そして…旅立ちます!
エイナの部屋に向かっている。
いま、俺の背中にかかる負荷はやがて無くなり、与えていた側も受けていた側もいずれ忘れる。
…早く終わって忘れたいなぁ…。
得意な人の存在を聞いた事がある人は是非教えて欲しい。
湿っぽいのは苦手です!
エイナ「…コレで終わりだね。
楽しかったよアサヒ…♪
あと少し…一緒の間だけ、お兄ちゃんって呼んでもいいかな?」
俺「はは…光栄だけど…照れるかなぁ…。」
やがて部屋に着き、エイナをベッドに降ろす。
エイナ「ボクね、もちろん兄上達の事も大好きなんだよ。
他の皆も優しくしてくれるし、いけないことをしたら叱ってもくれるよ。
でもね…ボクと一緒に遊んだり、いたずらして一緒に怒られたり…
次はバレないように一生懸命に考えたり…。
仲良しの小鳥が死んじゃった時は……ボクより先に泣いてくれたり…。」
不謹慎だが、その小鳥の鳴き声が気になる!
エイナ「…他にもね…。
一緒にお菓子を作って皆に配ったら喜んで貰えてうれしかったね…。
一緒にお風呂に入る時だけ、いつもは一緒に遊んでくれない
護衛の人達も一緒で楽しかったね…。」
まさに護衛の人の勤務時間はそこです!!
エイナ「…零也お兄ちゃんの代わりにしちゃってゴメンね、アサヒ…。
でも…ちゃんと声に出して言いたかったんだよ…。」
目にいっぱいの涙を溜めてはいるが…今までの悲しみだけの涙では無いことは良くわかる。
この部屋の何処かに数箇所空いているであろう穴から感じる視線と洗い息遣いと腐臭…。
それさえなければ間違いなく抱きしめたであろう、コレまでで最高の笑顔であの子は言った。
エイナ「…ありがとう!
バイバイ、お兄ちゃん…。」
ガバっと布団の中に潜り込んだエイナは、そのか細い手だけを出し…その手をそっと握ってやると…
エイナ「ボクはもう大丈夫だよ。
でも見送りは行けないよ…。絶対に困らせちゃうから…。
これでお別れだよ。
元気でね…アサヒ!」
と、布団から出て一瞬だけギュウっと抱きついてくれて、またすぐ布団に潜ってしまった。
俺「…こちらこそありがとう。
自由に暮らせるくらいの冒険者になれたら…
またいつかこの国にも遊びに来るよ!」
小刻みに震えている団子状の布の塊に………
俺「さよならエイナ、またね。」
と、声を掛けて部屋を後にした。
ふと見ると、先程まで穴から…ハァ…ハァ……と熱気と雑音を送り込んで来ていたメイドさん達が整列していた。
で、部屋の中には聞こえない程度の声で…
メイド長「本当に…色々な意味でありがとうございました!」
『色々な意味で』は言わなくていいのに言ってしまうのがアレだ。
メイド長「姫様は今後、我々が支えて行きます。
ご安心して良い旅を。
でも出来れば…
またのお早いご来城を一同お待ちしておりま~す♪」
と、一斉に頭を下げて見送ってくれた。
出発の準備…とはいっても、リアやシュミカとは違いこの街で個人的な買い物をした訳でもなく、生活のために買い込んだ資財は既に馬車の中だ。
少ない手荷物だけまとめて出発に備えて早めに寝よう!
と、部屋に向かっていると…酒瓶をラッパ飲みしているリアが俺の部屋の前に立っていた。
リア「ちゃんとお別れはできたかしらぁ?
こんなのでいちいち参ってらんないのよ~、
こ・の・さ・き・はぁ~~…♪」
と、酒臭い息を吹きかけて来る。
俺「わかってるよ…。
でも…そうだな…
道端で何故か物凄く懐いてくれた子猫と別れる時?
…みたいな感じだったかな。」
すると…
リア「…わっかるわぁーーー!
つらいのよねぇーーーアレ!!鳴き声はちょっとアレだけどぉ~。
特に周りに親も兄弟も見当たらなくて…最後の希望が私かも
知れないのに見捨てなくちゃ行けないアレ!
さすがの私も胸を引き裂かれる思いになるもんだわぁーー!」
冷酷な鬼神が…泣きながらラッパ飲みをするんじゃない!
