そして、ご冥福をお祈りします。

今回のクエストでの戦場となる洞窟!

その前に立ち、俺は戦慄する!!


…今までに見たことの無い程にテンションが高く、ハァ…ハァッ…!と目をグルグルさせて高揚し、漏れだそうとする笑い声を抑えているシュミカの姿に!!


我々は後方待機ですよ!シュミカさん!

…こいつには何が見えていて何をどこまで知っていて、何を玩具にしているのだろうか…?


シュミカさ~ん、玩具は壊れたら遊べなくなっちゃいますよ~…。

くれぐれも扱いには気をつけてくださいね~…っと、手を合わせて念を送っていると…最前に居るはずのエイナが両手を広げてくるくる回りながらこちらに駆けてくる。


エイナ「アサヒ~!どうしたの?!

    みんなアサヒを待っているんだよ?!」


はい?

神々しいほどの笑顔を輝かせてピョンピョン跳ねながら言う。


エイナ「だって側に居てくれるって言ったじゃないか?!

    ボクはアサヒとじゃなくちゃ一歩もここには入らないよw」


…と、にこやかな笑顔をたたえたまま俺の腕を掴むその手は…物凄くガクガクと震えていた…。


そりゃそうか…。


一応、王子としての自覚と責任も背負う覚悟を抱えてるんだな。

この華奢な身体で。

周囲の士気を下げないように精一杯頑張ってるのが痛々しいほど伝わってくる。


ギリアさん辺りが気を使って呼びに寄越したんだろう。


守ってくださいよ、ギリアさん…!

と頭の中で数回詠唱した後、俺が引くはずだった…遺体やら遺品やらを運ぶための荷車をエイナの手前、快く引き受けてくれた兵士さん達に感謝の言葉を伝えて前方に向かう。


やがてたどり着いた洞窟の入り口だけでもかなりの大きさだ。


俺達が運んで…いや、使っていた程度の馬車なら2~3台位並んで通れるだろう。


竜クラス…大っきいと嫌だなぁ…とか思っていると、俺の腕が勝手にブンブンと震えだす!

手を繋いでいたエイナの顔は真っ青になり、全身はガタガタと震えている!


エイナ「…あ…さひ…抱っこだよ!進むけど…ごめんよ!抱っこだよ!」


なるほど…こんな状態だったなら仕方ない…。


側にいたギリアさんもその状況を見て「頼むよ…」と声を掛けてくれる。


オンブじゃダメかな…とか思っていると腕を引きずり降ろされてつんのめり、首に手を回されたので、仕方なくお姫様抱っこをしようとしたのだが…慣れてないと意外と難しい!


しかも俺には体力も腕力もそれ程無いのだ!


なんとか周囲のフォローを受けて体勢だけは整えたのだが…このまま歩ける気がしない!

エイナは既に自分との戦いに夢中で、ギュッと俺の身体にしがみついていてくれている。

そのおかげでバランスだけは何とかなっているのだが…まあ、仕方ない。

進まねば…と思った刹那、エイナの身体が風船の様に軽くなった。

軽い混乱を覚えていると…


リア「お仕事よ。

   手伝ってあげるわ。」


…とリアが、エイナの下方に手を入れて魔力で浮き上がらせてくれていた。


俺「…馬車以外も浮かせられるんだな…。」


リア「重力上げるわよ!」


…なんて面白可笑しいやり取りも脳裏に浮かんだが…流石に今はやめておいて、

素直に「ありがとう、頼むよ…。」


と、感謝の言葉だけを伝えた。


いつの間にかシュミカも隣りにいる。

お前は後方支援でお願いします!


シュミカ「ん…僕たちは一緒に戦ってきた仲間。

     あなただけを危険に晒すなんて出来ない…。

     どこまでも見守る覚悟…。」


…絶対に何か仕掛けてくる!


俺「…頼むから他の人達には迷惑かけるなよ?」


シュミカ「ん…もちろん。

     僕が迷惑をかけて良いのはあなただけ。

     それに危険を感じる前にすぐに去る。

     …出来るだけこの顛末を間近で見たいだけ。」


そんな許可をした覚えはない!


シュミカ「ん…無事に済んだら、ちょっとしたサプライズを用意してある…。

     …ご褒美♪」

俺「やっぱり何か企んでるな!?被害を増やすような真似だけはするんじゃないぞ!?」


…と、そんなやり取りに興じていると、耳元で…


エイナ「ふふ…ボク、おねーちゃん達も大好きだよ…。

    でもゴメン、早く終わらせたいんだ…」


そんな言葉を囁かれたら、背筋がピンとなるだろう!


