そして…お疲れ様でした!

さて、カットはしたが、今のこの状況を説明するには多少の情報提供は必要だろう。

よほど心身に負荷がかかっていたに違いない。


一般にも開放されているという大浴場、そこで血まみれの衣服を脱ぎながら崩れ落ちる様に深い眠りに落ちてしまったお姫様(♂)をその場にいた一般の方々でキレイに洗い湯船につけて温め、湯冷めなどをしないように身体を拭きあげた。


いや…いくら可愛らしい見た目とは言え、その場で手伝ってくれた人達は常識を持った立派な大人だ。

年端もいかない男の子…しかもこの国の王子様相手に、決して欲情などしない。

浴場で欲情などしない。


…なんて、某アニメで流れて来そうなモノローグを某有名声優の声で頭の中で流しながら、いつの間にか…というかメイドさん達が用意してくれたんだろう。

その衣服をエイナに着せ、背中に乗せてもらい眠ると途端に重さが増す身体を運んでいる最中である。


とは言え今歩いているのは城内だ。

途中に屈強な兵士さん達に会うこともあり、後はお任せしますとお願いもしたのだが…


「いえ!姫様はあなたに運んでいただけることを望んでおいでですよ!」


と、全て断られてここに至る。

一兵士が一国の王子の気持ちを代弁するんじゃない!


…もしかしたら俺の背中と腰に負荷をかけ続けるこの生物、実は俺が兵士さん達に声を掛ける度に背中越しに睨みを効かせているのではないのか…?とも思いもしたが…


まぁ仮にそうであったとしても、先程から静かにずっとこの耳を癒やし続けてくれている…この可愛らしい寝息に免じて追求することはしないでおこう。


ここまで愛されているのだ。

俺達が去った後も大丈夫だろう。


やがて部屋に辿り着き扉を開けると…そこには先程の殺伐とした空間は無く、ピカピカにリフォームされた空間が広がっていた。

こんな短時間に…こちらの世界に来てからの今までで一番の魔法を見た気分だ。


ただ…ベッドのサイズをダブルにするんじゃない!

どっかに覗き穴とか開けてありそうだ…。


それにこんな広いベッドだけが残っても…寂しさが増すだけだろうに…。


とにかく今日は俺も疲れた…。

零也の呪縛からも解き放たれた訳だし、久しぶりにユックリ眠りたい!

…あの野郎…まさか戻って来ていたりしないだろうな?

一抹の不安を抱えながらもエイナをベッドに降ろして布団をかけてやる。


この場合一緒に寝てやりたい気持ちもあるが…何かあれば壁の向こうに感じる気配を放ってらっしゃる方々が知らせてくれるだろう。


俺「じゃ、後はお願いしますよ-。」


と一言残し、壁越しにフラッシュライトの様な舌打ちを全身に感じながら部屋を後にした。


フラフラと廊下を歩いていると前方からリアが俺を見つけて駆け寄ってくる。


リア「もう、何処にいたのよ…。アサヒが来ないから夕食が始まらなくてウチの

   お姫様がご立腹なのよ!」


と、苦笑いを浮かべて拳を突き出してくる。


…ウチのパーティは、よほどの事がなければ、食事は出来るだけ三人で摂る…という何処かの作品から影響を受けたのであろう暗黙のルールが存在する…。


その突き出された拳に自分の拳を軽く当てて、


俺「ちょっとお客様の方のお姫様がね…。今、寝かしつけてきたよ。」


リア「そう、お疲れ様ね。

   …あまり感情移入しすぎちゃダメよ…。あんた壊れちゃうわよ☆

   

   こちらの世界では非情になることを薦めるわぁ♪」


ウチのお姫様は非情というより非道の方が当てはまるのだが…。

俺が現れない理由は何となくわかってるだろうし、さっさと食べてしまえばいいのに…それでも律儀に俺を待ってくれているのは少し嬉しくも感じた。


今後ギリアさんには頼れなくなる。

俺達は三人で生きていかなくてはならないのだ。

「仲間」「家族」…そんな言葉を脳裏に浮かべながら…ごちそうを前に「待て!」をくらっているであろうシュミカの顔を思い浮かべると…やはりため息しか出ないのだが…。


やがて、我々のお姫…いや女王様にたくさんの小言を喰らいながらも用意してもらった食事をいただき、

明日は早朝から合同葬儀が行われるのでそれぞれ早々に解散して部屋に戻る。


一つホッとしたことは、俺の料理に釘が入っていなかった事。

一つの不安は、この扉の向こうに零也の存在がある事!


そっと扉を開け中に入るが以前の様に体調が悪くなることも無く、変な気配も感じない。

本当に自ら成仏でもしてしまったのだろうか?

もしエイナに話したいこと等があるなら…俺が代弁してやるから、話しかけてくれてもいいのに…。

お前が愛していたエイナは…先程は少し笑顔をみせたが、明日の葬儀ではまた泣くのだろう。

始めて会った時に見せてくれた輝く笑顔をまた見せてもらいたい。


その為に必要な生命力とやらくらいならくれてやってもいいのに……などと思いを巡らせているうちに俺は深い眠りに落ちていったらしい…。

気がつくと朝になっていた…。




眠たい身体に鞭を打ち、昨日会った腐り系メイドさん達にこの国の正装、まぁ普通の礼服になってしまうのがこの国の文化、スーツ萌ってやつですか。

要するに偏りきったニッポンのアレに着替えて儀式の時を待つ。


やがて多くの人達が集まり、葬儀が始まった。


…この様な立地条件に有る街だ。

岩だらけで広大な共同墓地等が作れる土地もない。

遺体はまとめて火葬。

…それで終わりである。


…やはり最後まで泣き喚いていたあちらのお姫様は…泣きつかれたらしい。

未だに生傷が癒えず、痛々しい姿の王様…を支える人達の手によって部屋の方へ運ばれて行く…。


で、こちらのお姫様二人は…麓へのルートが明日には開通しそうとの知らせを受けたので、最後まで楽しむ気満々である。


今回のクエストは全て終了!


そして…次の予定が決まっているのはギリアさんだけなので、出発は二日後に決め、受け取った報酬を分配して今日と明日は自由時間と決めた。







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