明日は早いのに…
リア「…でも、あの子なら大丈夫よ♪
一緒に飲み直してあげようかとも思ったけれど…。
大丈夫そうね。
じゃ、私は私の大切な子の処にもどるわぁ~~~♪」
…頼むから馬と竜人との新しい種族とか作るんじゃないぞ…
…この慈悲の塊め…。
俺「飲み過ぎるなよ~!おやすみ、リア~。」
リア「ハイハ~イ♪おやすみなさ~い♪」
なかなか面と向かっては言えない『ありがとう』を何回か心の中で繰り返してから部屋に戻り、旅立ちの準備を済ませてから俺は眠りについた。
やがて夜が明け、出発の朝だ。
二日酔いでウノウノしているシュミカをリアが荷台に放り込み、全ての準備は整った。
麓への最短ルートであり、今回の戦いの因縁の場所である洞窟の前に王様達までもが見送りに出てきてくださっている!
まぁ、もちろんギリアさんあっての事だろうが…。
ギリア「クルセイト王!今回はありがとうございました!」
王様「もー…そーゆーのやめようって言ったじゃん、ギーちゃん…。」
昨夜この二人に何が!?
王様「まぁ、ギーちゃんも御一行の方々も…今回は本当にお世話になり申した。
心より感謝申し上げます。
良い旅を!
じゃ、またの、ギーちゃん♪」
ギリア「はい…ス…ストリーさん!」
…わかっちまった。
零也がエイナに露出癖を仕込んだのも何もかも…。
零也の知識が広まってしまってはなかなか声には出せないだろう…
『ストリー王(キング)』とは。
…本当にこの世界を遊び場にしていたんだな、あいつは。
少しは見習おう!
さて、問題はこの一連の流れである。
昨夜のエイナとの別れにしても本気になりきれなかった理由を解決しなければ出発するわけには行かない!
とりあえず俺は荷台の入り口に声を掛ける。
俺「は~い、シュミカさーん、これから荷台の最終チェックを行いまーす。」
シュミカ「ん!…いやん、えっち☆」
えっち☆じゃねぇ!
王族の誘拐犯になるのはゴメンだ!
…と、乗り込もうとした時に…王様が小声で呼びかけてきた…まさか…
王様「…アサヒ殿、ちょっとこちらへ…」
…と木陰に呼び出された。
王様「…わかってますよ、きっとあの子は乗っているんじゃろう。
昨夜の宴の最中もお連れの方々が
エイナの部屋でゴソゴソしてましたしのう…。」
シュミカ!割とあっさり退場したと思ったら!
…方々…といったら…リアもグルか…。
王様「…そこでな…、我々も寂しいが…零也の影響もあろう。
あの子は外の世界を見たがっておっての…
成人したら一度零也と一緒に旅に出してやろうとは想ってたんじゃよ…。
残念ながら今回の様な事になってしまったが…。
もし良ければ、改めて前金で依頼させてもらいたいのだが…。」
…はぁ…、そんな気はしていたんだ。
シュミカと旅をしているんだ。
昨夜の布団に包まったエイナの震えが泣いているのか笑っているのかの区別くらいはついていた。
俺「はぁ…で、依頼の内容は?」
王様「簡単じゃよ。
エイナに色々な物を観せてやって欲しい。
あの子には自分の身はもちろん、あなた方も十分に守る力がありますしの、
ふふふ♪
取り敢えずコレくらいでどうじゃ?」
と、渡された袋には法外な金貨が詰まっている!
王様「もし旅の途中で足りなくなったらギルドを探してコレを見せれば…
同盟国であれば、日銭分程度にしかならんじゃろうが、
この国へのツケにして融資くらいはしてもらえるはずじゃよ。」
と、何やら紋章みたいなものが刻まれた手形のような物をわたされた。
俺「ん~…本当に我々なんかで良いのです?
はら、もっと…」
と、言いかけた所で王様が俺の口を人差し指で押さえる。
…こーゆー趣味嗜好は無いが…コレは若い男二人にしか似合わない。
王様「それでは冒険にならんじゃろ。」
…ああ、守られる…足かせになるのはコチラ…というわけですね☆
俺「まぁ、どうなっても責任は取れませんよ…。
なにせ同行者はあの二人で、ギリアさんはこの後別れますからね。
いいんですか?」
王様「構わんよ。
愛するあの子が幸せならワシもこの国の民も…
それを望んでいるんじゃからの!」
…まぁ、王位を次ぐのはディルなんだろうし…そんなに何十年も放浪する訳じゃない…と、信じたい!