スッとギリアさんの顔を見て俺は頷く。


そしてギリアさんの号令と共に、洞窟内への進行が開始された!





…とはいうものの、例の魔物の巣まではしっかりと補強され、復旧し終えた洞窟なので何事もなく進むのだが…。


そんなこんなでいよいよ、この岩の先に進めばいきなりのボス戦である!


いやマジで…守って下さいよね!ギリアさん!

…と懇願する!


「では、いきますよ…。」


と、告げて、魔道士が腐食魔法で岩を土に返すと、数人程度が侵入できる穴ができた。


まずは兵士数人がそっとその中に入り、状況を確認する。


数人の魔道士達が光の魔法で辺りを明るく照らすと…それは居た。


一言で言えば、でっかい生き物。

形で言えば、よくある物語の中で出てくるドラゴン、正しく竜だ。


ただし、蛇の様な長い方ではない立ち上がって火を吐きそうな方のタイプの!


突然の光に驚いたのであろうソレは、グワっと身を起こして咆哮する!


いや、これ無理じゃね?

洞窟内に出来た空間は…簡単な俺の記憶の中で表現するなら…大きさはそれぞれあるだろうが、一般的と思われる学校の体育館2~3個分くらいだろう。


崩落した物を両脇に寄せたようで、天井はかなり高くなっている。

その空間で立ち上がり、天井まで少しくらいの大きさのソレは、慣れない明るさの中で今のところは何事が起きたのかの思考に真っ最中のようである。


シュミカ「…あ…アレは…、”普段は地中の土石を喰らいながら活動する竜”!」

俺「その名は!?」

シュミカ「…ん…今のがその名。」


俺「…?」

シュミカ「ん…この世界の魔物は多種で膨大。その上精霊達の気まぐれで生まれる

     突然変異や単一種も多い。特徴を探ってたらすぐに喰われる。いちいち

     名前なんか付けてられない。

     だからアレはソレ。まだいい方。これは嘘偽り無い情報…しかたない。」


スッとリアに目を向け、視線で真偽を尋ねると…「喰われようとしてる時に相手の名前なんかどうでもいいのよ!」…という言われてみれば当たり前の答えを返すように頷かれた。

…まぁ…ね。


シュミカ「ん…では今こそ僕が名をつける!

     その名も…土の竜!」


…モグラじゃねぇか…。


シュミカ「ん…こいつらは普段地中を掘って移動する。

     丁度よい空洞を見つけると巣を作り卵を産み、繁殖の準備をはじ

     める…。」

     

なるほど…つまりたまたまこいつが洞窟の上を通ったせいで崩落し、そこに出来た空洞に住み着いたという訳か…。


シュミカ「ん…日数を考えるとそろそろ孵化…。    

     その時期になると…こいつらはとても凶暴…。」


皆はそのあたりの状況を把握しているのだろう。

そうこうしている間にその竜を兵士たちか取り囲み、ギリアさんが前に出て皆に告げる。


ギリア「相手は竜!それぞれ対処に移れ!

    手の空くものは辺りを探索、卵を見つけ次第全て叩き割れ!」


いよいよ戦闘が始まった!

とは言え俺には出来ることも無く、たまに飛んでくる瓦礫などから逃げながら腕の中のエイナを守ろうと必死になっている。

多少優勢のようにも思えるし、エイナの力とやらを見れないのは残念だが…俺達はこの空間から避難したほうが、邪魔にならなくて良いのでは?

