第29話 ユウ……
あれから一週間が過ぎたけど、モンスターが変化する現象が起こった様子はない。
俺が接触したから説なのか、スキルによるものなのかまだ保留中ってところだ。このまま何も起こらない方がよいんだけどね。
最近「迷宮案内人」の仕事はひっきりなしに依頼が舞い込んでいて、忙しいけどカルマは順調に溜まっている。
「ソウシくんー。今回はイケメンのおじ様達ねえん」
アヤカがウキウキした様子で怪我して頭から血を流した中年の髪の毛が薄くなったおっさんを連れて行く。
俺はさきほどテレポートで深層に飛ばされたしまったパーティを教会へ連れてきたばかりだ。
エレベーターに乗るところまで鈴木と一緒だったんだが、いつのまにか彼はいなくなっていた。
「よっと」
さて行くかと一歩進んだところで、スイが鈴木と共に姿を現す。
彼女らの足元にはハンターが四人うつ伏せに寝そべっていた。
「おお、救出作戦に行っていたのか。お疲れー」
右手をあげると、鈴木が顎をふんとあげる。
スイはスイで首を回し腕を伸ばして「んーっ」と可愛らしい声を出していた。
当たり前だが、俺が案内するパーティ以外にも迷宮に挑むハンター達は多数いる。
いや、多数いるようになってきた。
俺たちの営業努力の甲斐があって、最近大迷宮に挑むハンター達がうなぎのぼりに増えてきているのだ。
そこで、監視能力に優れる鈴木が目を光らせピンチに陥ったハンター達を救出したりしている。
俺も「迷宮案内人」から手を引いて、裏方に回ろうかとも思ったんだけど……知らない人を救出するより知っている人を救出する方がカルマの稼ぎが遥かに良いんだよね。
ハンター全体のレベルも上がってきているから、俺はこのまま「迷宮案内人」を続けていくことになった。
その分、手があいた時にスイやユウが鈴木を手伝っている。
もっとも……俺の呼び出しと被らない限りは彼一人で事足りるんだけどね。
アヤカ? 彼は無理だ。レストランのシェフやらウェイトレス(誤字ではない)をやりつつ、教会で治療までこなしているんだから。
そもそもこれだけの仕事を一人でこなすこと自体無理がある。彼以外に全部の仕事をこなすことは無理だと思う。
「じゃあ、お店に戻るわね」
「我もザ・ワンへ戻る」
二人はアヤカが来るのも待たずにそのまま教会を出て行ってしまった。
彼らは俺と違ってハンター達が目覚めるのを待つ必要がない。逆に目覚めるまでここにいない方がよい。
ハンター達の目が覚めて、いろいろ聞かれると説明が面倒臭いからな。彼らは辻救出なわけだから。
「俺も宿に戻るとするか」
ふあああとあくびをしながら、俺も教会を後にする。
◆◆◆
「あ、案内人さんー。暇してるー?」
宿に入るなり俺の姿を見つけたウサギ耳のミーニャがぷるるんを震わせながらブンブンと手を振った。
彼女のいる席にはいつもの三人の獣耳さんたちもいるようだな。
ちょうど食事を食べ終わった後みたいで、紅茶のカップだけがテーブルに置いてあった。
「ちょうど案内を終えてきたところでして。どうしました?」
「また案内人さんにお仕事を依頼したいんだけど、いつなら大丈夫?」
「明日なら空いてますよ」
「じゃあ、明日お願いしてもいいかな?」
「はい。よろこんで」
おー。明日はミーニャ達の案内か。彼女らは堅実な冒険をするから、教会行きは恐らくないだろう。
この前みたいな例外があったら話は別だけどね。
「じゃあ、また明日の朝にここででいいですか?」
「うん。それと、案内人さん、この後は?」
「今日はさっき教会に行ってきたんで終わりです」
「また大活躍したんだー。すごいにゃー!」
ミーニャと俺の会話へ猫耳さんが割って入る。