この世界の広さがどれほどかは知らないが…。
ギリアさんと別れてもそれ以上の戦力が望めるなら、コチラとしても願ったりだ。
俺「では…謹んでこのご依頼、受けさせていただきます!」
すると王様は俺の手をギュッと握り、
王様「よろしくお願いします!
アサヒ殿!」
と、年老いた顔を更にグシャグシャにして大粒の涙を流しながら頑張って笑顔を作ってくれた。
あぁ、昨夜見た笑顔にそっくりだ。
お父様、あなたのお子様を大切にお預かりさせていただきます!
かくして話はまとまった。
お互いに別れを惜しみ、
全部知っていたのであろうギリアさんに馬車の扱いを教わりながら、
何のお咎めも無い事にキョトンとしている二人は荷台に、まだ隠れているつもりでいるのであろうもう一人もそこに。
やがてお互いが見えなくなるまで確認した後…
一度馬車を止めた。
俺「シュミカさーん、何かサプライズとか用意してないんですか~?」
シュミカ「ん?…特に…無い。
なに?…あ、昨夜の事は余り覚えてないけど…何か荷物が多い…
リア、こんなに買い物…した?」
…俺とギリアさんとリアはお互いに青ざめた表情を向き合わせながら…
「まさか…本当に…乗って……無い?!」
と、慌てふためいて荷台の無造作に詰め込まれた荷物をかきわけて探すと、一番奥に詰め込まれた衣服の底にそれは居た。
衣服の荷重が無くなり、そっと意識を取り戻したそれは…
エイナ「ん…
あ!
アサヒ!おはよう!
もう出発したのかな?ビックリしたかぃ…」
俺は一応…余り痛みを感じさせないようにとは心がけながらも、一度だけ軽く頬を叩いた。
エイナ「…ぇ…」
俺「…君のお父様…気づいていたんだよ。
物凄く泣きながら…君の事を『よろしくお願いします』って…
王様が…言ったんだよ!
俺は君を家族として迎え入れると決めた!
だけど、君から言うことがあるだろう!?」
逆にビックリしているんだろう…でも…子供だからと言って流すべきではない。
君なら言えるはずだ。
エイナ「…ぁ…ご…めんなさい。
…ボクは…アサヒ達と一緒に行きたいです!
よろしくお願いします!」
これは…いっぱい怒って、いっぱい褒めて…いっぱい一緒に…
いっぱい色々しなくちゃダメだな…。
楽しくなりそうだ。
俺「良く言えたね。
コチラこそよろしくお願いします。」
リア「よろしくね。
私はもっと厳しくいくわよ☆」
シュミカ「ん…同行するの?
なら…少し問題がある…。」
俺「何だよ…。」
シュミカ「一人称のボクと僕が被る…。
変換ミスに突っ込まれる…。」
…大丈夫、この世界に興味を持ってる人なんて少ないし…きっと皆が優しく教えてくれてる間に終わるよ…。
今後メタ発言は禁止です!
ギリア「そうか…君が一緒なら大丈夫だね…。
でも、わざわざ危険に首を突っ込んだりしないようにね。」
エイナ「このままギリアっちについていっちゃおうか?」
ギリア「…冒険がしたいんだろう?
私の方はただの人同士の戦争だ…。
もっと綺麗な世界を見てきなさい…。」
ギリアさんそんな所へ!?
まぁ、上級冒険者へのご指名なら…そうなるのか…。
俺「…それよりもエイナ…、今ならまだ声も届くよ。
お別れだけでも…」
と、言い終える前に…
エイナ「お父様!兄上ー!
…あと、みんな~~~!!」
…あとみんなの方が今回はメインだったけど!?
エイナ「ちょっと行ってきます!
ほんとにありがとうございました!
元気でね!
…またねーーー!」
洞窟中に響いてちゃんと届いているかわからないが…気持ちはアレだ!
さぁ、進もう!
少しすると…拍手なのかな?ザワザワとした音圧が帰ってきた。
コレは…追い風だ!
きっと良い旅になるに違いない。
エイナ「…アサヒ…ほんとにありがとう!
これからもよろしくね!
お兄ちゃん♪」
そして…
俺は一国のお姫様(♂)のお兄ちゃんになったのだ。
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