とエイナを見下ろすと…未だに震えながらも時々勇気を出す様に敵の方に目をやり、

その戦闘を見ている。


そうか…これはエイナに見せておかなければいけない光景なんだ…。

大切な人を奪う原因となった相手が倒される姿。

…逃げたりなんか、出来ないな。


傍らに付いてエイナを浮かせてくれているリアに目を移すと、

リア「まぁそれ程危険もなさそうだし…付き合ってあげるわよ…。」

と、しかたない…という表情に少し笑みを追加してうなづいてくれる。


とは言え相手も必死だ。

そう簡単には倒れてくれない。

長期戦になるのかな?…と思った時…。

ピクッとエイナが何かを見つけて反応した。


崩落時に取り残された人達も戦ったのだろう、その竜は現れた時には既に少し傷付いており、背中などにいくつかの剣などが刺さったままになっていた。


エイナ「あれ…ボクが…。」


すると辺りの空気がギンっと音を立てて冷たくなるように変わり…、


エイナ「…降ろして、アサヒ…。もういいよ…。」

と言ったエイナはスッと自分の足で立ち、ユックリとした足取りで戦いの渦中の方へと歩き出した。

お…凄い魔法でも見れるのかな?…とか思っていると役割を終えて速効で逃げ出したリアが居た場所に、零也が立っていた。


零也「いよいよですね…ありがとうございました。

   これで…あの子も本当に立ち直れるでしょう。

   近くで見守っていてあげてください…。」


と言い、俺の背中をポンと押し出す。

するとそれに連動して、


シュミカ「ん…防御魔法で守ってあげる…。少しくらいなら大丈夫。

     …あの子が苦難を乗り越える姿を見ていてあげないと…ダメ。」


と、シュミカが柄にもない良いことを言いながら俺の手を引き、ユックリと歩くエイナの方に向かう。

そう言えば突然身体が軽くなった気がする…具合が悪かったことも気がつけば忘れていた。

その時後方で…


零也「エイナの事、よろしく頼みますよ…。」


という声に振り返ろうとした瞬間、叫び声が響く。


エイナ「やっぱりだ!


    …ソレは…ボクがお兄ちゃんにあげたんだ…

    …おまえ……その剣の持ち主をどうしたの…?」


ビリビリと空気を震わせ、ゆら~~りとエイナが竜を睨みあげる。


エイナ「喰ったのかぁっ!!

あ゛あ゛あ゛ーーー‼︎」


と叫ぶとダッと駆け出し、戦いに必死な竜の尾を踏み台にして駆け上がり、頭の高さまで飛び上がると、ハァっ!と息を吐き出して渾身の突きを竜の顔面に叩き込んだ!

すると次の瞬間には竜の首から上は消し飛んでいた…。

一撃ですか!


軽い身のこなしでトンと地に降り立ったエイナは龍の体から一本の剣を抜き取り…。


エイナ「…これは…ボクがあげたんだ…お兄ちゃんにあげたんだ…」


とつぶやきながら竜の腹辺りを切り裂いている…。


なにこれ怖い…。

周囲を見ると、傷つきながらも戦いが終わった事に安堵している兵士たちが、離れて居たほうがいい…と言わんばかりに散り散りになり、辺りの探索に移った。

エイナのこういう一面も、もちろん皆は知っているのだろう…。

ギリアさんはその光景を黙って見つめている。

ちなみに俺はあまりのグロさに見ていられない。

興味津々に覗き込むシュミカは目を輝かせて高揚している…。


服が汚れるのも気にせずに、丸呑みにされたのだろう…まだ多少形を残した遺体たちを引っ張り出しながらブツブツ言っているエイナが一つの遺体を取り上げると…


エイナ「居た…

    …お兄ちゃん…迎えに……来たんだよ…。」


ペタッと座り込み、その遺体を抱きしめ、愛おしそうに頬ずりをしながら泣き叫びだす…。

慟哭…とはこういうのを言うのだろう…。

声を枯らしながら叫び続けている。

痛ましい光景だ…。

そこへ耳を疑うような叫びが混ざる。


エイナ「おにいちゃん!

    零也おにいちゃん!!」


なんとおっしゃいましたか?あなた!!


するとシュミカが俺の背中をポンっと叩き…。


シュミカ「ん…そう。

     その遺体はついさっきまで、あなたに取り憑いていた亡霊の本体…。」

俺「俺、取り憑かれてたの!?」

シュミカ「…ん、彼が見えていたのは、取り憑かれていたあなたと、神職の僕だけ。

     亡霊が取り憑いた相手から生命力を奪う時に見える光はとても綺麗…♪」


するとシュミカは声をころして肩を震わせながらプククク…と、笑いを耐えようとしている。

…このやろう…。

一番最初に言ってた良いものを見せて貰ったってそういう事か!


そのやり取りが耳に入ったらしく、ユラっとこちらに目を向けたエイナは…


エイナ「どういうこと…?

    零也お兄ちゃん…いるの!?…どこ…?」


見たことのない優しそうな表情を浮かべたシュミカはスッとエイナに寄り添い、あやすように頭を撫でながら…


シュミカ「…ん…今はもういない。エイナはもう大丈夫…と、去っていった。」


バレそうになったから逃げたんだろう!


