そして…キレイになりました。
自分達の役割を終え、城に戻る道中の街なかは先日とは少し違う空気が漂っていた。
…まぁ何となくわかる…。
半日程前にこの道を通ったであろうそれはこの街では子供達の人気者、大人たちにとっては…あまり子供達に関わらせたくない存在。
その実は、この小国の第三王子であり、見た目は愛くるしく可愛らしいお姫様。
…それが強烈な死臭を纏い血まみれの姿で駆け抜けて行き、やがて城では一騒動あったに違いない。
やがて城に着くと想像通りの光景…看護、救護に駆け回る人達や、何かしらを止めようとして傷ついたであろう兵士たちが見える。
痛々しい姿ではあるが…皆、ご褒美を頂いてご満悦のようだ…。
依頼も終わり、もはや何の関わりも無いが…この国の行く末を心配せずにはいられない…。
シュミカ「ん…みんな幸せそう、良いことをした…♪」
俺「黙れおまえ!
せっかく竜との戦いで死人が出なかったのに…アレ以上の驚異をつくりだし
やがって!」
シュミカ「ん…あなたはいちいち小さい事にうるさい…。
ゆっくり寝られない…。」
いつのネタだ…いっそもう永遠に寝てて欲しい…。
まぁいい…我々はさっさと報告を済ませて先日聞いていた大浴場とやらでユックリさせてもらおう…。
謁見の間の扉をノックし、中にいる第二王子ディルの「どうぞ…。」という返事で両脇の護衛の兵士さんが頷くのだが…彼らも仕事だ。
どんなにエイナを慕っていても、流石に王様を守らないわけにはいくまい。
身体は傷つき、苦笑いで俺達を部屋に通してくれた。
…血しぶきは見当たらない。
そして…王様の姿も見当たらない!
不安そうにキョロキョロしていると、空の王座の横に立つディルノートが少し引きつった笑顔を作りながらも語りかけてくれた。
ディル「…ギリア殿、そして御一行の方々…この度はお疲れ様でした。
…大丈夫、王は存命しておりますよ。
身も心もボロボロですけどね…。」
と、苦笑を浮かべる。
やっぱりか…。
でも頭が吹き飛んでなくてよかった!
ディル「依頼の件、確認は致しました。
報酬の方はギルドの方でお受け取りください。
この街に滞在するのであれば、今の客室はご自由に。
旅立たれるようでしたら、洞窟のルートは…
まだ麓の側からの復旧が数日かかるかと思われます。
お急ぎでないのでしたら、お好きなだけ滞在していただいて結構
ですので。」
…と、そこまでのお仕事を終えたディルは…ふぅっとため息を付き、
ディル「…公的な対応は以上で終了とさせていただきます。
事情は…ご存知ですよね?」
と、若干キレ気味にシュミカを見て言う。
言ってやれ!
ディル「まぁ…簡単に説明しますと、…はい、エイナが来ましてね。
父上を喋れないくらいまでビンタしまくって引きこもった。
…それでだいたい承知していただけるかと…。
…信じていただけないとは思いますが…彼、零也も承知して
くれていた話だったのですが…。」
うん、実は知ってます…元々はそれをシュミカがチクったせいでの惨状だ。
ディル「…本当に不幸な事故でした…。
我々も彼と親しくし、野放しにし過ぎた…その結果ですから。
…もちろん責任も感じていますよ…。
本来なら…彼に……」
と、少し寂しそうな表情を浮かべて…嗚咽をこらえているのだろうか?
少し間をおいて…
ディル「では明日、今回の犠牲者の……合同になってしまいますが葬儀を
予定しております。
可能でありましたら御参列いただけると…。」
そこまで聞いて、ギリアさんがこちらに
ギリア「この後急ぐ予定はあるかい?」
と、訪ねて来たが有る訳もない。
ギリアさんに頼らなくても済ませられる依頼を探してこなして食いつないでいく…そんな長期にわたるクエストが残って…残り続けているだけだ。
「大丈夫です」…と言いかける前にリアが前に出る。
リア「予定も無くはないのですけどぉ…報酬は報酬でいただいたとして、
それは次の場所への大事な生命線ですので~…。
滞在はしたいのですがぁ…ねえ☆」
あざといな!
ディル「ふふっ、問題ありませんよ。
まぁ…お買い物までは面倒見れませんが、食事くらいは城内で用意させて
いただきます。
あと、温泉などの公用施設に関しては無料で使用できるように手形を配布
させていただきますが…その程度でよろしいですか?」
リア「もっちろん~100点ね♪」
何様だオマエは。
ディル「あと…アサヒ様…、どちらが正しいのか私にはわからないのですが…。
少しでよろしいので、エイナに気をかけてやってはもらえないでしょうか?
