そして…彼女は何処へ?

飛び去ってゆく『カァ!』ではなく『ワン!』と鳴く黒い鳥が見えなくなるまで手を降り…髪留めを取り返して魔力のコントロールが戻ったリアは、

優しく包み込むように…なのかはわからないが、いつも何かを運ぶのとは明らかに違う雰囲気でそっと子竜の亡骸を地上へと降ろし…こちらの方にツカツカと歩み寄りながら…


リア「さ、私達も降りましょう♪」


と言って俺の襟首を掴んで宙へ放り投げた…。



リア「二度とトカゲなんかと一緒にするんじゃないわよ!!

   このヘタレ猿!!ぶち殺すわよ!!」


との叫び声に俺は…

はい、すみません!…と空中で三回ほど唱えた頃に下で待機してくれていた魔道士さんの綿みたいな魔法に包み込まれて無事に地上に帰り着いた。


慌てて俺を追うようにストンッと軽々と着地したエイナは俺に「大丈夫?!」と確認した後、続いてユックリと降りてきたリアに…


エイナ「ちょっと…コレは酷いよ…。」


と訴えてくれたのだが、


リア「いくら親しい仲間や家族でも、許してはいけない領域を全員が持っているの!

   そこを侵されて怒らない人にもなってはダメよ!」


エイナ「は……はい!」


次にリアはクスッと笑みを浮かべてエイナの頭を撫でながら、


リア「…とは言っても落ちても平気なのがわかっていたからよ。

   感情に全てを任せてもダメなの。

   そんな事を頭の片隅に置いておける立派な大人になりなさいなぁ♪」


本当にお母さんかな!?



エイナ「…うん!

    そう言えば…零也お兄ちゃんも…

    …そんな事を教えてくれてた気がするよ…。」


複雑そうだが、確実に前向きに見える笑顔をリアに向けるエイナは立ち直り、前に向かう準備が完全に整ったように見える。




その後、その場に居た人達だけで小さな葬儀のような事を行い、この修練所の片隅に小さな岩で作った墓を作った。



今回助けてくれた魔道士さん達も、今回の被害者だけではなく、あの竜親子達の分の慰霊碑も作って貰えるように王様に進言してくれるとの事だ。



そうこうしているうちに日は沈み、この国での最後の晩餐である。

大きめの部屋で洞窟の件の功労者達も集められて立食のパーティーが執り行われた。



やっとエイナも出席してくれて、時折さみしげな表情を浮かべながらも今回体験した色々な出来事や感じたことを一生懸命に話してくれた。


ただ一つの懸念は残る…シュミカだ!


我々を明るく送り出してくれる催しとしては…楽しまなくては失礼にあたるだろう!

せめて今宵は邪魔されたくない!


とにかく!


この短い時間で得た同士達と共に、この明るく楽しく終わらせるべき宴に影を残してはいけない!

との共通認識の上で…


シュミカ「ん、あの男は本当におかしい!

     鳥が『カァカァ』なんて鳴く訳がない。

     特にあの種は『ワン』か『ニャン』。」


『ニャン』とも鳴くのか、あの鳥は!?

…とにかく腐り系メイドさん達を相手に俺の悪態をついている。


そんな彼女をさんざん盛り上げ、担ぎ上げ、数人をイタズラの生贄に捧げた所で酔い潰し終えた所から楽しい時間の始まりです♪


かなり機嫌が良くなったんだろう、何の事かわからないが…「あーっちゃーっ!」っと叫びながら俺にボディプレスを仕掛けて来た所で轟沈なされたシュミカさん。


俺「この方を寝室へ…。」


…と、腐りメイドの中にいる同士に排除をお願いし、


「よろこんで♪」


との返答を頂いてやっと落ち着いた頃にギリアさんがやって来た。


ギリア「今回はお疲れ様。」


とグラスを差し出してくる。

たくさんの飲み物が乗ったトレンチを持った執事さんからグラスをいただいてからそれにあわせる。


ギリア「いやぁ、初日からどうなる事かとヒヤヒヤしたけどね…。

    無事に終えてよかった!

    本当はもっと早くに全部説明してから挑む予定だったんだけどね…。」


俺「いや…ずっとエイナといましたからね…。

  それにあの悪霊が邪魔してたんですよ、きっと全部!」


そのエイナは様々な食物を持った人達に囲まれて食べさせて貰ったり、美味しいと感じただろう物を皆に食べさせたりしながらご満悦だ。

…なんて美しく優しい世界!


ギリア「ハハハ…、まぁ零也君もね、悪意では無かったと思うよ…。

    イタズラが好き過ぎるきらいは有ったが…

    あの子に合いそうか試していたんじゃないかな?

    あと多分だけど嫉妬心もあっただろうしね。ハハハ!」


…ハハハじゃねぇ…。


俺「でもまぁ…この先やっていく自信にもなりましたよ。

  ちゃんと鍛えて精進しますので、安心してください!」


その後も談笑していると、一人の青年がグラスを差し出してきた。


すぐには気が付かないくらいに普段とは違う、私服丸出しのディルだ。

ちなみに…コレは零也とは後に来た人のデザインだろう。

あちらではよく見た某歌姫の顔がデカデカと刺繍されたシャツを羽織っている…。


…あんたはとことん贅沢する派の王族なんだな。

逆に少し安心したよ…。


ディル「楽しんでいただいてますか?アサヒさん!

    エイナのあんな笑顔を取り戻していただいて…感謝しきれません!

    

    で…盛り上がっている所、申し訳ないのですが…

    ギリア殿を王がお呼びですので…よろしいでしょうか?」


言葉遣いは丁寧だが…なんかめっちゃ軽い…。

コレもこの王国の良い所なのだと納得しよう!


そして第二王子にエスコートされながらギリアさんは席を外すのだが…。

勘違いであって欲しい。

とてもドスの利いた低い声で…

「…お前…いつも喋りすぎるから隔離だ…。」

…なんて薄っすら耳に聞こえたのはきっと勘違いに違いない。


その二人を見送ったあと、先程色々助けてくれた魔道士さん達が声を掛けてくれた。


最初は誰だかわからない位軽装の人達ばかりで戸惑ったが、声を聞いて認識できた。

もうドレス姿の貴婦人の方々がコスプレにしか見えない!?


…あ、もう気づいちゃったけど真相は闇の中へとしておこう。



魔道士「アサヒさん!

    先程はすみませんでした!

    痛みとか残ってないですか?」


俺「大丈夫ですよ!

  いつももっとひどい目にも遭ってますし…

  傷と痛みがスッと消えて行く感じが今までに無いくらいロイヤルでした♪」


…なんて会話を交わしている中で時折エイナの方も見ていたのだが…。

どうやらそろそろお眠の時間のようだ。 


やがて目をこすりながらこっちに来ると、


エイナ「アサヒ~…抱っこだよぉ…。」


俺「オンブでいいかな?」


エイナ「うん、良いよぅ…。」


…なんてやり取りもコレで最後だ。


一対一でキチンとお別れをしよう。


今となっては憎たらしい、あの零也が面と向かって出来なかったお別れの儀式。


実は先程ギリアさんにも頼まれていた。


今度はまたいつか会えるかもしれない前向きな別れだ。

とても不安だが、俺も乗り越えよう!




そして…いざ!この国でのラストミッションへ!



…リア?

彼女は宴が始まったと同時に持てるだけのアルコールを抱えて厩舎へと走って行きましたよ、はい。





     

   







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る