第30話 新たな従業員
「へえーソウシくん、彼女かあー」
「え、えっと……」
「じゃあー、わたしは何なのかなー」
ま、また勘違いされるようなセリフを!
も、もう俺、帰っていいかな……。
「修羅場!? 修羅場っすか!」
普段あまり喋らない狸耳さんが目を輝かせて嬉しそうに叫ぶ。
ひ、酷い……可愛い衣装を着る猫耳さんたちを見に来ただけなのに……。
「案内人さん、純朴そうに見えて……にゃー」
こらあ。猫耳さんの腕に力が籠り、彼女の胸がぎゅーっと押し付けられ……。
で、でも革鎧という天敵がいるため、まるで柔らかさが伝わってこない。
「あらあらー。スイちゃんもうかうかしてられないかなー」
「ちょ、ユウさん。からかわないでく、だ、でええ」
「動揺しすぎだよー。ソウシくんー」
「で、でもですね……」
左の二の腕へ極上のマシュマロがむにゅーっとむにんむにんしてるんですよ。
自分でも何言ってんのか分からなくなってきた。
俺だって男だ。なので、両手に花は妄想したことあるし体験してもないのにでへでへと一人ベッドでニヤついたことだってある。
だ、だが、いざ両側から可愛い子と美女に挟まれたらあたふたしてしまうって。
他の三人もいい笑顔で俺を見ているしさ……。
「ソウシくんで遊ぶのはこのくらいしてー。装備はできているから取ってくるねー」
「……」
思い出したように俺から離れたユウはくるりと背を向けた。
恨めしく彼女の背中を追っていると、カウンターの前で再びこちらに顔を向け木漏れ日のような笑顔を浮かべる。
「じゃあ、まずはミーニャちゃんのからー」
お、おおい。
アイテムボックスから出しちゃうのかよ。ま、まあいいか。
俺がアイテムボックスを使えることは公言しているし、彼女が使えたとしてもハンター達はふーん程度ですむだろ。
でも、俺と違って彼女は武器防具を作る生産職と外に知れている。
ひょっとしたら、アイテムボックス目的の誘拐なんかが発生するかもしれないじゃないか。
捉えられたユウは言うことを聞かせるために、夜な夜な男達に……。
う、うおお。
「ユウー!」
思わず彼女の名を叫ぶと、みんなから注目を浴びてしまった。
「突然どうしたの? 案内人さん」
あっけにとられた様子でミーニャが呟く。
「あ、いや……ユウも俺と同じでアイテムボックスを持っていたんだなあって」
「便利なスキルよね! あたしも使えたらなあ……」
「そ、そうだな……ははは」
よくよく考えてみれば、か弱そうに見えるユウは……トランスせずともレベル八十オーバーである。
戦闘スキルはそれほどあげてないと思うけど、それでも身体能力だけで並みの暴漢じゃあ相手にならない。
それに……トランスしたら……アラクネーの糸で自分が縛られていやーんプレイされるどころか、相手を全て楽々縛り上げてしまうだろう。
「ソウシくんー。おいたがすぎるとー縛っていたずらしちゃうぞー」頭の中にまたしても半裸のユウがそんなことをのたまってほほ笑む姿が浮かぶ。
い、いかんいかん。
何を考えてんだ俺は……。
一人で頭を抱えたり、首を振ったり、にへえええっと変な顔をしたりしていたら獣耳さんたちのお着換えが終了したようだ。
ハンター達も俺たちと同じようにコマンドメニューから装備を変更するんだろうか? だったら、装備の変更は一瞬でできるけど。
ちゃんと見ておいたらよかったぜ……。
いざという時に装備変更の助言もできるかもしれないからさ。
「あ、戻って来た。案内人さん、これどうかにゃー?」
猫耳さんの衣装が変わり過ぎていて変な声が出そうになった!
クリーム色のホットパンツに白の革ベルト。革ベルトにはお尻の上辺りに小さなポーチがついている。
上はベルトにかかるほどの裾の長さがあるグレーのアンダーウェアの上から胸だけを覆うクリーム色の革鎧を装備していた。
足元もブーツじゃなくて、スポーツシューズみたいな見た目で革鎧を除けば日本を歩いていても変じゃない衣装だな。
「猫耳さんの雰囲気によくあっていると思います! 音も立てないように配慮されていると思いますし!」
「そうかにゃー。えへへ」
猫耳さんはその場でくるるんと一回転して頭に手をやる。
「案内人さんがトリップしていたからこの場で着替えちゃった」
ごめんねと胸の前で手を組むミーニャ。
「ん? 装備変更したんですよね?」
「うつろな目をしていたから、見ていないと思って……ね!」
え、ええええ。
生着替えしなきゃいけないのか。ハンター達は。
それだと武器はともかく防具はそうホイホイと装備変更できないってことか。
それよりなにより、俺は何で変な妄想にひたっていたんだよ! ち、ちくしょう。
それにしても、みなさんパステルカラーがどこかしらに混じっていて無骨なハンター用装備とは趣が異なる。
可愛らしくていいんじゃないだろうか。スカートもちゃんと短いし!
一つだけ残念なのは、戦士系の犬耳さんがビキニアーマーじゃなかったことくらいだな。
ファンタジーな女戦士の定番はビキニアーマーじゃねえのかよ!
……でも、ビキニアーマーな人を見たことが無いな……流行ではないってことか。
釈然としないまま、めるふぇんショップを後にする。
◆◆◆
夕方近くになり、昼も食べていなかったから腹が減って仕方がない。
というわけで、アヤカの料理を食べるため冒険者の宿へ顔を出す。
「いらっしゃいませー。あ、ソウシ兄ちゃん!」
「ふぁ?」
誰? 俺のことを兄ちゃんなんて呼ぶ少女は……。
どうせ呼ぶなら「お兄ちゃん!」の方がいいと思うけど。
歳の頃は小学校低学年くらいかなあ。俺の腰くらいまでの背丈でさらさらの髪を首元で切り揃えている。
きている服は黒と白のメイド服。ウェイトレスをイメージしてのものだろう。
「ハルよ。可愛くなったでしょー」
アヤカが少女の横に並び、彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
「え、ええええ。ハル!? 女の子だったの?」
「う、うんと……」
俺の質問にハルは困ったように頭に手をやり首を捻る。
戸惑っている間に、アヤカの顔がドアップになり、俺の耳元に息を吹きかける。
「な、なんすか……」
身の危険を感じつつもなんとか絞り出すように声を出す。
「可愛かったから、ああしたのよお。将来が楽しみだわ」
アヤカが不気味な笑みを浮かべ、両手を頬にあてくねくねした。
耳元で囁くにしては声が大きすぎだろ! 耳がキンキンしてきたよ。
「ってことは男の子なんですね……」
「……うん。でも、アヤカ姐さんがこうしろって。その方がお客さんが喜ぶって!」
「そ、そうか……で、何でハルがここへ?」
「それは語るも涙なのよおん」
おっと、おっさんが俺とハルの間に入ってきた。
突然視界に入ると怖いから……。
「ハル。何があったのか教えてくれるか?」
「うん! ソウシ、ご飯を食べにきたんだろ? 食べながらでもいい?」
「おう。その方が助かる」
ハルに案内されて席につく俺であった。
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