もちろん別れる時に寂しがるでしょうが…ちゃんとお別れをしていただき
たいのです。
…零也の時は…させてやれませんでしたので…。」
こちらの気持ちもあるので深入りは避けたいが…このままあの笑顔が消え去るのも忍びないとは思う。
出来るだけの事はしてみますが…と、言葉を濁す。
ディル「大丈夫、気にしていただけた…という事実だけでも、それは伝えますし、
きっとあの子の心にも残るでしょう。
では、すぐに手続きを済ませますので、この街をユックリ堪能して行って
ください♪」
その手形…要はフリーパスの発行を待つ間にエイナの様子を見に部屋の方へ訪ねてみる。
何度ノックしても返事がない。
この部屋で合ってるよな…?
泣き疲れて眠っているのかもしれない…。
暫く粘ってみたが…今はそっとしておこうか…。
俺「…また来るよ。
明日の葬儀が済むまではこの街にいるから…。」
と、義務を果たして離れようとした時に内側から声が聞こえる。
どうやら俺はタイミングを外してしまったらしい…
エイナ「…アサヒ…、入って…。」
仕方ない。
今更無視する訳にもいかないので、もう一度ノックをし、「いいよ…」
と返事を聞いてから扉を開く。
…とてつもない異臭と、ひと暴れしたのだろう…家具は壊れ、扉の先の壁や床には血の跡がベッドまで続いている。
どうやら俺達が城に着くまでに他の場所は綺麗に片付けられていたらしい…。
この様な惨状の中、殴られて恍惚に浸っていられる兵士達!?
この国が心配だ!
そんな事を考えつつも、そっとベッドの縁に腰掛けて、布団の中に潜り込んでいるエイナに
俺「…エイナ?
大丈夫かい?」
と声を掛けると、ふるえた声で返してきた。
エイナ「…わかんない。
…零也お兄ちゃんが居なくなったのはね…理解したんだよ…。
お父様も…兄上もね…大好きなんだよ…。
でもね…でもね……」
物分りが良すぎるのも…子供には大変なオーバースキルのようだ。
喜びや悲しみや怒りの感情、欲望、常識、王族の責任、そしてそれらから逃れたいと言う逃避…。
そりゃ大変だろう…。
正解はわからないが…取り敢えず声をかけてやりたい。
俺「…死んだ後でも零也は…エイナの事を、いつでもくるくる回ってて可愛らし
い…って言っていたよ…
…そんなんじゃ…あいつも嫌なんじゃないかな…?」
もう…何を言って良いのかわからない…。
少し路線をかえてみよう!
俺「…あのままここに来たんだろう?
零也は綺麗で可愛らしい君が大好きだったんだ。」
それもどうかと思うが…今は置いておこう…。
俺「…取り敢えず…お風呂にでも入ろうよ。
そして…ちゃんとキレイにして彼とお別れをしよう。」
その時小さくキャアお風呂よ♪…という声が聞こえ、その方角を見ると…
扉の隙間から何人かのメイドさんが覗いている…。
…この国の文化とやらを忘れていた…。
まさかリアまでそこにいるんじゃないだろうな?
エイナ「……連れてってくれたら…行く…かもだよ…。」
…仕方がないな。
あのメイドさん達もこの部屋を掃除するために待機しているんだろうし…
ちょっとしたネタくらいは提供してやるか…。
俺「よし、じゃあ…お姫様抱っこで…!」
と、抱きかかえようとした瞬間に…俺の腰がヤメテぇ!と叫ぶ!
前言撤回!リアさん、そこにいませんか!?
俺「…オンブでも…いいかな?」
すると、エイナが涙でいっぱいの瞳に精一杯の笑顔を作りながら微笑み…
「いいよ…」…と返してくれた。
くっ!眩しい!
エイナを背負いあげ扉を開けると、流石に行儀よく整列した5人ほどのメイドさん達が立っていた。
そのうちの一人、リーダーっぽい人に…
俺「すみません、この部屋…よろしくお願いします。」
エイナ「…みんなゴメンね…。
お願いするよ…。」
と声を掛けると…
メイドさん「10分でリフォームしてみせますわ♪
どうぞごゆっくりぃ~♪」
こちらに向ける視線が腐ってる!
そして…お風呂シーンはカットです!!!
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