猫耳さんは赤色の髪をしたくせっ毛のショートヘアーでくりくりした目が可愛らしい。ミーニャと違っておっぱいは普通だけど、しなやかな肢体は身軽さが要求される盗賊系の職業が天職といえるだろう。
「あちゃー。パーティが全滅しそうになっちゃったんだね」
俺の帰りが早い事からミーニャは察したようだ。
「そうです。無謀にも宝箱をそのまま開けちゃいまして」
何もなければ夕方まで大迷宮の案内を行うんだけど、教会行になるとその場で案内は終了となる。
「髭のハンターから聞いたわ。宝箱の罠には転移の罠があるんだよね」
「そうです」
「転移の罠は眠りの罠も一緒になっていて……って聞いたよ」
「そ、そうです」
なるほど。ハンター達の間ではそのように解釈されているのか。
テレポートを喰らうともれなく百階より下まで転移するから、即「鈴木ー」からのハンター達に眠ってもらい「くまーパンチ」が定番だ。
最初、テレポートの罠とか酷いなと思ったけど、今やこいつは俺たちに欠かせない罠になっている。
テレポートが発動すると確実にカルマが手に入るんだからな。先日、テレポートの罠確率を増やすか増やさないかみんなと議論したけど、一旦は保留とした。
というのは、現状ハンター達がどんどこ増えている。なので、手が回らなくなるかもしれないと懸念したってわけだ。
「あ、あの。どうしたんですか?」
猫耳さんが急に俺の腕へぺたーっと張り付いて来た。
戸惑う俺をよそに彼女はにまーっと微笑み、「こっちこっち」と俺の腕を引く。
「まだ食事中じゃ?」
「ううん。もう終わったから移動しようとしていたところなの」
そう言ってミーニャと残りの二人も立ち上がる。
「あ、あの。えっと……」
「ルッカがキミも一緒に来てもらいたいみたい」
「どこに行くんですか?」
「『どりーむこすちゅーむ☆』だよ。装備ができたってお姉さんがいってたにゃ」
ん? 何だその聞きなれない名前は……。
あ、ああああああ。
ユウの「めるふぇんショップ」の正式名称か。確か看板にそんな名前が刻まれていた気がする。
この前、可愛い装備を……ってユウからの依頼を彼女らが受けていたよな。噂の装備とやらを是非是非見たいと思っていたところだったんだ。
「俺も行っていいんです?」
「問題ないと思うわ。もし店主のユウさんから何か言われたら、彼女にお願いしてみるから」
「は、はい」
ユウが否とは言わないと思うけど、彼女との「表」での関係性を決めてなかったな。
ま、いいか。彼女は腹芸が出来る人じゃあないから、いつも通りで行こう。
◆◆◆
そんなわけで、やってまいりました「めるふぇんショップ」。
この前来た時よりめるふぇん度が増しているような気がするけど、どこが変わったのかは分からない。
扉を開るとファンシーな音が鳴り響き、奥からユウが俺とウサギ耳さんパーティを迎え入れる。
「やっほー。ソウシくんー」
「こ、こんにちは」
真っ先に俺に来るところじゃない気が……。曲がりなりにもお客様が四名もいるってのに。
「案内人さん、お姉さんと知り合いだったのかにゃ」
まだ腕に張り付いている猫耳さんが俺の顔を見上げる。
「そうなのー。ソウシくんは『いい人』なのー」
ま、待って。そこで「いい人」というのは別の意味に捉えられるって。
ワザとだろ……。
ユウは普段ぽやぽやしているのに、からかう時だけはやたらと切れるんだからたちが悪い。
「案内人さん、彼女さんがいるってミーニャから聞いてるにゃ? ここのお姉さんだった?」
「違うわよ。ルッカ。案内人さんの彼女さんはキリッとした目をした金髪ポニーテールの可愛い子よ」
あ、そこ、勝手に変な知識をユウに植え付けないで……。
予想通りユウがすんごくいい笑顔で口に手を当てているじゃねえか。
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