギリア「と、とにかく私はそちらの援護に行ってくるから、

    君たちはコチラで怪我人の治療を手伝ってくれないか?」


それを快諾すると、ギリアさんは村の奥の方に走っていった。


治療をしながら村人に話を聞いていると、どうやら魔物の襲撃があったのは昼過ぎあたりで多くの怪我人が出たのもまだ向こうの数が多い前半で、どのみちまっすぐ来れたところで間に合ってはいなかったようだ。


シュミカ「ん、やっぱり僕は悪くない。」


などと少しは元気を取り戻したようだが、それでも少しでも早くたどり着ければその分被害を減らせたのはわかっているようで…

シュミカはセッセと治癒魔法を行使して必死に手伝っている。


馬車の揺れから開放されて多少気分が良くなったらしいエイナも自分に出来ることを探して走り回っている。

…出来た子だ。


…俺が一番役立たずなのはいつもの事だが…今度は俺が落ち込む番らしい…。

色々出来るようにならなくちゃなぁ…。


そうしていると、少し離れた方角から騒がしい声が聞こえてきた。


止めた馬車を見ているリアに一声掛けてから、俺はそちらに向かってみた。



…十数人の遺体が並べられたその場について思うのは…。

死体を見てもさほど同様しなくなった自分ももうすっかりコチラ側の人間になってしまったという事だ。

まぁ、そうでなければ生き残れないので仕方ない。


騒ぎがあったらしい辺りにいる人達に聞くと、

この村で神職を務めている人の娘さんの亡骸が突然起き上がり飛びかかって来たそうで…親である神職の方が泣く泣く浄化しようとした所、凄い勢いで逃げ去ってしまった…との事だ。


かなり心を痛めているであろうその人は、他の遺体まで動き出したりしないように清めの儀式の最中だそうだ。


村人「気の毒にね…この辺りは割と悪い気が薄い地域でね…。

   魔物は出ても滅多にアンデッドなんか現れないんだが…。」



何はともあれコチラは落ち着いたらしい。


元の場所に戻ると、コチラも一段落着いたようで落ち着いている。


俺「シュミカ、お疲れ様♪」


シュミカ「ん…よく働いた…。褒めるといい…。」


俺「さすが、お前の治癒魔法は優秀だな。」


と言いながらポフポフと頭を撫でてやっていると…


エイナ「僕もいっぱいお手伝いしたんだよ~♪」


とエイナが駆け寄って来て頭を突き出してくる。

だいぶ気分も良くなったみたいだな。


俺「すごいな~えらいえらい♪」


そうこうしているウチにギリアさんも戻って来た。


一応全部片付いたようだ。



馬車の件も今日はそれどころではないだろうとのことで、要件は明日にすることにした。


無事だった村の酒場で食事は出来るらしいので、取り敢えずそちらで落ち着こうということになり…馬車と馬を預けて酒場へと向かう。


リア「寂しくさせてごめんなさいね!

   後で美味しい果物を男たちに持たせるから!ゆっくり休んでね…。

   …おやすみやさい!」


涙を拭いながら振り返ったリアは…3歩ほど歩くとすぐに…


リア「何を食べようかしらぁ♪」


と、目を輝かせていた。



やがて酒場に辿り着くと今日の事件の話で持ち切りで、最後の短時間であったがギリアさんの活躍も凄かったらしく…あっという間に囲まれてしまった。


俺達は先にテーブルに付きメニューを見て、まず飲み物を決めてから食べ物は女性陣に任せる。

ギャラも貰ったばかりだし、何より今夜はギリアさんとの最後の夜だ。

ケチくさいことを言うのはやめておこう!


暫くすると既に何杯か飲まされたのだろう…ご機嫌なギリアさんがテーブルにやって来た。


ギリア「いやぁ…酒はあまり強くは無いんだけどねぇ…

    でもこーゆー時は飲まないとね…。」


するとエイナがトテトテとギリアさんの前に立ちスカートをたくし上げて、


エイナ「おつかれちん!」


このキャラを忘れていた…


俺「これ姫、はしたない…やめませぬか…。」


エイナ「え?零也お兄ちゃんがコレが

   『さいだいのねぎらいの行動』だって言ってたんだよ?」


あの野郎…俺の大事な弟になんて事仕込みやがった…。

  

シュミカ「ん…それに応える行動がコレ…たぷたぷたぷ…。」


エイナ「あはははははっははっははは…!

    くすぐったいよ!おねぇちゃん!はは…」


俺「大切な他所のお子さんの大切な宝袋をたぷたぷするんじゃねぇ!」 


リア「……あんた、遅かったわ…手遅れよ…!

   見なさい!」


人見たエイナは…、ん…?と少し首をかしげて…


エイナ「……おねぇちゃん、ハイッ!」


シュミカ「ん…たぷたぷたぷたぷ……。」


エイナ「あははははは!」


俺「エイナ!

  ……頬を赤らめて癖になってるんじゃありません!


  『おつかれちん』も『たぷたぷたぷ』も禁止です!!」


エイナ「えー、つまんないよ~。」


シュミカ「ん、横暴…本人も喜んでいる…それは児童虐待…。」


本来はシュミカの方が虐待になり得る問題行動だ!

近所の変態お姉さんか!


ギリア「ハッハッハ…と、とりあえずここは食事をする場所だ…。

    さっきから女将が睨んでいるよ…。

    とにかく皆、席に着こう♪」


正論です。


その後は飲み食いしながら…コレまでの数ヶ月、時々ではあったが、

ギリアさんとした冒険や熟したクエストの話を思い出に浸りながらエイナに語って聞かせたり…


つい馬の話になると


リア「あの子!

   あの子の名前は貴方への尊敬と感謝を込めて『ギリア』にしようと思うの!

   どうかしらぁ!?良いでしょ?いいわよね!」


ずっと気づいてはいたが、この別れを一番悲しみながらも隠しているのは…リアだ。

一応ギリアさんも気づきながらそっと否している雰囲気なのである。


ギリア「ぃっ…いやぁ…私は馬車を引く趣味は無いし……ぃゃ…かな…。

    ほっほほほら!

    次また合流して一緒に旅をする時に困るじゃないか!

    

    それに…次に合った時に違う馬だったりしたら…

    私も……悲しいじゃないか…。」


なんか変な空気になったなぁ…。


エイナ「ギリアっち、以前来た時は他のパーティの女の人に…

    たしか『ギル』って呼ばれてたじゃないか♪

    それはどうだい?」


子供爆弾!!恐るべし!!


リア「…へぇ~~、そぉなのぉ…。

   じゃ~ぁ~それにするわぁ~~~♪」


ギリア「ひぃっ!」



シュミカはマイペースに飲み食いに没頭しながら観客ヅラを決め込んでいる。


シュミカ「ん、名前決まって良かった。

     夜はまだこれから…♪」


その後は…半数以上が零也作であるという女性陣のお土産についての腐った話を、

男性陣がドン引きしながら、いかにエイナの耳に入れないようにするかで四苦八苦したりと沢山の話で盛り上がっているウチに閉店時間となった。




そして…食事を済ませてから女性陣とエイナの為に部屋を一つ借り、男性陣は馬への『リアからの愛情』を運び届けた後、馬車の荷台に戻り休みに着いた。


俺「なぁ…馬…お前の名前はご主人様の嫉妬心の塊に決まったぞ…。

  お互い強く生きていこうなぁ…。」


…不憫な子っ!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る