第39話 びば
鈴木の導くままに直進し、くまーパンチで次々と迫る敵を葬っていく。
ここを左だったな……。
「くまあ……」
うはあ。気持ち悪い。
ドロドロした異臭を放つぶよぶよした結んだゴミ袋みたいなモンスターが視界に映る。
色は黒で、中に満タンまでゴミを入れて結んだゴミ袋といった見た目なんだけど……結び目からウネウネした髪の毛状の何かが無数にでろーんと伸びているじゃねえか。
「あれがデビル化モンスター?」
鼻に手を当てこれでもかとばかりに眉をしかめるスイは、背中のアームでバツマークを作る。
器用だな……。
「くまあああ(鈴木、行くがよい)」
俺の足元にいる影こと鈴木へ向けくいくいっと手首を動かす。
しかし、鈴木は身動き一つしない。
「ソウシくん、補助魔法をかける?」
ユウの呑気な声へ首を振る。
「ソウシちゃん、回復は任せてえ」
アヤカの渋いボイスにも俺は動じず首をぶんぶんと振った。
ん、俺の肩をアームが掴んでいるじゃねえか。
「くま?」
「大丈夫。あなたならいける」
「くまくま!」
だから、さっきから行きたくないと首を振っているじゃねえか。
俺の必死の抵抗も虚しく、ゴミ袋へ殴りかかることになってしまった。
アメリカンに肩を竦め困ったポーズをするが、かわうそが「うそ」と呟いた以外に誰からも反応がないじゃねえかよ!
仕方ない。悲しいことに俺が前衛なんだもの。
ゴミ袋の奴、俺が近寄っても攻撃してこようともしねえし……一体何なんだよ。
そーっと、そーっと叩こう。
撫でるようにぽこんと張り手をゴミ袋のどてっぱらに放つ。
うわあ……ぶよぶよしてるう。感触はこの上なく不快感を煽る。
「くまああ!」
そんなに強く叩いていないのに、口からどばああっと蛍光緑の液体が噴き出してきたああ。
どうやら強い酸性の液体みたいで、床からしゅうしゅうと煙があがっている。
ちょっと待て、実験をするんじゃなかったのか?
デビル化モンスターを俺たちでも浄化できるかどうか試すんだよな?
俺が殴る必要ってあったっけ……。
事実に気が付いた賢い俺は後ろへ首だけを向ける。
スイが口元を歪ませ、首をかっきる仕草をしているぞ。
いやいや、待て待て。
ゴミ袋を倒しに来たんじゃなくて、浄化しに来たんだろ?
「ソウシ、まずは普通に討伐よ。デビル化モンスターはまだまだいるんだから、どうなるか試してみましょう」
「くま……」
ゴミ袋ってゴーレムやスライムと同じでコアを破壊するタイプのモンスターに思えるんだけど……。
となるとだな、ゴミ袋を破くか口から手を突っ込んでコアを握りつぶさなきゃならないんだぞ。
それを俺にやれと?
嫌だああああ。
そんなわけで、今度は力一杯にゴミ袋へくまーパンチをかます。
ぶよよよーん。
口から勢いよく蛍光緑の液体が噴き出すだけで、ゴミ袋自体はその場を動かず破れることもなかった。
「くま……?(中の液体が減ればなんとかなるか)」
何回もあのぶよぶよ感触を味わう必要があるのが、この上なく嫌だ。
しかし、他に手はない。
スイの魔法で爆発四散して悪臭の勢いを増したら……とか思うと彼女に手伝ってもらうのも躊躇する。
右腕を振り上げたままプルプルと震わせる俺に対し、ゴミ袋は相変わらず何もしてこない。
そんな中、かわうそがトコトコとこちらに歩いて来て俺の足に爪を立てるとそのまま頭の上まで登って来た。
『ソウシ、潜るうそ』
「くま……(何言ってんだよ)」
かわうそが立ち上がり、祈るようなポーズに。もちろん俺の頭の上で。
『かわうそアイ!』
ま、眩しい。
俺の両目を黄金色の光が覆う。
『見て見るうそ』
あー、見えるよ。
見えちゃったよ。見たくないものが。
ゴミ袋の中にスカイブルーのクリスタルが見える。あれがコアだろうなあ。
『潜るうそ』
「くまくま!(かわうそが潜れよ)」
ひょいっとかわうそを掴もうとしたら、あっさりと躱された。
相変わらずすばしっこい奴め。サイズが小さいから掴み辛いってのもある。
あ、そうだ。
両手を開き、しゃがみ込むとゴミ袋の底をむんずと掴む。
「くまあああ!(ひっくり返せばいいんだ)」
立ち上がる勢いそのままに、ゴミ袋を投げ上げる。
見事ゴミ袋は空中でクルリと半回転して上と下が反対向きになった。
が!
ドバドバドバ!
蛍光緑の物凄い悪臭を放つ体液がバケツをひっくり返したようにこちらに向かってくるじゃねえか。
短絡的に動き過ぎた。こうなることは予想できたじゃねえか。
こ、ここは。
「くま!」
かわうそを掴み……ってまた掴み損ねた。
ドバシャーー!
まともに緑色の体液を浴びてしまう。
続いてスポっとゴミ袋の口が俺の頭にはまる。
コツン。
何か硬い物が頭頂部に当たった。
あれ、頭の上にはかわうそがいたはずじゃあ?
いつの間にか逃げやがったなあいつ。
あまりのかぐわしい香りに涙をためながらも、急いでゴミ袋を引き離した。
ポイっとゴミ袋を遠くに投げ、ふうと息つく。
カラン。
頭を振ったからか、さっき頭に当たった何かが床に落ちる。
落ちた何かに目をやると、スカイブルーのコアだった。
こいつを握りつぶせば終了だな。
膝をかがめてコアを握り……。
「くまあああ!」
コアがドクンと波打ち太陽の光みたいな強い閃光が迸る。
それと同時にコアがみるみるうちに形を変えていく。
こ、これは獣耳パーティの時にあった謎の現象じゃないか。
慌ててコアを投げ捨て、距離を取る。
光が晴れた時、そこに立っていたのは――。
茶色い毛皮と長い二本の前歯を持つ小動物だった。
尻尾がペタンとした舌のような黒色で、つぶらな瞳も同じ色をしている。
口を小刻みに動かすそいつは……水辺のお友達ビーバーさんにそっくりだ。
「びば?」
喋りやがった!
しかも無駄に可愛い喋り方だし!
ワナワナと震える俺は、こいつにどう対処したらいいものか後ろを向く。
「私たちの戦いはこれからよ!」
スイの声が聞こえたような気がした。
坂エンド。
うみてんてーの次回作にご期待ください。
※打ち切りで申し訳ありませんでした。
もう一作のハウジングアプリの方と作風が被ってきてしまいましたので、断念いたしました。
次回作もよろしくお願いいたします。
うみ
異世界の大迷宮で道先案内人はじめました~実は変身したら最強のシロクマになりますが秘密です~ うみ @Umi12345
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