俺「何だそれ…何かしらコンタクトを取らせてやれば良かったのに…。」

シュミカ「ん…それは無理。

     そもそもあなたに取り憑けたのも、多分同じ世界の人間で波長があっ

     たから。

     それ以外には触れられないし、声も届かない。」

エイナ「そうなの…。」


そうか、やたらシュミカが部屋の扉を開けっ放しにしてたのも部屋の出入りでバレないようにか…!

手の混んだ偽装工作までしやがって!


シュミカ「ん…ただ、彼からはエイナに伝言を預かっている。」

エイナ「…え?」

シュミカ「ん、『私のことを想ってくれてありがとう、エイナ。

        強く生きてお行き。

        それと、お父様のことは恨んではいけないよ。

        さようなら。』と、言っていた…。」

 

おい、なんか爆弾混ざってないか?!


エイナ「どういう…こと?」


すると、少し離れて話を聞いていたギリアさんは、スッと振り返りその場から離れようとする。


エイナ「ギリアっち…。

    何か知ってるね…?」


先程のような張り詰めた空気がかえってくる。

シュミカと零也はイタズラで国家転覆でもしようとしてたのかもしれない…。

あいつとんでもない悪霊じゃねぇか!


ギリア「あ…あのぉ……、お姫…様?」


エイナ「なにを知っているのかなぁ…」


ユックリとエイナの方へ振り返り、その表情にヒィっと声を上げたギリアさんは、

詳しくまでは知らないのだが…、と前振りをしてから語りだした。


どうやら話しによると、

城内のエイナの世話役達の中で、王様と親身にしていて腕は立つがエイナにロクでも無いことばかり吹き込む零也の評判は悪く、教育にも良くないとの事で、話し合った結果…せめて成人(この国では15歳らしい。)するまでの間、この国を離れる…ということになり、エイナには、腕を見込まれて隣国のクエストの手伝いと知らせてあったらしい。


シュミカ「ん…エイナに女装と露出癖を仕込んだのも彼。」


そりゃ国外追放にもなるわ。


シュミカ「ん…でも、この街の文化を広めたのも彼。

     この街の書き手が育つ前は殆どの作品を彼が作っていたらしい。」


それで少し古くて偏っていたのか…。


ある程度話を聞き終えて、少し落ち着いたのかエイナはスクっと立ち上がり、


エイナ「アサヒ…お兄ちゃんの事…運んであげて…。」


と言い放つと、きっと踵を翻し洞窟の入り口の方へと駆けて行った。

王様逃げてーーー!

走っていくエイナの姿を優しい表情で見送るシュミカは最後にこう付け加えた。


シュミカ「ん…零也は…流石にやりすぎたので反省し、納得して受け入れた

     …とも言っていた。

     最後のは彼への弔いを込めた僕なりのアレンジ…。

     ん…グッジョブ♪」

俺「国滅ぼす気かオマエーーー!!!」


…なんて恐ろしい女だ…。


俺「あれ…まずいんじゃないですか…?」


と、ギリアさんに尋ねると…


ギリア「…いや…流石に自分の父親の頭を吹き飛ばしたりまではしないと思うが…。

    私もこちらの後処理があるからね…。」


いや、王国の危機だろう!?

国王が変わる事になるぞ…?


ギリア「まぁ…ああなった彼は我々では止められんよ。

    ここは…祈ろう!」


王様の御冥福をか?!


実はずっとしゃがみこんで声を殺して笑っていたシュミカがハァハァ言いながら会話に混ざってきて、エイナが去って行った方角に遠い目をやり…


シュミカ「ん…大丈夫!

     報酬はギルドの方から支払われる。」


…鬼ですか…。

まぁ今更どうにもならない。

ここは王様の無事を祈りながら自分達の仕事をしよう。


ハァっとため息をついて気分を変えようとしていると、シュミカが何かを思い出したようだ。


シュミカ「ん!

     そう言えば零也からあなたにも伝言を預かっていた!」


俺「…なんて?」


シュミカ「『ごちそうさまでした♪』」


ちくしょう!

また現れることがあったら塩ぶつけてやる!




かくして今回のクエストは終了したわけだ。




そして俺は…王様がどうにかなってこの国の政治がどうなろうとも、

一観光客としてユックリ温泉にでもつかりたい…と切実に願うのだ。


…なんか二人に毒されてきたかもしれない…。



    

 




     








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